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なぜ日本企業は社外取締役に女子アナを起用するのか

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

近年、女性アナウンサーの社外取締役起用が目立つようになっています。

【参考リンク】社外取締役に「女性アナウンサー起用」の是非。女性登用で先行する欧米ではセレブの社外取も

きっかけは、欧米並みの女性の社会進出促進を掲げる政府のスタンスでしょう。

つい先日も「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」中に、2030年までにプライム企業の女性役員比率を30%に引き上げることを盛り込むなど、そうした姿勢はさらに強まっています。

ただ、だからといってなぜ“女子アナ”なんでしょうか。国会における女性議員の比率もそうですが、本来そうした数字は女性の組織の中での活躍の結果として実現するべきものであるはず。

畑違いの外野から連れてくるのは、趣旨を無視して帳尻だけ合わせているようにもみえます。

ちなみに、企業がそうせざるを得ない理由は単純で、そもそも多くの日本企業は女性を幹部候補としては採用していないか、採用しても経営幹部としては出世させてこなかったからです。

このことは、本年度から開示が本格化している企業の男女間の賃金格差を見れば一目瞭然でしょう。

【参考リンク】男女の賃金差、大企業ほど開く 採用の区分、キャリア形成の課題

最初から出世・昇給の限定される一般職コースとして採用したり、出世コースから排除されることで「男性社員の76%」という水準に抑制されているわけです。

「欧米企業並みに女性を役員に登用しろ」と政府に尻をたたかれても社内に候補が育っていないため、社外で活躍して知名度もある女子アナにお願いしているわけですね。

脱・年功序列で女性が活躍する時代の到来へ

では、なぜ日本企業は長らく女性を幹部候補としてはみなしてこなかったのでしょうか。

それは、終身雇用制度(メンバーシップ型雇用とも)においては業務範囲を定めないまま無制限で滅私奉公する必要があり、男女の役割が社会に残っている以上はどうしても男性が中核メンバーとならざるをえなかったからです。

たとえば将来、科学技術の進歩により、夫婦が遺伝子を提供すれば2年後くらいに「トイレと食事のしつけのばっちり終わった幼児」が自宅に送られてくるくらいの社会になったら、現状の日本企業のままでも女性も経営幹部になれるかもしれません。

でも現状の社会や職場のままでは、そもそも積極的に企業で出世したいと願う女性は増えないだろうと筆者は考えています。

【参考リンク】もし「家庭の制約」なければ...管理職希望する女性64%!

こうしたテーマの話になると、しばしばこんな意見を耳にします。

「日本の男性はぜんぜん家事をやろうとしない」

「日本女性は責任ある仕事なんて望んでいない」

どちらも表面的な意見と言わざるを得ません。正確には「日本型雇用においては、男性は滅私奉公するのが前提とされ、女性はそのサポート側に回ることを求められてきたためだ」というべきでしょう。

「家事をやらない日本人男性」も「出世意欲の低い日本女性」も日本型雇用の生んだステレオタイプだというのが筆者の見方です。

では今後はどうか。

現在、政府も経団連もそろって年功序列からジョブ型へのシフトを明言し、企業も続々とジョブ型への見直しを進めています。

ジョブ化はあらかじめ業務内容を明確にしたうえでそれに応じて賃金を決めるシステムですから、従来の正社員に求められた「無制限の滅私奉公」とは真逆なものです。

二本目の参考リンクで紹介した毎日新聞の記事中には「非正規雇用では女性の賃金は男性と比べて122%と高い」という丸亀製麺の事例が紹介されています。

非正規雇用の多くは業務内容があらかじめ限定され、滅私奉公とも無縁ですから、実態としてはほぼジョブ型雇用と見ていいでしょう。

今後ジョブ化が正社員にも拡大することで、男女間の賃金格差も抜本的に改善するのは間違いないでしょう。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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