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大阪のPFAS汚染で府民1000人血液検査の結果発表。3割が「要注意ライン」超えの濃度

幸田泉ジャーナリスト、作家
PFAS濃度を調べる血液採取=2023年10月29日、大阪府摂津市で、筆者撮影

 全国各地で汚染が発覚しているPFAS(有機フッ素化合物、ピーファス)の体内の蓄積を調べるため行われた「大阪府民1000人血液検査」の結果が2024年8月11日、公表された。PFASの一種、PFOA(ペルフルオロオクタン酸、ピーフォア)を製造していたダイキン工業淀川製作所が大阪府摂津市にあり、その影響が注目されていたが、摂津市や周辺の大阪府北部地域の住民はPFOAの血中濃度が高い傾向があった。

 4種類のPFASの合計では、検査した人のうち約3割が、アメリカの学術団体が「健康に留意が必要」としている数値を超えていた。検査結果を分析した京都大学の原田浩二・准教授(社会健康医学)は「ダイキン工業淀川製作所のPFOAが、水、大気、土壌に広がり、水道水や野菜などを通じて摂取されたと考えられる」と話している。

PFOA濃度の高さが大阪の特徴

大阪府民1000人血液検査の結果が発表された「大阪PFAS汚染と健康を考える会」の記者会見=2024年8月11日、大阪市中央区で、筆者撮影
大阪府民1000人血液検査の結果が発表された「大阪PFAS汚染と健康を考える会」の記者会見=2024年8月11日、大阪市中央区で、筆者撮影

 大規模な血液検査は京都大学大学院医学研究科に予算がついたことで実現。「大阪PFAS汚染と健康を考える会」(大島民旗代表)が結成され、昨年9月~12月、大阪民主医療機関連合会(大阪民医連)が血液採取を行った。

 大阪府在住か職場が大阪府内の人を対象に1190人を検査。摂津市在住が183人、摂津以外の大阪府内在住が1001人、兵庫県在住が6人。年齢は15歳~93歳で、平均年齢は63.1歳。1万種類以上あると言われるPFASのうち、利便性の高さから普及度が高いPFOA、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸、ピーフォス)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)、PFNA(ペルフルオロノナン酸)の4種類について、血中濃度のデータが公表された。

 4種類の合計の平均値は17.7ng/ml(ngはナノグラム、10億分の1グラム)。内訳はPFOA6.7ng/ml▽PFOS6.8ng/ml▽PFHxS1.1ng/ml▽PFNA3.2ng/ml。米軍基地の泡消火剤に起因するPFOS汚染が問題になった東京都多摩地区の住民約800人の血液検査では、PFOSの血中濃度の平均値は10.3ng/ml、PFOAが3.7ng/mlだった。それと比較して、原田・准教授は「大阪はPFOAの値が高く、ダイキン工業淀川製作所が2012年までPFOAを製造してきた影響がまだ残っている」と分析。摂津市民183人に限ってみると、PFOAの平均値は9.8ng/mlと明らかに高い傾向があった。

約3割が「要注意」ライン超え

 大阪で血液検査を受けた中でPFOAの最高値は596.6ng/mlで、長年にわたりダイキン工業淀川製作所に勤務していた元従業員。ほかにも淀川製作所でPFOAを扱う仕事をしていた人が2人おり、どちらもPFOAの血中濃度は100ng/ml超えの突出した高濃度だった。

 アメリカの科学・工学・医学アカデミーは、血中のPFAS濃度が20ng/ml以上の人は、甲状腺疾患、肝機能障害、腎臓がんなどPFASの影響が指摘されている疾患について、診察、検査を勧めている。大阪の血液検査データから職業曝露でPFOAが突出して高濃度の3人を除いた1187人のうち、4PFASの合計が20ng/ml以上の人は361人、30.4%だった。原田・准教授は「ダイキン工業のPFOAの影響があるとは言え、20ng/mlを超える人はそれほどいないだろうと予想していたが、3割とは思ったより多い」と話す。

水道水と地産農産物で有意差

ダイキン工業淀川製作所周辺には自家消費用の野菜を育てる畑が点在する=2023年11月、大阪府摂津市で、筆者撮影
ダイキン工業淀川製作所周辺には自家消費用の野菜を育てる畑が点在する=2023年11月、大阪府摂津市で、筆者撮影

 水道水を飲み水にしている人は、水道水を飲まない人よりもPFASの血中濃度が高かった。摂津市の住民のPFOAについてみると、水道水の飲用がない人の平均値が4.7ng/mlなのに対し、飲用がある人の平均値は7.6ng/mlだった。

 地産農作物を日常的に食べる人と食べない人とでは、摂津市と大阪市東淀川区の住民は、食べる人の方が血中PFOA濃度が高い傾向があった。ダイキン工業淀川製作所に起因するとみられる環境水の汚染は、摂津市だけでなく、神崎川をはさんで対岸の大阪市東淀川区の地下水でも見つかっている。地下水を通じて土壌にPFOAが浸み込んでいたり、汚染された井戸水で野菜を育てることで野菜にPFOAが移行し、食べた人の体内に蓄積されたと考えられる。

 今回の1000人血液検査を実施した「大阪PFAS汚染と健康を考える会」では、6月に行った吉村洋文・府知事への要望の中で、府内の市町村がPFASから健康を守るための財政支援を行う▽ダイキン工業に対し、元従業員、従業員(非正規含む)、下請け業者を対象にした血液検査を行うよう指導する▽大阪府民が希望するPFAS血液検査を府の責任で実施し、検査費用は全額、公費で賄う▽東京都などが実施している「PFAS相談窓口」を大阪府として設置する、ことなどを求めた。

 また、「大阪・摂津市PFOA汚染問題を考える会」(清水信行代表)では現在、摂津市に対して、摂津市民と摂津市内で働く人の血液検査、健康影響調査を行い、PFAS濃度が高い人には定期的に健康診断を行うよう求める署名集めを行っている。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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