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野菜を食べない愛知県民。新・ご当地グルメ「あいちサラダめし」で解消なるか?

大竹敏之名古屋ネタライター
「あいちサラダめし」は愛知県民が大好きな肉みそをはじめ、卵、季節野菜等を盛り込む

野菜を“つくっても食べない”愛知県民

愛知県民は野菜不足。厚生労働省による都道府県別摂取量の調査では、男性は全国最下位の47位!女性もワースト3位の45位。1日350gの摂取が推奨されるところ、男性229g、女性238gと大きく下回っているのです(データは2016年)。

野菜を食べない愛知県民ですが、意外に野菜はたくさんつくっています。農業産出額は全国7位(2014年農水省調べ)。キャベツ全国1位、ブロッコリー3位、トマト、カリフラワーは5位と種類別でもトップ10にランクインする野菜は10種類以上あるのです。つまり、愛知県民はつくっているのに食べない、昨今のトレンドである地産地消とは真逆の食生活を送っているわけです。

野菜不足の原因は名古屋めしにあり!?

味噌煮込みうどん、味噌カツ、ひつまぶし、手羽先などの名古屋めし。これ一品で満足できる料理が多いため、これとは別に野菜を摂ろうという意識が薄くなりがち
味噌煮込みうどん、味噌カツ、ひつまぶし、手羽先などの名古屋めし。これ一品で満足できる料理が多いため、これとは別に野菜を摂ろうという意識が薄くなりがち

野菜不足の原因は名古屋めしにある、というのが私の推論です。名古屋めしの多くは名古屋市内に限らず県内で広く食べられていますが、その大きな特徴として「うまみ嗜好」「食べごたえ」があります。豆味噌によってうまみを重視する嗜好が育まれ、さらに“お値打ち”好きなコスパ志向もあいまって一品で満足感・満腹感を得られる食べごたえを求めます。こうしたニーズに応えて、味噌煮込みうどん、味噌かつ、ひつまぶし、あんかけスパゲティなど、名古屋めしには一品で完結するメニューが少なくありません。

対してサラダは「うまみ嗜好」「食べごたえ」の要素を盛り込みにくいため、愛知県民の嗜好に訴求しにくいのです。

「あいちサラダめし」4つのルール

こうした現状を打開しようと、「あいち みんなのサラダプロジェクト」がこのほどスタートしました。これは調味料の大手・キユーピーや生産者、自治体が連携して、“ご当地サラダ”を開発、普及させていこうという取り組みです。実はこの実行委員会には筆者もメンバーとして名を連ねています。プロジェクトでは、先の「うまみ嗜好」や「食べごたえ」を兼ね備え、かつ地元の食材を活かすことをテーマに、以下の4つのルールを定めた「あいちサラダめし」を提唱することとなりました。

1)   肉みそを使う

2)   ごはんやうどんなど主食を盛り込み、野菜でかさ増し

3)   卵+季節野菜を使う

4)   マヨ・ドレッシングで仕上げる

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「愛知県ではうまみの象徴・豆味噌に肉を加えた肉みそが広く好まれている。マヨネーズは肉みそがもつやや強く、とがった味をほどよくマスキングする機能があるので、一緒に食べることでまろやかな味となり、素材や味をよりおいしく召し上がっていただけます」と実行委員のキユーピー・湯川治己名古屋支店長。さらに「地元の人たちが協力し合い、愛知県ならではのご当地グルメとして広く県民に愛されるメニューになることを期待します」と抱負を語ります。

プロジェクトの特徴は、県内の飲食店や企業がそれぞれ独自にオリジナルの「あいちサラダめし」をつくって売り出せること。先の4つのルールにのっとっていれば実行委員会が「あいちサラダめし」と認定し、Webサイトに掲載してPRをバックアップします。さらに生産者のネットワークを活かして、地域の活動としてサラダづくりイベントなどを開催することも可能です。間口が広く、敷居が低い参加型のご当地グルメ開発プロジェクトというわけです。

飲食チェーンや新鋭店が独自にサラダを開発

プロジェクトが試作したあいちサラダめし。これはあくまでサンプルで、上の4つのルールに準じて参加する飲食店や企業が自由にメニュー開発を行う
プロジェクトが試作したあいちサラダめし。これはあくまでサンプルで、上の4つのルールに準じて参加する飲食店や企業が自由にメニュー開発を行う

9月1日のプロジェクトスタートに向けて、地元の飲食チェーンなどが早くも参加を決めています。

「店ごとにあいちサラダめしを開発しています」というのは名古屋市内を中心に居酒屋、中華料理店などを展開する「かぶらやグループ」岡田憲征社長。「名古屋めしメニューが多い居酒屋では八丁味噌でよりこってり感を出す、中華料理店では四川テイストにするなど、それぞれ楽しんで開発に取り組んでいます」とのこと。さらに「愛知県の渥美半島でおいしいキャベツが採れるのに、東京の市場へいったん行ってから仕入れなければならず、流通コストがかかる。地元の野菜を積極的に使うサラダをつくることで、こういう現状を見直すきっかけにもつながる」とフードマイレージの問題にも一石を投じることができると語ります。

「CityDiningMacy´s」の開発したあいちサラダめし(写真は試作中のもの)。ひと皿でしっかり野菜を摂れ、かつお腹もふくれそう
「CityDiningMacy´s」の開発したあいちサラダめし(写真は試作中のもの)。ひと皿でしっかり野菜を摂れ、かつお腹もふくれそう

大須の「CityDiningMacy´s」(シティダイニングメイシーズ)はオープン3年目の新鋭店。「20代の女性客が多く、もともとサラダのランチは人気が高い。一品で完結するサラダをつくれば、従来のお客様にも満足してもらえるはず」と山中亮介店長。洋風のまぜめしをイメージしたサラダの開発に取り組み、9月初旬には売り出す予定だといいます。

この他にも、「がブリチキン。」が飛ぶ鳥を落とす勢いの「ブルームダイニングサービス」、名古屋外食シーンのトレンドリーダー「Zetton」などの参加も決定。店々の個性を活かした多彩なあいちサラダめしを食べ比べする楽しみも生まれそうです。

また、9月16(日)・17(祝)日には、商業施設LACHIC(ラシック・名古屋市中区)でプロジェクトのキックオフイベントを開催し、あいちサラダめしの試食提供などを行います。

全国のご当地サラダの先駆けに

あいちみんなのサラダプロジェクト実行委員会メンバーで大村秀章愛知県知事を表敬訪問。愛知県も県民の野菜摂取量アップを進めるために活動をバックアップする
あいちみんなのサラダプロジェクト実行委員会メンバーで大村秀章愛知県知事を表敬訪問。愛知県も県民の野菜摂取量アップを進めるために活動をバックアップする

ご当地グルメは多くの店で提供され、そしてもちろん地元の人が好んで食してこそ広まり、定着するもの。愛知県は既存の名古屋めしの牙城が強固でなかなか新参のグルメが割って入ることが難しかったのですが、その壁を突破することが期待されます。

さらにこのあいちサラダめしが定着・普及すれば、他の地域にも応用できる可能性も広がります。野菜不足は決して愛知県だけの問題ではありません。地域の人たちが食べたくなるご当地サラダが全国各地で誕生して親しまれる、そんなムーブメントの先駆けになる、かもしれません。

(写真はあいちみんなのサラダプロジェクト提供、名古屋めしの集合写真は筆者撮影、CityDiningMacky´sのメニューは店舗提供)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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