日本の“端”から考えるコロナと国境の未来
日本は広い。いや、国土面積の話ではない。島国だから実質面積はそれほどでもないが、国土を囲む太平洋や日本海、東シナ海のはるか向こうまで、日本領の島が広がっている。その東西南北の端までの距離は何千キロにも及ぶ。
私は先月、お笑いタレント、コロッケさんのリモート配信の取材で沖縄の石垣島を訪れた。12月だと言うのに、まるで真夏の日差しで、スタッフはみな半そでのTシャツ姿で作業をしていた。大阪や東京では誰もがコートを着込んでいるし、北海道では雪が降っていることだろう。しみじみ「日本は広い」と感じた次第である。
その広い日本の隅々まで、コロナ禍に巻き込まれている。ニュースを見れば、東京や大阪など“密”な大都市で感染者が多いと話題になることが多い。でも、日本は広いのだ。いつも中央目線ではなく、時には“端”からの目線でコロナ問題を考えてはどうだろう? そんな発想の催しが開かれることになった。
日本の西の端で台湾と向き合う沖縄県与那国町。その近くで、人が住む島として最南端の波照間島がある沖縄県竹富町。東の端、南鳥島がある東京都小笠原村。実質的に北や東の端に近く、ロシアと向き合う北海道の稚内市、根室市、礼文町、標津町。朝鮮海峡を挟んで韓国と向き合う長崎県対馬市。東シナ海を挟んで中国と向き合う長崎県五島市。これら国境地域の9つの市と町の首長が意見を交わす。こうした自治体や研究者らで作る「境界地域研究ネットワークJAPAN」が主催する。
広い日本の“端”に位置する市長や町長が一堂に会するのは大変だ。それでも実際に会うことに意味があると、当初は与那国町での開催を検討した。しかしコロナ禍のさなか、結局オンラインで各首長を結んでリモート開催することになった。
前半のテーマは「境界地域と感染症」。日本の“端”で隣国と向き合う国境の市や町ならではの発想で、コロナ対策について意見を交わす。後半は「国境を紡ぐ航路の未来」と題して、稚内市(サハリン航路)、対馬市(韓国航路)、与那国町(台湾航路)の担当者が、それぞれ対岸の外国との航路開設を巡る課題について語り合う。
国境学の専門家 岩下明裕 北海道大学教授
前半の司会を務める北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの岩下明裕教授は、実は私の小学生時代からの友人で、中学・高校と同じ学校に通った。
ともに関釜フェリーに乗って軍事政権下の韓国に渡り(1986年)、ともにマンギョンボン(万景峰)号に乗って金日成主席時代の北朝鮮に渡った(1991年)仲間でもある。
彼はその後、国境研究で名をはせ、北方領土問題の第一人者と目されるようになった。NHKや新聞にコメントを求められることもたびたびある。その岩下教授が語る。
「端っこだからこそ見えるものがあります。リモート開催ですから、国内外のどこからでも参加できます。ぜひ多くの方に見て頂き、境界地域から見えるコロナ問題について考えてほしいと思います」
開催は今月23日(土)午後1時半から5時半まで。参加は無料だが、事前登録が必要だ。受け付けは、あす20日までなので、皆さん、Hurry up!
下記の参加登録フォームより申し込みできます。
https://zoom.us/webinar/register/WN_ljc_0CKSSM6om_07mlJeZw
石垣市が国境イベントに参加しないワケ
…と、ここでお話は終わってもいいのだが、こぼれ話を一つ。私は先月、石垣島を訪れたばかりなので、一つ気になったのだ。なぜ、この“国境の自治体”イベントに、石垣市は参加していないのだろう? 石垣市は、イベントに参加する与那国町や竹富町のすぐそばだ。竹富町など、町役場が石垣市にあるくらいだ。
石垣市の中山義隆市長は、沖縄県内の保守系市長で作る「チーム沖縄」のメンバーで、石垣市に所属する尖閣諸島への上陸に意欲を示している。コロッケさんが市長を表敬訪問した際も「尖閣のことを取り上げてほしい」と話していたそうだ。
私は岩下教授に尋ねた。
「石垣市長が右翼だから(ロシアや中国との共存を唱える)教授が嫌われたの?」
すると岩下教授。
「いや、それはあんまり関係ないんじゃないの。(イベントに参加する)竹富町長は、もっと日本の防衛や領土問題に熱心ですよ」
「石垣が参加しないのは、自分たちは境界ではなく地域の中心だと思っているからじゃないかな? 私たちはぜひ仲間になってほしいと思っているけど、あまり関心ないみたい」
なるほど。本州から見れば、いや、沖縄本島から見ても“端”に位置する石垣島だけど、竹富や与那国を含む八重山列島として見れば、石垣は確かに中心だ。ものの見方は、どこに立ち位置を置くかで変わるものだと気づかされた。
【執筆・相澤冬樹】