メガバンクがたどる“いつか来た道”
今年に入ってからメガバンク各行の“リストラ”が話題になっています。その安定性と好待遇から、かつて就活の花形であったメガバンクの変調に世間の関心も高いようです。ただ“リストラ”といっても、大手製造業のように実際に人を切ったり追い出し部屋を作ることはなく、基本的に新規採用を減らして定年退職者の補充を行わないことで10年ほどの期間をかけて実施するとのことです。人に優しいマイルドなリストラと言っていいでしょう。
では、人に優しいメガバンクは今後どうなるのでしょうか。10年後、生まれ変わったメガバンクが誕生するのでしょうか。組織というものを考えるいい機会なのでまとめておきましょう。
人に優しい=みんな無責任ということ
余談ですが、筆者は「人に優しい」という言葉が大嫌いですね。そういうことを看板にする会社はたいてい後で経営が傾きます。人に優しいというのは、裏を返せば責任を果たすべき人、痛みを引き受けるべき人が何にもやってないということだからです。
ちなみにリストラといっても幅は広く、メガバンク各行が鼻高々にやろうとしている「新規採用をカットしてベテランが定年退職するのを優しく待ってあげる」というのは製造業が90年代に行っていたスタイルです。つまり20年以上時代遅れということです。
なぜ当時そのスタイルが主流だったのかといえば、多くの企業では「またすぐにバブルのような好況が出現し、売上げも利益も今まで以上のペースで増えるだろう」とたかをくくっていたからです。要はみんな風任せ、無責任だっただけのことです(ちなみにその時に新規採用枠を減らされたのが就職氷河期世代です)。
その後どうなったかは言うまでもありません。失われた20年と呼ばれる出口のないトンネル状態が続く中、製造業は「風向きに期待するのではなく、自分たち自身で変わるしかない」と気づき、2000年代に入ると痛みを伴う改革に乗り出します。製造ラインに加え、従来はタブーだったホワイトカラー職にも範囲を拡大し、痛みを伴う本当の意味でのリストラを実施するようになったわけです。
もちろん解雇規制が緩和されていない日本では限界はありますが、あの手この手を使って組織として一定の責任は果たしてきたと言ってもいいでしょう。
メガバンクがたどる“いつか来た道”
恐らく、メガバンクも製造業がかつてたどった道をたどることになるでしょう。具体的に言えば、定年まで雇用の保証された中高年はリスクを取ろうとせず、新しい血は中々組織全体には浸透しないまま一向に新陳代謝が進まない事態です。そして数年で一線を引く経営陣もまた、あえてリスクをとって痛みを伴う改革は行わないでしょう。
年功賃金から成果型の賃金体系へ見直し、勤続年数によらずに抜擢、降格できる流動的な人事制度への切り替え等、真に必要な改革が始まるのは、採用数の多いバブル世代従業員が退職する10年後まで期待薄だろうというのが筆者の見立です。