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兵庫・明石川のPFAS汚染、明石市民の血液検査は約半数が要注意ライン超え

幸田泉ジャーナリスト、作家
水道水に利用され、PFAS濃度が問題になっている明石川=神戸市西区で、筆者撮影

 発がん性など人体への有害性が明らかになっているPFAS(ピーファス、有機フッ素化合物)について、今夏、兵庫県明石市の市民33人が血液検査を受け、約半数がアメリカの学術団体で「要注意」としている20ng/ml(ナノグラムは10億分の1)を超えていることが分かった。専門家は水道水に混入しているPFASの影響を指摘している。明石市が水道水の取水源としている明石川は、2019年の環境省の調査でPFAS濃度が高いことが判明し、翌年から明石市は浄水場の活性炭の交換頻度を上げて水道水のPFAS濃度を下げる措置を取っている。

明石川の水が水道水に入る住民を対象に検査

明石川のPFAS汚染を受けて、明石市民33人の血液検査を行い、結果発表する「明石川流域のPFAS汚染を考える会」の記者会見=2024年9月3日、兵庫県明石市で、筆者撮影
明石川のPFAS汚染を受けて、明石市民33人の血液検査を行い、結果発表する「明石川流域のPFAS汚染を考える会」の記者会見=2024年9月3日、兵庫県明石市で、筆者撮影

 明石川のPFAS汚染を巡っては、昨夏、丸尾牧・兵庫県議が明石市民9人と尼崎市民10人の血液検査を行った。この検査で、明石市民のPFAS血中濃度が高かったことから、「明石川流域のPFAS汚染を考える会」で明石市民を対象に血液検査を実施することになった。

 検査を受けた明石市民は33人で、15歳~83歳、男性14人、女性19人。今年7月27日、大阪市西淀川区の淀川勤労者厚生協会附属西淀病院で採血を行った。明石市民の中でも、明石川の水を取水している東部配水場と中部配水場の配水エリアに10年以上、居住している住民に限定した。

 1万種類以上あると言われるPFASのうち、世界的に最も普及したのはPFOA(ピーフォア、ペルフルオロオクタン酸)とPFOS(ピーフォス、ペルフルオロオクタンスルホン酸)。明石市民の血液検査のPFOAの値は、最小値が1.7ng/ml、最大値は27.7ng/ml、平均値は11ng/ml。PFOSは最小値が1.2ng/ml、最大値は21.3ng/ml、平均値は7.4ng/ml。二つのPFASの合計は3.9ng/ml~36.4ng/mlで、平均値は18.4ng/mlだった。

 PFOA、PFOSが有害性から製造禁止になったため、代替物質として製造されるようになったPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)とPFNA(ペルフルオロノナン酸)についても血中濃度を調べた。PFOA、PFOS、PFHxS、PFNAの四つのPFASの合計値は、最小値が4.7ng/ml、最大値が45ng/ml、平均値は22.9ng/mlだった。アメリカの学術機関「米国科学工学医学アカデミー」のガイドラインでは、血中のPFAS濃度が20ng/ml以上の人はがんの検査を受けたりPFAS被曝を低減するよう求めており、この要注意ラインを超えたのは16人だった。

専門家は「水道水が汚染源の一つ」

記者会見で血液検査の分析を述べる小泉昭夫・京都大学名誉教授(奥中央)=2024年9月3日、兵庫県明石市で、筆者撮影
記者会見で血液検査の分析を述べる小泉昭夫・京都大学名誉教授(奥中央)=2024年9月3日、兵庫県明石市で、筆者撮影

 配水場別にみると、東部配水場エリアの住民11人の4PFAS合計の平均値は、26.7ng/ml。中部配水場エリアの住民22人の4PFAS合計の平均値は21.1ng/ml。東部配水場は明石川浄水場の水を配水しており、水源は3分の2が明石川。中部配水場は鳥羽浄水場の水を配水しており、水源は3分の1が明石川だ。明石川の水の利用が多い東部配水場エリア住民の方がPFASの血中濃度が高い傾向があった。

 水道水を飲料水としているかどうかでは、飲料水にしている28人の4PFAS平均値は23.7ng/mlなのに対し、飲料水にしていない5人の平均値は18.5ng/ml。水道水を飲料水にしている人の方が、数値が高かった。

 データ解析に協力したPFASの専門家、小泉昭夫・京都大学名誉教授は「全国の他地域で行われた血液検査の結果と比較して、明石市民はPFOAの血中濃度が高い」と特徴を分析。「検査を受けた人数が少ないこともあり、統計的に有意差があるとまでは言えないが、水道水を飲み水にしている人、明石川の水が水道水に含まれている量が多い人の方が、そうでない人より血中PFAS濃度が高い傾向がある。水道水の利用が汚染源の一つと推定される」としている。

最高値の女性は「食生活には気を付けていたのに」

血液検査の分析結果報告書を見て「検査を受けた人の中で最高値」の報告に驚いた女性。食生活には人一倍、気を遣って生活していた=2024年9月12日、兵庫県明石市で、筆者撮影
血液検査の分析結果報告書を見て「検査を受けた人の中で最高値」の報告に驚いた女性。食生活には人一倍、気を遣って生活していた=2024年9月12日、兵庫県明石市で、筆者撮影

 検査を受けた33人の中で最もPFASの血中濃度が高かったのは、明石市の東部配水場エリアに44年居住している女性(76)だ。明石川でPFAS汚染が見つかっていることは知っていたが、自身の健康への影響を心配するほどの危機感は持っていなかった。「明石川流域のPFAS汚染を考える会」の血液検査で急きょ、キャンセルが出たため、旧知の仲である渋谷進・同会世話人から検査への参加依頼があり、協力することにしたという。

 手元に来た「分析結果報告書」を見てびっくりした。PFOSが13ng/ml、PFOAが22.4ng/ml、4PFASの合計は45ng/ml。米国科学工学医学アカデミーが要注意ラインとしている20ng/mlの倍以上の濃度であり、血液検査を受けた33人の結果をまとめた表の「最大値」に書かれてあるのは、自分の数値だった。

 きらめく明石海峡が眼下に広がる海辺のマンションで、女性は「食生活には人一倍、気を遣い、できるだけ添加物は摂取しないようにしてきた。それがまさか、発がん性があるPFASの検査でこんな結果が出るとは」と複雑な表情を浮かべた。レトルト食品や冷凍食品はほとんど食べない。野菜はなるべく無農薬のものを購入。2年前に水道の蛇口に浄水カートリッジを装着し、飲み水はペットボトルのミネラルウオーターにした。「これ以上、何に気を付けたらいいのか」と嘆き、「河川や地下水の汚れは知っていたが、体への影響と結びつけて考えていなかった。水道水からPFASを取り込んだとすれば、環境の大切さに改めて向き合わされた思い」と語る。

 今のところ特段の体調不良はないが、気になっていたことが一つある。健康診断で血中の脂質が高くなってきたのだ。ずっと「異常なし」のA判定だったLDLコレステロールが2015年1月の健康診断で「受診勧奨」のC判定になり、現在までCの状態が続いている。今年1月には中性脂肪がA判定から「要指導」のB判定になった。PFASについて勉強するうち健康影響への一つに「脂質異常症」があると分かり、「血中の脂質の上昇はPFASと関係していたのか?」と考えるようになったという。

 大阪民主医療機関連合会(大阪民医連)の診療所が行っている「PFAS外来」を近く受診し、PFOAの発がん性や血中のPFAS濃度を下げる方法があるのかについて、しっかり聞くという。「血液検査の結果は『知らぬが仏』だったのかもしれない。でも、知ってしまった。PFAS問題は調べていくと、どんどん疑問が湧いてくる。自分の体のためだけでなく、今の子どもたち、未来の子どもたちのために、『知ってしまった者』の責務として、自分にできることはやっていかなくては」と心に決めている。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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