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強行出場の美学は今の時代にはそぐわないが…?2敗6人で混戦続く優勝争いの本命は?

飯塚さきスポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

強行出場の琴奨菊と石浦

二人の力士が、負傷しながらも本場所の土俵に挑んでいる。一人は、二日目の明生戦で左ふくらはぎを負傷し、三日目から休場するも、七日目から再出場した琴奨菊。復帰戦となった炎鵬との取組では、小兵の炎鵬を立ち合いから押しつぶすような形で白星を挙げたが、中日の豊昇龍戦では、土俵中央から力なく土俵を割ってしまった。

九日目の徳勝龍戦では、がっぷり四つに組むも、得意のがぶり寄りを繰り出すこともできず、土俵際での突き落としに敗れた。休場時に出た診断書は「左下腿肉離れにより全治2週間の見込み」とのことだったため、やはりまだ治癒はしていないのだろう。

さらに、右足首の骨折で初日から休場していた石浦も、中日から出場。今場所初の対戦相手となった志摩ノ海から強烈なおっつけを受けるが、頭をしっかりとつけて左前みつを取り、華麗な下手投げを決めた。

出場と同時の白星となったが、心配だったのは取組後。勝ち名乗りを受けるために蹲踞するも、右足をかばうように体重を傾け、痛みをこらえるような表情を見せた。続く九日目は、それまで8連敗だった松鳳山を相手に、立ち合いから攻め込んだものの、土俵際で逆転負け。これで負け越しが決定してしまった。

十日目となる今日は、この両者の対戦が組まれている。ハンデを抱える両者は、どんな取組を見せるのだろうか。

力士のケガと出場・休場

琴奨菊は前頭11枚目、石浦は13枚目。大きく負け越せば十両陥落を余儀なくされる位置であり、だからこそこうして一つでも星を伸ばすために、ケガを押してでも出場している。しかし、無理せずにしっかりと治してから、強い姿で土俵に上がってほしい、そして少しでも力士生命を維持し、長く取ってほしいというのが多くのファンの願いであろう。「土俵のケガは土俵で治せ」という超理論や「ケガを押してでも強行出場する美学」は、スポーツ医科学がここまで発達した令和の時代には、もうそぐわない気はする。

一方で、ケガの程度や治り具合は、本人の主観と医師ら専門家による客観的な目線でしかわかり得ない。力士自身は、どんな状況でも常に出たい気持ちがあるのは当然であり、実際に出場するか否かは本人と師匠の判断となる。元豪栄道の武隈親方が、ケガしても絶対にテーピングをせず出場し、涼しい顔で「大丈夫」と言い続けた“やせ我慢の美学”は、彼なりの力士としての在り方だった。

出場・休場、どんな判断であれ、筆者はその決断には尊重の意を示したい。だからこそ、出るならば見る側に心配をかけない状態で出てほしいし、「ずっと休んでいる」状況でも、それは後に強い姿を見せてくれるために必要な期間であると捉えたいのだ。

琴奨菊・石浦両力士には、「余計なお世話です」と言われても致し方ないのだが、とにかく筆者はお二人に一番でも長く取っていただくために、“やせ我慢”もできないほどに状態がよくないのであれば、無理をしてほしくない気持ちである。

優勝争いの行方は?

最後に、今場所の優勝争いを占っておこう。

九日目終了時点で、2敗は貴景勝、正代、照ノ富士、若隆景、阿武咲、翔猿の6人。3敗は、朝乃山、霧馬山、高安、琴勝峰の4人。ここからは2敗の生き残り戦となりそうだが、上位は星のつぶし合いをすることが予想されるため、平幕の力士にも十分チャンスがあるといえるだろう。

筆者の予想はというと、ここまでの調子を客観的に鑑みた結果、本命は貴景勝と書いておく。願望を言えば、今場所特に立ち合いの踏み込みがよく、驚くほどの強さを見せている関脇・正代に初賜杯をもたらせてほしいとも思うのだが、期待がかかったときのメンタル面が克服されているかは、現時点ではわからない。また、照ノ富士連続優勝の可能性も大いにある。しかし、ここまでで盤石の強さを誇っているのは、やはり大関なのではないか。

突き押し相撲は、何があるかわからない。しかし、そう言われ続け、それをよくわかっている大関だからこそ、そこを打破しようと誰よりも燃えているはずなのだ。その信念と精神への期待も込めた優勝予想である。

混戦必至の秋場所。後半戦も見守っていきたい。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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