なぜレアルはエムバペを獲得したのか?ヴィニシウス、ベリンガム…既存戦力との“共存”の可能性。
戦力が上がるのは、間違いない。
キリアン・エムバペのレアル・マドリー移籍が決定した。今季終了時にパリ・サンジェルマンとの契約が満了を迎えたエムバペはフリートランスファーで、マドリーに加入している。
■エムバペを巡る騒動
近年、エムバペがマドリー移籍に最も近づいたのは、2022年だろう。
エムバペは、2021−22シーズン終了時、パリSGとの契約が満了する予定だった。契約期間が半年を切り、他クラブとの自由交渉が可能になったところで、マドリーと接触。両者は口頭合意に至っていたと言われている。
だがエムバペは翻意した。21−22シーズン終了直前、「2年+1年延長オプション」の条件でパリSGと契約延長。フロレンティーノ・ペレス会長との約束を反故にして、マドリディスタから“裏切り者”の扱いを受ける羽目になった。
ただ、エムバペは、やはりマドリー移籍の夢を諦められなかった。この夏、パリSGに対して、1年の延長オプションを行使しない旨を通達した。「パリ・サンジェルマンからは、今シーズン、試合には出られないと攻撃的に言われた。ルイス・エンリケ(監督)とルイス・カンポス(スポーツディレクター)がいなかったら、僕は完全に干されていたと思う。彼らが僕を救ってくれた。それが真実だ」とはエムバペの弁だ。
パリSGは過去にも、契約延長を拒んだ選手を“塩漬け”にした経緯がある。2018−19シーズン、アドリアン・ラビオが、同じような境遇にあった。エムバペとて、例外ではなかった。
だがエムバペはそれを受け入れ、かつパリで受け取っていた年俸3500万ユーロ(約56億円/手取り)、受け取るはずだった契約ボーナス8000万ユーロ(約128億円)を放棄して、マドリーへの移籍を決めている。
■新たなレアル・マドリーの形
エムバペの移籍は決まった。一方で、気になるのは、今後のレアル・マドリーである。
普通、大型補強の敢行等、変化を起こすのは、負けているチームである。
だがマドリーは違う。クラブ史上15回目のチャンピオンズリーグ制覇、リーガエスパニョーラ優勝を達成したチームに、エムバペが加わる。
このクラブにおいては、ビッグイヤー獲得というのは、その翌日から意味を持たない。ゆえに、フランス代表の10番の獲得が、2024−25シーズンを待たずに発表されたのだ。
とはいえ、マドリーの戦力は充実している。今季、マドリーのアタッカー陣は99得点をマークしているのである。
ヴィニシウス・ジュニオール(24得点)、ジュード・ベリンガム(23得点)、ロドリゴ・ゴエス(17得点)、ホセル・マト(17得点)、ブラヒム・ディアス(12得点)、アルダ・ギュレル(6得点) …。このうち、去就が不透明なのはホセルのみ。さらに、そこにブラジルの新星であるエンドリックが加わる。
■アンチェロッティと2つのコンバート
今季のマドリーは【4−4−2】と【4−3−3】を併用していた。
カルロ・アンチェロッティ監督は、カリム・ベンゼマの退団を受けて、新戦力のベリンガムをトップ下で起用するようになった。このコンバートが成功して、ベリンガムは爆発的な得点力を手にした。
また、アンチェロッティ監督は、ヴィニシウスをCFで使うようになった。これも、ひとつの隠れたコンバートだった。「自分があのポジションでプレーするイメージが湧かなかった。当初は苦しんだ。アンチェロッティには、最初、『やりたくない』と言ったんだ。でも、僕は彼に説得された。そして、以前より良い選手になった。だから感謝している」と語るのはヴィニシウスだ。
「いまは、左サイドでプレーしろと言われても、それを望まなくなっている。僕は、今シーズン、大幅にプレースタイルを変えた。そして、選手として、成長できたんだ」
常識で考えれば、マドリーはエムバペの加入で【4−3−3】のシステムを使用するだろう。ヴィニシウス、エムバペ、ロドリゴの3トップで、インサイドハーフにベリンガムやフェデリコ・バルベルデが構える形だ。
あるいは、【4−4−2】の布陣で、ヴィニシウスとエムバペを2トップで起用する。 その際、ロドリゴをどうするかという問題があるが、ローテーションの駆使、あるいは、また新たなコンバートで、異なる形が生み出されるかも知れない。
エムバペの加入が正式決定した一方で、マドリーはトニ・クロースが引退する。そちらの課題も残されており、欧州の頂点に立ったとはいえ、プレシーズンから準備の日々が続きそうだ。
ドブレーテ(2冠)の達成で、来季、すべてのチームが「ストップ・ザ・マドリー」を掲げてくるだろう。エムバペの加入で胡坐をかいていたら、すぐに刺されてしまう。危機感を持ってブラッシュアップできるかどうかが、新生マドリーの鍵になる。