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【独占】“セクシークイーン”旋風再び?アン・シネが日本ツアー参戦を決意「女子ゴルフQTに挑戦する」

金明昱スポーツライター
ソウルの江南で会ったアン・シネはとても元気にしていた(写真・筆者撮影)

「両親にも韓国メディアにも伝えていない」

 韓国・ソウルの江南(カンナム)。高級感漂う店内では、たくさんの女性たちがランチを楽しんでいた。そこで待ち合わせをしたのは女子プロゴルファーのアン・シネ。直接会うのは2019年以来、約4年ぶりのことだ。

「チャル チネショッソヨ?(元気にしていましたか?)」。店内で待っていたところ、声をかけてきたアン・シネ。オシャレな服にバッチリメイク、プロゴルファーと言われなければ何の仕事をしているのか分からないくらいだ。韓国でインタビューすることになったのは、アン・シネが“ある決心”をしたからだった。

「今年の日本女子ツアーQT(予選会)に挑戦することを決めました」

 開口一番、笑顔でそう語るアン・シネに、それが「本当のことなのか」を改めて確認すると、こう答えるのだった。

 ちなみにQTとは翌年の日本女子ツアー出場権をかけた予選会の事で、今年は11月末からファーストステージとファイナルステージの2週にかけて行われる。ファイナルQTで35位前後の順位に入れば、翌年の前半戦のほとんどの試合に出場できる。

「実は両親にも韓国メディアにも伝えていないんです。心に決めたのも本当に最近の話で、日本のメディアに向けて初めて話すことで、逃げ道を作らないように、という思いもあります」

 実は6月末にアン・シネから「QTの出場資格と期間を確認してほしい」と連絡があった。逆に言えば「今年のQT挑戦への意思がある」ということ。アン・シネの真剣な表情からは確かな覚悟が伺えた。

19年プロテスト合格、QT突破もコロナ禍で来日断念

  “セクシークイーン”の異名で日本女子ゴルフ界をにぎわせたのは2017年。もう5年前のことだ。当時はタイトなウェアとミニスカートでファンを魅了し、週刊誌のグラビアや写真集の発刊も話題となり、Yahoo検索大賞のアスリート部門賞まで受賞。年末にはテレビのバラエティー番組にも出演するなど、“時の人”となったのを記憶している人はいるはずだ。試合会場には彼女のプレーを一目見ようと多くのギャラリーを引き付けれていたのも記憶に新しい。

 シード獲得には及ばなかったが、2019年のプロテストに挑戦して一発合格。さらに同年のファイナルQT(予選会)に出場して25位で、翌20年の前半戦出場権を得た。ただ、20年からコロナ禍で日本行きを断念。それから日本に来ることはく、韓国ツアーに推薦で試合に出場することはあっても結果は満足するものではない。

 日本と韓国のゴルフファン、関係者からすれば「アン・シネはもう引退した」と思っていた人もきっと多いはずで、そう思われても仕方ない部分もあった。インスタグラムを開けば、ラウンドしている動画や写真はあっても、海外旅行で優雅に過ごす姿も多く、「完全にゴルフから離れた」と思われても仕方のない部分はあった。筆者も「このままツアーに復帰することはない」と見ていた。

21年は韓国ツアーに推薦出場するも十分な準備ができないまま「出ること自体が辛かった」とも(写真・KLPGA)
21年は韓国ツアーに推薦出場するも十分な準備ができないまま「出ること自体が辛かった」とも(写真・KLPGA)

「まだ自分のゴルフ人生に未練があった」

 コロナ禍の2020年以降、アン・シネは長らくツアー復帰と引退の狭間で悩み続けていた。

「コロナ禍の間はずっと休養していました。これまでずっとゴルフツアーの人生だったので、今までできなかったこと、やりたかったことをやろうと思いました。旅行に行って、寝て、起きて、たくさんリフレッシュして…。とはいえ本当にコロナ禍の数年は、自由に出かけたりもできず、行動制限などで“休養”とは言える状態ではなかったです。2020年は日本ツアー参戦のために気合いを入れて海外合宿もしたのですが、試合が始まらない状況が続き、徐々にモチベーションが下がってしまったのは事実です」

 コロナ禍で高いパフォーマンスを発揮できず、モチベーションが低下したのは何もアン・シネだけではない。世界の多くのアスリートが、現地での行動制限などで大きなストレスとも戦っていた。

「もう自分は試合に復帰できないのか、年齢も重ね、体力もかなり落ちていましたし、もうゴルフをやめなければいけないのかと“引退”が頭をよぎったのも一度や二度ではありません。このままだと自然に引退への道をたどるわけで、そう考えると未練が残るんです。自分の人生を最後に整理できていないようなモヤモヤしたものがありました。それでもう一度、自分のゴルフ人生に挑戦をしてみようと心に決めました。本当にこれも最近の話で、昨年から今年にかけて休んでいる間に、気持ちが整理ついたんです」

昨年の米ツアーのQスクールに挑戦していた!?

 実はゴルフ関係者の間でもほぼ知られていないのが、アン・シネが昨年の米女子ツアーのQスクール(予選会)に出場していたことだ。

「昨年の米女子ツアーのQスクールのファーストステージに出ました。ちょうどアメリカにいた時に、パームスプリングスでQスクールが開催されることを知り、自分の実力がいまどの程度あるのかを確認してみようという気持ちでエントリーしたんです」

 すると“意外”にもゴルフがまとまった。初日から3日目まで「70」で回ると、最終日こそ「76」を叩いたが、通算2アンダーの60位タイでファーストステージを突破した。これが大きな自信につながった。

「練習さえしっかりやれば、絶好調の頃には戻れなくても、ある程度、ツアーで戦えるくらいにまでは戻せると自信がつきましたよ」

 2次予選も出るつもりだったが、このときハリケーンの影響で試合会場は使えなくなり、1カ月延期を余儀なくされた。

「まさかの出来事でした(笑)。体の調子も悪くなり、試合を棄権するしかなかったんです。本当に残念でした。ただ、コロナ禍が収束して、5月以降に日本を行ったり来たりするなかで、当時のことを思い出して、また日本ツアーでプレーしてみたいなという思いにかられました」

 アン・シネの日本ツアーデビュー戦は2017年国内メジャー「ワールドレディスサロンパスカップ」で、初日から約1万3000人のギャラリーが訪れた。連休のGWというのもあるが、少なからず“セクシークイーン”と呼ばれたアン・シネデビューの影響もあったはずだ。

「あの試合のことは、今も当時バッグをかついでくれていたキャディさんと話題になるほどです」と笑っていたが、またこうした環境の中でゴルフがしたいという思いは、日に日に強くなっている。

11月のQT出場まで練習とトレーニングで技術と体力を向上させていくという(写真・KLPGA)
11月のQT出場まで練習とトレーニングで技術と体力を向上させていくという(写真・KLPGA)

「日本ツアーの後半戦で推薦いただけるなら出たい」

「スポットライトを浴びたいという思いはなくて、静かな環境でゴルフがしたいという気持ちです。誰かに過度な期待を与えたくないという思いがある一方で、日本ツアーで3年間プレーして、たくさんの方から関心を寄せてもらいました。でも、コロナ禍で日本に行けず、このまま去るのは期待してもらっているファンの期待に応えられていないのが、すごく心残りでした。一からまた努力すれば成績を残せる、そんな気持ちでQTに挑戦したいです」

 アン・シネは“セクシークイーン”という愛称からも分かる通り、実力以外の部分で常に注目を浴びることも多く、だからこそ結果を残したいという気持ちにもなる。日本ツアーのQTに挑戦することで「成績が出ないと精神的に疲れないかと少し怖い気持ちもある」という。

「それでも年を重ねるごとに少しずつ考え方も変わり、むしろ今は成績が出ないことへの恥ずかしさや他人が自分のことをどう見ているのかも気にならなくなってきました。もっと歳を取る前に本当に自分が求めるものが何なんかを考えるようになりました。引退をするにしても、今のままではそのまま消えてしまうわけで、これからは自らの選択で引退をしたいです」

 そうして自ら幸せな選択をするために必要なのは練習、実戦、そして結果。いよいよ本格的な練習期間に入るという。

「まずは8月中旬から約3週間、コーチがいるオーストラリアで合宿をします。落ちた体力と飛距離を戻すことです。かなりハードな練習とトレーニングが待っていると思いますが、ショットの感覚と体力向上をさせるために必死にがんばります。もし日本ツアーの後半戦で推薦をいただける試合があるなら、ぜひとも出場したいです」

 まだ32歳。日本ツアーでも十分に現役を続けられる年齢だ。再び奮起を決めたところを見ると、アスリート魂は消えてはいなかった。決して平たんな道のりではないが、日本でもう一花咲かせるため覚悟を決めたからには必ずQTを突破して、来季の女子ツアーの盛り上がりに一役買ってもらいたい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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