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【新国立競技場問題】有識者会議の開示議事録に黒塗りが残ったまま、再整備の工事だけ進んでいく

池上正樹心と街を追うジャーナリスト
第1回国立競技場将来構想有識者会議の議事録。委員の名前も伏せられている

2520億円に膨らんだ建築家ザハ・ハディド氏の案を「白紙撤回」して見直されることになった新国立競技場計画だが、いったいどこまで「白紙」になったのかさえ、依然、不透明なままだ。

何の相談もないまま、突然、都市計画見直しの範囲に敷地が入ることになり、立ち退きを迫られ困惑する都営霞ヶ丘アパートの住民は、「白紙になったはずなのに、説明はないし、工事がストップしていない」と訴える。

筆者が長年取材してきた「最初から結論ありき」の築地市場移転問題の構図にもよく似ていると感じつつ、5日の衆院文部科学委員会を傍聴しに行った。

同委員会では、新国立競技場の新たな整備計画に関して、下村博文科相が、こう答弁していた。

「敷地についてまで見直すことは考えておりません。整備計画の見直しは、現行の都市計画決定を前提として作業を行うことになります」

敷地を見直さないということは、この都営霞ヶ丘アパートの取り壊しも、計画通りに進められるということになる。

独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)本部ビルの移転新築についても、165億円を投じて、日本青年館と一緒のビルを新たに建てる計画だ。

同委員会で、初鹿明博衆院議員(維新)は、こう質問する。

「これでは、五輪に便乗して新しいビルをつくると言われてもおかしくない。JSCのビルは築22年ですよね? 通常なら、絶対に建て替えの対象にならないですよね? 減価償却も終わっていないんじゃないか。すでに工事の請負契約を6月30日に締結している。6月の時点で、ザハの競技場の案を見直すことを大臣は考えでいたんですよね? ということは、敷地の扱いも変わってきたかもしれないのに、いったい誰の判断で6月中にゼネコンと契約することを決めたのか?文科省はそれをなぜ認めたのか?」

下村文科相「ラグビーワールドカップとオリンピック・パラリンピックに間に合わせるということが前提で総理に提案しましたので、本当に間に合うのかどうか、専門家の中でも意見が分かれたので、もっと精査してほしいということで引き続き検討してきた。6月の時点で他の案に変えることを決断できる状況ではまだなかったのです」

すでにJSCは、本部ビルを取り壊し、仮設を建設している。その仮設の賃貸料が、建設費も含めて3年間に約10億円、月に約2700万円を支払い続けていることも、河野一郎JSC理事長の答弁で明らかになり、コスト意識の低さも露呈した。

河野理事長は、委員会でこう答えた。

「JSCの本部事務所の建設費用については、国立競技場の整備等に必要な業務を区分整理するために設置されている特定業務勘定から充当する予定です。その特定業務勘定とは、財源として国費及び投票勘定の受入金などの財源で構成されています」

「要は、税金プラスtotoからのお金が入るということですよ」

そう初鹿議員は指摘する。

いったい、どのような議論をして、このような整備計画が進められてきたのか。そのプロセスが、あまりに不透明であるがゆえに、国民の不信感も高まる。

これまで6回にわたって開催され、今回の白紙撤回を受けて解散した「国立競技場将来構想有識者会議」の議事録を入手して読んだ。

2012年3月6日に行われた第1回議事録。有識者会議は委員の要望を聞く場だった
2012年3月6日に行われた第1回議事録。有識者会議は委員の要望を聞く場だった

議事録によると、第3回までの会議はメディアを入れずに「密室」で行われていて、その議論の内容も「非公開」であったことがわかる。

不思議なことに、議事録を読む限り、2520億円にいたる総工費ばかりか、都営霞ヶ丘アパートが整備計画の敷地に入る経緯や、JSCの本部ビル建て替えについても、丁寧に話し合ってきたようには見えない。

そして、第3回までの「非公開」だった議事録には、所々に黒塗りが施されていた。

JSCは、黒塗りの理由について「情報公開制度に基づき、特定の個人を識別できる情報や、法人の正当な利益を害する情報など」と説明する。

しかし、本来、地域住民や国民がみんなで一緒にプロセスの段階から五輪のメインスタジアムのあり方を考えていくことが大事なはずなのに、いったい何を隠す必要があるというのだろうか。

7日には、「第1回新国立競技場整備計画経緯検証委員会」が文科省で開かれることが決まった。

初鹿議員は「検証する委員会なのだから、しっかり全面公開で、ネットで生中継してもいいと思うし、議事録もきちんと公開する必要がある」と迫ったものの、下村文科相は「原則として公開して開催します」と述べるにとどめた。

筆者がずっと傍聴してきた文科省主導の「石巻市立大川小学校事故検証委員会」でも、当初「原則公開」を約束していたのに、検証委員会が全面公開を拒んだあげく、結論ありきの形式的な議論に終始して真実に迫れなかったために、遺族たちを大きく失望させた。

新国立競技場計画がなぜこのようなことになったのか。公開の場で本質的な議論を交わしてもらって課題が今後に共有できるよう、新たな検証委員会のメンバーには期待したい。

心と街を追うジャーナリスト

通信社などの勤務を経てジャーナリスト。約30年前にわたって「ひきこもり」関係の取材を続けている。兄弟姉妹オンライン支部長。「ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-」設立メンバー。岐阜市ひきこもり支援連携会議座長、江戸川区ひきこもりサポート協議会副座長、港区ひきこもり支援調整会議委員、厚労省ひきこもり広報事業企画検討委員会委員等。著書『ルポ「8050問題」』『ルポひきこもり未満』『ふたたび、ここから~東日本大震災・石巻の人たちの50日間』等多数。『ひきこもり先生』や『こもりびと』などのNHKドラマの監修も務める。テレビやラジオにも多数出演。全国各地の行政機関などで講演

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