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日本の政策形成(1)…政治・政策リテラシー講座22

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー

日本における国の政策は、どのようにつくられているかを考えていきましょう。

日本では、国における政策形成の中心は、行政、より具体的には一府12省庁(注1)からなる中央省庁です。これらの省庁には、担当とする専門分野が各々あり、その下に関連の業界や企業・団体などがあるような構図になっています。

そして、それらの業界などから、現場の情報が吸い上げられ、それに基づいて、各省庁が、審議会などのツールを駆使して有識者や専門家の意見なども織り込んで社会的に正当性のある政策案や法案(注2)を作成し、それを与党と調整し、正式な政策案・法案にし、多くは内閣提出法案として国会に提出、審議され、最終的に国会の承認を得て、政策・法律になります。

このように、これまでは中央省庁が中心に情報を収集し、政策形成をする仕組みだったのです。これは正に、日本という社会・国が、官僚機構によってグリップされ、全体が機能していた時のモデルです。現在も多くの場合はいまも同様です。

日本がまだ貧しく、豊かでなかったときには、国全体の方向付けや政策づくりは、社会の問題に関する情報収集やそれらの問題への対処・処方箋をつくることなども含めて、ある意味で簡単だったので、そのようなに中央省庁である行政中心での対応が可能でしたし、有効だったのです。その当時は、日本はキャッチアップ(注3)段階にあり、日本が進むべき先進事例が海外にたくさんあり、優秀な官僚がそれらを日本に適合できるように調整することで、日本で活用できる政策などを比較的容易につくることができたのです。

ところが、日本が経済的な発展を遂げ、それなりに豊かになってくると、社会におけるニーズや価値観が多様化してきました。それは多分、1980年代の後半ぐらいから以降の時期には確実にそうなってきていたと考えらえます。

そうすると、中央省庁を中心に情報を収集し、海外などの先進事例を日本国内に持ち込んで政策をつくり、問題に対処することだけでは十分でなくなってきたのです。

また従来は、中央省庁が業界などを抑えていれば、日本人のかなりの人材はそこに属していましたので、彼らや彼らの家族の多く、つまり日本の人口の多くの人々の状況などを把握できたのです。

ところが、日本の社会状況が近年大きく変わってきて、それらの業界などの枠に入らない人口、たとえば非正規雇用者、高齢者、仕事をする女性(特に非正規でない雇用の女性)、外国人などの人々の数が急激に増大したのです。彼らのニーズや価値観などは従来のチャネルやルートからでは把握できないのです。その把握のためには、まだ存在してきていないのですが、新しいチャネル、新しい仕組みが必要なのです。

また少子高齢化などは正にそうですが、日本は現在ある面で世界の先端をはしっていて、海外に先進事例は存在していませんので、日本が独自に新しい方策やモデルをつくっていかないといけないのです。

以上のようなことを考えていくと、次のようにいえると思います。

従来の中央省庁(行政)を中心とした情報収集と政策形成の手法だけでは、十分ではないのです。その意味で、公務員制度改革も含めた新しい時代における行政機構の構築が必要です。

また今後も政策形成において中央省庁(行政)が重要な役割を果たすにしても、 

行政だけの視点での情報収集や政策案づくりでは、現在の日本社会や海外の状況を的確に把握し、より有効な対策をとっていくことは不可能です。その意味で、政策形成過程における多元性をもてるようにするために、民間独立系の政策研究機関(いわゆるシンクタンクです)や新しい政党の構築(あるいは既存政党のつくり直し)などが必要になってきているのです。

正に新しい社会環境や世界情勢に対応できる、新たなる政策形成の仕組みやプロセスの構築が望まれているのです。

(注1) それらは、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国家公安委員会(警察庁)のことです。

(注2) 「正当性がある」ではなく、「正当性のあるかのようにつくられた」政策案・法案もあります。

(注3) キャッチアップとは、主に途上国などが先進国に追い付こうとすることを意味しています。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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