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シリアのアサド大統領がパリ同時テロ事件発生後初となるインタビューで欧米諸国の「テロ支援」を改めて批判

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:Kremlin/RIA Novosti/ロイター/アフロ)

シリアのバッシャール・アサド大統領は、イタリアのテレビ局RAIチャンネル(http://www.rai.tv/)のインタビューに応じ、ダーイシュ(イスラーム国)やアル=カーイダ系のシャームの民のヌスラ戦線といったテロリストの台頭や欧州での難民・移民問題の責任が欧米諸国の介入政策にあると批判した。

アサド大統領はまた、オーストリアの首都ウィーンで進められている紛争解決に向けた米、ロシア、サウジアラビア、トルコ、イランなどによる協議(ウィーン・プロセス)に関して、テロ掃討が実現する前に、反体制派との和解プロセスに期限を設定しても無駄だと述べた。

13日のパリでの同時多発テロ以降、アサド大統領がメディアの取材に応じるのはこれが初めてで、インンタビューの映像および全文(アラビア語)はSANA(映像:https://youtu.be/a609NyRI4ag、アラビア語全文:http://www.sana.sy/?p=299260)を通じて公開されている。

インタビューにおけるアサド大統領の主な発言は以下の通り:

西側はパリでの同時テロ事件の痛みしか感じていない

(13日のパリでの同時テロ事件に関して)「我々がこうした事件に5年間も苦しんできた。我々はフランス人の痛みを感じている。また事件の数日前に同様の事件が起きたレバノン人の痛みを感じている。シナイ半島上空での航空機事故で愛する人を失ったロシア人の痛みを感じている…。しかし、西側をはじめとする世界は、こうした人々の気持ちを感じ取っているだろうか? 彼らはフランス人の痛みを感じているだけだ。彼らは5年間も同種のテロに苦しんでいるシリア人の痛みを感じているのか?…。感情を政治利用することは許されない。感情はナショナリズムではなく、ヒューマニティにかかわるものだ」。

ダーイシュ台頭は、トルコ、サウジアラビア、カタール、西側諸国の支援が原因

「シリア国内には、ダーイシュの本質的、社会的な温床はない…。それ(シリア国内での一部の戦闘員の教練は)トルコ、サウジアラビア、カタールの支援によるものだ。もちろん、危機発生当初からさまざまな方法でテロリストを支援してきた西側諸国の政策によるものでもある…。彼らはさまざまな国の支援を受けている限り、中東であれ、西欧であれ、強いままであり続けることができる」。

「西側メディアは…シリア政府が国土の50%、あるいはそれ以下しか支配していないという。しかし現実は、シリアの国土の50~60%は住民が居住しない地域だ。彼らはこれらの土地をテロリストの支配下に置かれているというが、そこには誰もいないのだ…。一方、国境地帯でのテロリストの支配は…トルコ政府、そしてヨルダン政府などテロリストを支援する国の政府に関わる問題だ。この二カ国はテロリストを支援している」。

移行期間の期限は諸外国でもシリア大統領でもなく、シリア人どうしが合意して決める

(ウィーン2会議、3会議での共同声明に関して)「声明は大統領について言及していない。ウィーン会議は、政治プロセスにかかわるすべての問題がシリア人の合意に基づくと述べている…。大統領は…立憲的な措置に基づいてその進退が決せられるべきで、欧米諸国の裁量によって決せられるべきではない…。一方、期限については、我々シリア人が到達するであろう合意に従ってなされるものだ。我々が18ヶ月で合意に至らなければ、期限に意味はない…。重要でなく、また本質的でない多くのことが(合意には)盛り込まれていると思う。もっとも重要なのは、我々が(反体制派と)席を共にすることで、そのうえでシリア人が期限、ないしは行程を決めるということだ」。

「シリア人が対話のなかで、大統領選挙を実施するかどうかを決める。この問題に関してはレッド・ラインなどない。しかし、これは私が決定することではない。シリア人どうしのコンセンサスに従わねばならない」。

シリア人だけが大統領になる人物を権利を有している

(大統領職に就くことができるような「別の人物」がいるか、との問いに対して)「その質問は、あたかも私が自分に取って代わる誰かを選ぶかどうかを…話しているかのようだ。この問題は個人の持ち物にかかわるものではなく、国全体にかかわるものだ。シリア人だけが、大統領になる人物を選ぶ権利を有している。重要なのは、私が信頼できるかどうかということではない。シリア人が信頼する者であれば、いかなる者でも大統領の職に就くことになるということだ」。

「期限について話すとするのなら、それはテロを敗退させたあとに工程が開始されるべきだということになる。その前に期限を定めても無駄だ…。つまり(テロを掃討したうえで)まずは新憲法制定について話さなければならず、次にそれを信任するための国民投票、そして国会選挙などの一連の措置を話すべきだ…。これらのプロセスには2年と要しないだろう」。

武器を持つ者は反体制派にはなり得ない

「あなた方は、自分の国で反体制派が武器を持つことを受け入れることはない。それはどの国でも同じだ。武器を持ち、人々を脅し、公共財産、私有財産を破壊し、無実の人を殺す者は反体制派にはなり得ない。反体制派という言葉は政治的な表現だ。反体制派に個人的な定義など加えることはできない。反体制派とは選挙、投票箱を通じて定義されるのだ」。

(どの勢力を反体制派とみなしているのかとの問いに関して)「シリア人に聞けばよい。国民が(選挙で)選べば、それが真の反体制派だ…。しかし個人的な見解を述べるのであれば、反体制派とは大衆基盤を持ち、この国に所属する当事者をさす。他国の省庁や治安機関の本部で形成されるような組織は反体制派にはなり得ない。反体制派とは操り人形、手先、傭兵ではなく、まずはシリア人でなければならない」。

難民発生の原因はテロと西側諸国の制裁にある

「すべてのシリア人難民に、シリア国内での苦しみのストーリーがある…。しかし、彼らはなぜ去ったのか? 彼らには多くの理由があったからだ。第1の理由は、テロリストからの脅迫だ。第2に、テロリストがインフラを破壊したことの…影響だ。そして第3の理由は…、西側諸国によるシリアへの包囲(制裁)だ。避難民たちの多くが、シリアへの帰国を望むかと問われれば、すぐに戻りたいと答えるだろう。しかし、生活基盤の根本が被害を受けているなかで、どのようにしてシリアに戻るというのか? 彼らがシリアにとどまれないのはこうした理由によるのだ」。

現下の混乱に個人としての責任はある

(難民発生への責任を感じるかとの問いに対して)「危機発生当初から我々が行ってきたのは、テロとの戦いと対話支援だ…。問題は当初から、西欧に関わるものだった。彼らは現職大統領を望まず、既存の政府が破綻、衰退することを欲し、体制を転換しようとしている…。(難民問題の)主な責任は西側にあり、彼らがダーイシュやヌスラ戦線を作り出したテロリストを支援し、彼らを保護してきた」。

「私は一シリア人として過ちを犯していないなどとは言わない。戦術的レベルには日々過ちを犯している。しかし我々が採用している政策は、テロとの戦いと対話支持という二つのアプローチによって体現されている…。すべてのシリア人に今起きていることの責任がある。テロリストがシリアに入ってくることを許してしまったのは、我々シリア人の責任だ…。もちろん責任があるが、それは個人としての責任であり、詳細にかかわるものだ。その是非を今判断するのは難しい」。

シリアの紛争は真のイスラーム教徒と過激派の戦い

「(シリアの紛争は)宗教戦争ではない。それは真の宗教、すなわち基本的にはイスラーム教から逸脱した者との戦争だ。彼らは我々が自らの宗教の一部とはみなさない過激主義に傾倒している。つまり、真のイスラーム教徒と過激派の戦争なのだ。これが今日の紛争の本質だ。もちろん彼らはこの戦争にいろいろな名前をつけている。キリスト教徒に対する戦争、宗派どうしの戦争などだ…。しかし、彼ら過激派と、多数派である穏健派との戦争が行われているというのが実態だ…。彼らは神聖な表現(「アッラーは偉大なり」などの表現)を、人々を満足させるために利用しているだけだ」。

「実際のところ、この地域(中東)は、イタリア人や多くの西側の人々が考えているのとは異なり、穏健な地域、穏健な社会だ。とくにシリアは政治、社会、文化といった面でそうだと言える。この穏健さの真の理由とは宗派的・人種的多様性だ…。キリスト教徒がいなければ、この地域はさらに過激さを増してしまうだろう…。シリア人にとっての良い未来があるとするなら、我々の社会を構成するすべての集団にとっても良い未来であり、逆も然りだ」。

自身の進退をシリア国民が決定することがシリアの未来にとってよいこと

「シリアの未来が我々にとってのすべてであるとは自明だ。私の市民としての未来は、シリアの未来とは切り離せない…。私の国が良い状態になければ、私の未来も良くはならない…。しかし、もし二つの問題を秤に乗せようとするなら、つまりは、大統領がとどまれば、シリアの未来は悪くなると言ったり、大統領が去れば、シリアの未来は良くなると言うのであれば、それは西側のプロパガンダの一部に過ぎない。こうした考え方は、シリアの現状、国内に状況への解決策ではない。大統領を支持する者もいれば、支持しない者もいる…。私が大統領でいることをシリア国民が望むなら、(私がとどまることで、シリアの)未来は良いものとなるだろうし、私がいることをシリア人が望まないなかで、私がとどまれば、私が大統領でいることはシリアにとって悪いことになる。問題は単純だ」。

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2011年以降のシリア情勢をより詳しく知りたい方は「シリア・アラブの春顛末期:最新シリア情勢」(http://syriaarabspring.info/)をご覧ください。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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