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小1の壁2024 ~4月に「学童クビ」が起きる理由~

平岩国泰放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

4月上旬、Xにこのような投稿がされました。

学童をクビになった(利用をやんわり断られた)子っていますか…
ちよっと辛い…
いや、だいぶ辛い!!!
仕事どうするん
うちの子こんなに社会性に欠けてるのね

「学童をクビ」というショッキングな言葉が書かれたこの投稿は、75万回以上表示され、以下のようなコメントが並んでいました。

「経験あります!やんわりではなく、突然のクビだったので大揉めに揉めました…」
「うちは利用前に見学に行ってやんわり断られました。とても腹が立ちましたが、どこの学童も同じなのですね」
「うちの子、入会2日目でイエローカード、その後1週間でクビになりました」

この方だけでなく「学童クビ」が起きているようです。それも入会後すぐ、もしくは入会前に断られています。これはどういうことなのでしょうか?

このようなコメントがありました。

「うちも障害児枠で入れて加配つけたにもかかわらず、やんわり言われました。
放デイも入れるところには入れてこれ以上どうにもできない状態で。市役所に猛抗議(規約にクビになる可能性ありなんて書いてない、加配もつけてんだぞ的な)して、今学童とバチバチしながら通ってます」

起きてしまっている「学童クビ」の問題は、発達に特性があり、集団行動がうまくいかない場合に学童保育側から受け入れを断られてしまうケースのことなのです。

なぜそのようなことが起きるのでしょうか?

学童保育の受け入れのルールを見ると、時にこのような記載があります。

「集団生活ができないお子さんは受け入れをお断りいたします」

学童保育側で個別の子どもへの対応がしきれずにこのようなルールが生まれ、それに合わないと、数日で利用を断られてしまうケースが発生しています。

なお、障害があり支援を必要とする子どもには「放課後等デイサービス」という施設があります。しかし、放課後等デイサービスを利用するには自治体の発行する受給者証が必要で、すぐに利用できるわけではありません。また放課後等デイサービスも年々増え続け、全国で2万カ所を超えていますが、住んでいる地域ですぐに利用できるかはわかりません。こうなると保護者の就労継続が大変難しくなります。そして「学童保育を利用できません」という通知はある日突然されてしまいますので、緊急に厳しい状況に陥ります。まさに「小1の壁」です。

〇実態はどうなのか?

このような状況を鑑み、放課後NPOアフタースクールでは、学童保育などの放課後の居場所を運営している事業者を対象に実態調査をいたしました。

対象者:全国の放課後の居場所運営に携わる行政職員または事業者
調査期間:2023年9月22日〜10月18日
調査方法:アンケートフォームによるWEB調査
有効回答数:331件(回答者の地域の偏りを補正するため、ウェイトバック集計をしています)

最初に聞いた質問は「要配慮児童をふくめ、すべての子どもを分け隔てなく受け入れる大切さ」をどう感じているかです。こちらについては70%の施設から肯定的な回答がありました。

次は「それを十分に達成しているか」ということです。これは45%しか肯定的な回答がありませんでした。大切さは理解しているが、実態としては受け入れが追い付いていない実情が明らかになりました。

次に知りたいのは「なぜ受け入れが行えないのか」の理由です。「要配慮児童の受け入れにあたっての課題」を聞くと、以下のような結果でした。「他害行為・他児とのトラブルへの対応(73%)」が最も多く、次が「コミュニケーションや指示を聞くことが難しい児童への対応(45%)」で、続いて「スタッフの手が足りない(40%)」となりました。

課題を大別すると「スタッフの専門性」「人手」「場所・環境」の3つの不足が浮き彫りになりました。

フリーコメントには以下のような苦しさが具体的に書かれていました。人や環境についての厳しい状況が伝わってきます。

・自分の施設では、受け入れをしなくてはならない決まりがあるそうだが、ギリギリのラインでいつも保育をしている状態でいつ大きな怪我が起きてもおかしくない
・対応するスタッフが限られている。専任のスタッフがついて対応することが難しい
・理念としては障がいの有無を理由に受入の制限はしませんが、実際にマンツーマンで対応する体制の構築はできません。介護者・保護者の付き添いが必須となります。第三の居場所拠点(無償)と、放課後等児童デイサービス(有償)との違いと認識しています
・すべての子を分け隔てなく受け入れることは、子どもの情操教育や人間関係の構築において重要だと思うが、人員不足や人数に対するスペースの狭さから、配慮を要する子どもに対しての、サポート提供に課題がある
・施設の環境が整っていない。それぞれの特性が違う為すべての児童に適した環境にすることが難しい
・自由に使える部屋が1室しかないので、いつでも静かな場所を使用することが出来ない

〇どうなれば受け入れられるのか?

このような状況の中で、どのようなサポートがあれば、すべての子を分け隔てなく受け入れることができるのでしょうか?それについても聞いてみました。

上位3つは専門性へのニーズで、「職員への研修や専門性の向上(51%)」「学校や専門機関との連携(46%)」「専門家に相談できる体制(39%)」でした。続いて「加配職員の配置(38%)」「職員間での共通理解・対応の統一(37%)」と人のニーズが挙げられます。

「専門性」「人員」のニーズに対して、現状どのくらいのサポートがあるのかについては、以下の結果でした。「配慮の必要な子どもの対応のために職員の加配(職員の追加)」があるのは51%、学童保育にはそのような補助金が設けられており、対応があるケースが多いものと考えられます。課題があるのは「専門家による巡回相談」で、それがあるのは全体の25%しかありませんでした。ここはニーズと実態が大きく乖離しています。

今回課題として挙げた「学童クビ」の問題は、総じて言うと施設側には頑張りたい気持ちがあるものの、「専門性」「人の数」「環境」が追い付かずに対応できない実情が明らかになりました。そしてもちろんですが、こうして断られてしまった子どもの数は待機児童には数えられていません。

文部科学省の発表によると、特別支援教育を受ける児童・生徒の数は、2012年から2022年の10年で、30万人から60万人に倍増しています。対象の世代における割合も2.9%から6.3%に大きく跳ね上がっています。また2022年の調査においては、通常の学級に在籍する小中学生の8.8%に「学習や行動に困難のある発達障害の可能性がある」ことも報告されています。特別支援教育を受ける6.3%と合わせると15%以上になります。もはや「特別支援」という言葉で意味する「特別」とは呼べないボリュームだと感じます。

4月に子どもの放課後の居場所を失うことは、子どもにとっても保護者にとっても大きな心理的負担があります。すべての子どもが放課後に安心して過ごせる環境が必要です。今回の調査で明らかになった、「専門性・人・環境」という3つの不足状況を少しでも改善し、子ども・保護者・放課後運営者、すべての幸せのために社会的な対応が一層進むことが望まれます。

放課後NPOアフタースクール代表理事

放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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