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堺市の児童自立支援施設「建設中止」問題が住民訴訟に

幸田泉ジャーナリスト、作家
提訴後、記者会見する訴訟原告と弁護士=2023年1月10日、大阪市北区で筆者撮影

 堺市が児童自立支援施設の建設を中止し、大阪府立の施設の建設費用を負担する問題で、「堺の子どもたちを守る市民の会」(櫻井利彦会長)の堺市民3人が1月10日、大阪地裁に住民訴訟を提訴した。「府立の施設建設費用を堺市が負担するのは地方財政法に違反する」とし、永藤英機・堺市長らにこれまで支出した約2100万円の賠償などを求め、今後、支出予定の約2億7500万円は支払わないよう求めている。

住民監査請求では「地方財政法違法」との意見も

 児童自立支援施設は、不良行為などによって家庭で養育が困難な子ども(主に小中学生)が入所する児童福祉法に基づく施設。学校と寝食の場である寮舎を備え、都道府県と政令指定都市に設置義務がある。2006年に政令指定都市になった堺市は、竹山修身市長時代の2012年に児童自立支援施設基本構想を策定し、2018年に建設用地を6億6669万円で取得、定員40人の施設が2025年に開所予定だった。

 住民訴訟に発展することになったのは、2019年の堺市長選で「大阪維新の会」の永藤市長に政権交代したのが発端。永藤市長は堺市立の児童自立支援施設の整備計画を撤回し、引き続き大阪府立の同施設「修徳学院」(大阪府柏原市)に事務委託する方針に変更した。

 大阪府と堺市は2021年11月、事務委託の継続にあたって必要な施設整備は堺市が負担することで合意。10人定員の寮舎を11棟運営する修徳学院で、老朽化していた1棟の建て替えと1棟を新築する費用を堺市が負担することとなった。

 住民訴訟に先立って原告らは2022年10月に堺市監査委員に住民監査請求を行った。監査委員4人の意見は、「違法性あり」と「違法性なし」に割れてまとまらず、同年12月、「合議不調」で監査を終了した。

 地方財政法27条1項は、都道府県の行う建設事業はその区域の市町村に対して「受益の限度において、経費の一部を負担させることができる」と規定している。この条文に違反するとした監査委員の意見は「寮舎2棟の建設事業の一部ではなく全額を堺市が負担するのは、受益の限度を超えている」というもの。一方、違反しないとした監査委員は「寮舎2棟を建設することで、修徳学院に堺市の子ども20人分の定員が確保される。堺市が建設費用を支払うのは受益の限度における負担である」と判断した。この点が裁判でも争点となる。

維新政治家による形を変えた「大阪都構想」なのか

 「堺の子どもたちを守る市民の会」は、堺市に児童自立支援施設の整備を求める市民運動の中から結成された。原告の1人で堺市里親会会長の門屋智津子さんは、提訴後の記者会見で「府立の修徳学院だけではキャパシティが十分ではなく、入所させた方がいい子どもが入所できないこともあり、堺市に40人定員の施設ができるのを心待ちにしていた」と言い、「大阪府に事務委託するのではなく、堺市は政令指定都市の義務を果たし、困難を抱える子どもたちを生きやすくしてほしい」と訴えた。また、原告の森田房樹さんは「堺市立の児童自立支援施設は長い時間と労力をかけて準備してきたのに、永藤市長がちゃぶ台返しをした。撤回する正当な理由がない」と述べた。

 竹山・前堺市長の時、「大阪維新の会」の橋下徹・元知事、松井一郎・前知事(現・大阪市長)は「堺市は政令指定都市なのだから、児童自立支援施設を府立に頼るのではなく自前で整備するべき」との意向で、竹山・前市長はこれを受けて施設整備方針を決めた。

 それを撤回したのは、「大阪維新の会」の永藤市長だ。堺市に児童自立支援施設の整備を求めたのも維新政治家で、取り止めたのも維新政治家である。原告の櫻井利彦さん(堺の子どもたちを守る市民の会会長)は「結局、永藤市長は堺の子どものことを考えたのではなく、前市長の政策を否定したいだけではないのか」とし、「府立修徳学院の整備に堺市が費用負担するのは吉村洋文・府知事と永藤・堺市長の維新政治家同士で取り決めており、これは形を変えた大阪都構想だ」と憤る。

 政令指定都市の権限と財源を大阪府に委譲する維新の看板政策「大阪都構想」に、堺市の竹山・前市長は賛同せず、大阪市では維新系市長の下で2度、住民投票が行われたがいずれも反対多数となって実現していない。維新政治家の間で翻弄される児童自立支援施設の問題は、維新VS非維新の戦いになるであろう今年の堺市長選で、争点の一つとして注目を集める可能性はある。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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