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女子プロゴルファーはなぜ“引退”という言葉を使わなくなったのか。女性の社会進出が背景?

金明昱スポーツライター
先週の「大王製紙エリエールレディス」を最後に競技生活を休止した上田桃子(写真:REX/アフロ)

 プロゴルファー生活20年で国内女子ツアー通算16勝の上田桃子が、今季限りで“競技生活を休止”することを発表した。先週の国内女子ツアー「大王製紙エリエールレディスオープン」が最後の試合となり、来年からはプレーする姿が見られなくなる。

 メルセデス(年間ポイント)ランキング48位として来季シードの50位以内には入ったが、来年からは試合に出ないため、報道では“ツアーから撤退”という表現が使われている。しかし、「ツアーに出ない=引退」ではない。そのことについて上田も明確に応えている。ツアーに戻る可能性について聞かれると、こう語っていた。

上田桃子「引退というよりかは自分は一生プロゴルファー」

「こればかりは本当に分からないです。今の段階ではないので引退というよりは、プロになったときから、一生プロゴルファーだなと思っていました。また、もしかしたら戻りたいという気持ちになるかもしれない。今はそういう気持ちはないし、分からないから、引退という言葉を使わないほうがいいと思いました」

 つまり“引退する”と公の場で発言すると、ゴルフの試合には一切出ないというイメージが世間には伝わる。結婚したあとも現役を続けていた上田は、30歳の節目にツアープロではない自分の人生の生き方について考えることも多かったと思う。

「女性としても社会人としても、私はプロゴルファーとして生きてきた時間の方が長い。結婚もしたので、そういう部分で考えると、何もできてないというか、その中で生きていくと考えたら、全然まだ知らないことばかり。逆にこれから自分が興味のあることとかを話しながら、どういう道に進んでいいのかを考えていていきたい。まだ何も決まっていませんが、決まったらお伝えしたいと思います」。

 いったんは試合に出ることには足を止めるが、いくつになっても技術向上を追い求めるプロ意識の高さにはいつも驚される。いずれ機が熟せばまたチャレンジしたくなるのが、彼女の性分なのではとも思ったりもする。

今季6年ぶりにツアー復帰した森田理香子(筆者撮影)
今季6年ぶりにツアー復帰した森田理香子(筆者撮影)

森田理香子も「引退」回避しツアー復帰

 元賞金女王の森田理香子もそうだ。2018年限りでツアーから離れたが、今季は推薦で6年ぶりのツアー出場を果たしている。当時は“事実上の引退”と騒がれたが、本人は「引退とは言っていない」と話している。

 過去にインタビューしたとき、その理由についてこう話している。

「引退と言ったらもう一生、表に出てこないと言うイメージです。完全にツアーに戻らないというイメージがあるから、それは何か違うと思いました。もしかしたらまた気持ちが変わって、(ツアーで)やりたくなるかもしれません。だから休養と発表したんです」

 普通、これだけツアーから離れれば、復帰への気持ちも薄れてもいいものだが、休養して気持ちを整理して落ち着いた頃には「またゴルフがしたい」と現場に戻ってきた。

 今季は推薦でレギュラーツアー7試合に出場し、開幕戦のダイキンオーキッドレディスは36位タイで終えたが、そのほか6試合は予選落ちだ。

「復帰してみて感じたのは6年空いたブランクの大きさ」と語っていた。「体力面もそうですが、自分のやれる気持ちと体のついてこない感じのバランスの調整もそう。体調を出る試合に合わせてベストの状態に持っていく難しさも感じています。スイングした時の体の動きも、試合に出ないとわからないことも多い」。

 とはいえ飛距離は「現役の時よりも飛んでいる」と笑い、試合に出る時の表情も柔和で生き生きしている。11月のQTファイナルステージにも出場するが、どん底にいた過去とは別人のようにも感じる。

子育てしながらゴルフ関連の仕事も幅広く続けている有村智恵(筆者撮影)
子育てしながらゴルフ関連の仕事も幅広く続けている有村智恵(筆者撮影)

有村智恵は「妊活に専念。引退するわけではない」

 2022年シーズンを最後に休養することを宣言した有村智恵。彼女は自ら「妊活に専念する」と明かし、今年4月には双子を出産したことも公表。さらに「引退するわけではない」ともはっきりと公言した。

 いずれの選手も「引退」の2文字を避けているのは、近年の日本での女性の社会進出にも関係していると感じる。

 有村は現在も子育てしながら、ゴルフ関連の仕事を幅広く行っているが、いずれツアーに復帰する姿もどこかで思い描いているのだろう。以前、彼女にインタビューした時に聞いた話の中で、今後“引退”という言葉を使わない選手が増えるのではないか思われるというくだりがあった。

「子どもができたパターンと、そうじゃないパターンを両方考えないといけないですし、女性は一つに決められないと思います。今まではツアーで優勝するという目標に対して準備をして、一つの道をつくってきました。でもこれからは、ゴールをたくさん持っておかないといけないですし、その時々で対応していく必要があると思っています。やりたいこと、求められてること、やらなきゃいけないこと、それらをバランスよく、自分のキャパシティーの中でやっていくしかない」

“引退”宣言は今後進む道を狭める?

 プロゴルファーという肩書きは、ツアー第一線から離れたからといってなくなるわけではない。“引退”と伝えてしまうと、自ら歩む道を狭めてしまう印象がある。

 もちろん、宮里藍のようにもうツアーに出ることはないと“引退”を宣言するパターンもあるが、何に対して“引退”するのかで、かなり解釈が変わってくる。“多様性”が叫ばれる時代だが、女子プロゴルファーのライフスタイルの変化もまた興味深い。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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