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夏休み明け、学校に行くのが厳しい子どもたちへのメッセージ ~具体的なアクションはどうとるべきか~

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

今年も夏休みが明けます。いよいよ来週が本格的な夏休み明けです。

政府の「自殺対策白書」によると、2018年には599人の未成年が自殺をしてしまいました(前年比32人増)。未成年の自殺死亡率は1978年の統計開始以降で最悪の結果となりました。成人の自殺は減っていますが、残念ながら10代の自殺は増え続けています。

「夏休み明けに子どもの自殺が多い」という問題に対して、毎年記事を書かせていただいています。ここ数年では、この問題に関する社会的認識や対策への厚みも増してきています。私も自分に何が出来るかを毎年考えながら投稿しているのですが、今年は異なる立場の方からメッセージをもらいました。そして私も書かせていただきました。

この記事を読んで、少しでも気が楽になったり、ヒントが見つかったりする子どもや保護者の方がいてくれたら何よりです。

〇企業経営者からのメッセージ

(安渕 聖司さん:アクサ生命保険株式会社 代表取締役社長兼CEO)

安渕さんは大きな企業で経営者をされている方です。社長というと自信満々でいつも意欲的なイメージがあるかもしれません。しかし安渕さんは大人の本音を書いてくれています。

「大人は会社に行きたくない時とかないの? ズル休みしたりしないの? 会社に嫌なやつとかいないの?」って疑問に思ったことあると思います。

実は、全部あります。だから、大人も時々会社を休みます。休んでいいんです。

みんなも、夏休みが終わり、学校に行きたくない、絶対行きたくない、と思ったら、ちょっと休んでみましょう。お父さんか、お母さんか、おじさんか、おばさんか、誰か自分の話をよく聞いてくれる大人に相談してみましょう。

「今は学校行きたくない」と、正直に打ち明けてみましょう。

学校に行かないことは、全部の勉強や先生が嫌いということではないし、好きなこと・やりたいこともあるし、同じような気持ちの友達もいるから、全然大丈夫です。

これからの長い人生、いろんな道を通って大人になり、大人になってからも、違った生き方、新しい道筋があります。

大きく息を吸って、ながーく吐き出して、心を落ち着けましょう。

私たち大人もそうやって生きていますから。

〇将棋棋士からのメッセージ

(瀬川 晶司さん:プロ棋士)

次にメッセージをくれたのはプロの将棋棋士の瀬川さんです。瀬川さんは小さな頃から、大好きな将棋のプロ棋士を目指していましたが、26歳の年齢制限でずっと目指していた棋士の道を絶たれました。いったん諦めてサラリーマンになりましたが、再びプロを目指し、長きにわたる将棋界のルールを覆し、35歳で将棋のプロ棋士になりました。そのストーリーは昨年映画にもなりました。一度は「死のう」と本気で考えた瀬川さんの本音の言葉です。

夏休みももうすぐ明けますね。学校に行きたくないと思っている方もいるかもしれません。

私は幸いそういうことはありませんでした。登校拒否のクラスメイトも記憶にありませんし、もちろん自殺なんて、ありえないどこか別世界のお話でした。

そんな私が、26歳のとき「死のう」と本気で思いました。

将棋のプロを目指して挫折したときです。14歳からプロになるために修業していたことが全て無駄になってしまい、生きていても仕方ないと思ったのです。車が猛スピードで走る車道に飛び込もうとしたのですが、あと一歩が踏み出せませんでした。

「死ぬ度胸もないのか…」と思いました。

「生きていてもこの先にいいことなんてないだろう」と思いましたが、

そんなことはありませんでした。

生きていてよかった、という瞬間がその後数えきれないほどありました。

生きてさえいれば必ずそう思うときが来ることは自分の経験上間違いありません。

死ぬのは簡単です。私もあと一歩でした。

でもそれはあまりに勿体ないこと。

生きてさえいれば誰でも、必ず「生きていてよかった」という瞬間がきます。

これは保証します。

なので何があっても、死ぬという選択だけはしてはいけません。

自分を褒めることはないのですが、あのとき死ななかった自分だけは褒めてあげたいと思っています。

〇私からのメッセージ

今までのお2人からはこのようなメッセージをいただきました。

・急がないでいい

・好きなものがあるといい

・生きてさえいればいい

私はしんどい状況にある子がどうしたらよいかを考えていて、休むことだけでなく、なるべく具体的な次のアクションのアドバイスがしたいと思っています。

今回のお2人の方のメッセージもふまえて、以下の3つのステップはどうでしょうか。

(ステップ1:休むこと、相談すること)

学校であまりにうまくいかなくて、本当にしんどい時、やっぱりまずは休むことが必要だと思います。そして周囲の誰でも良いのでSOSを求めてほしいと思います。誰にも相談する人がいないように思う人は、電話やネットの相談窓口でもいいし、小児科医の先生でもいいと思います。そして市役所・区役所に相談してみるのも手だと思います。きっと力になって話を聞いてくれる人がいると思います。一人で抱えるには重い問題です。サポーターを探すのが第一歩だと思います。

(ステップ2:好きなもののそばに)

休んで相談してから、次にどうするか、その時にはやはり「好きなもの」がそばにあることが大事だと思います。好きなものがあることで心が救われるし、同じものが好きな人とつながりあえるかもしれないし、そこから何か道が拓けるかもしれません。ぜひ休んだあとには好きなもののそばにいてください。

(ステップ3:誰かのために)

そしてその先にどうするか、ここが大事だと思います。

私のお勧めはぜひ「誰かのために」を探してほしいと思っています。しんどい皆さんもとても困っていると思いますが、他にも困っている人がたくさんいるし、皆さんの助けが必要な人もたくさんいます。皆さんが生きていることで誰かを笑顔に出来る可能性があります。皆さんがこれから学ぶこと生きることで、誰を笑顔にしようかを考えてみてください。

ヘレンケラーの言葉にこんなものがあります。

「人生は胸おどるものです。そしてもっともワクワクするのは、人のために生きるときです。」

「誰かのために」が自分の中に生まれた時に、人は本当に力が出るものなのだと思います。

自分のために、だけではなかなか頑張りきれません。

だからいつか生まれる「誰かのために」を待ちましょう、そして少しずつ探しましょう。

今は休んでいても、それが見つかった時に力を出せば大丈夫です。

「誰かのために」を探す一歩目として、ボランティアをすることをアクションしてみるのはどうでしょうか。色々な理由で助けが必要な方々の役に立ち、直接に「ありがとう」を言われる経験をぜひしてみてほしいです。ボランティアをどこでするかのきっかけも市役所や区役所やボランティアセンターなどに行けばヒントがあると思います。

あるいは世界の社会問題などを調べてみてもよいかもしれません。環境問題、飢餓、貧困など私たちの住む地球では様々な社会課題が起きています。皆さんはどの問題に興味があるでしょうか、いつかその解決に力が発揮できるかもしれません。

家で悩んでいるより、色々と動いたり、調べたりしていると発見があります。

ぜひ一度でも「誰かのために」を考えて、探して、少しでも動いてみることをお勧めします。

サッカーの三浦知良さんはこのように書いていました。

「未来が過去を作る」

貧しく苦しい時期を過ごしても、後に幸福になれれば美談として語られる。

昔の手痛い失敗も、今が上々なら笑い話に変わる。

一方で輝かしい偉業をなした人でも、あすに事件を起こせば、その過去は一転して灰色に寂れていってしまう。

だからこそ、あらん限り今を頑張るのだと。

しんどい皆さん、今の苦しい経験はこれからが良くなれば「あの時が糧になった」と意義ある過去に生まれ変わります。

悩み苦しんだ経験は同じような後輩やいつか生まれるかもしれないあなたの子どもがしんどい時に伝えるとても貴重な経験談になります。

大事なのはいつだってこれからです。

生きることを止めなければ可能性が続きます。

ゆっくり休んで、チャンスを待ちましょう。

そして少しずつ動き出しましょう。

「誰かのために」を探して。

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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