Yahoo!ニュース

「走りながら考える」Bリーグ 10分ゲーム方式修正の背景とその未来は?

大島和人スポーツライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

3季目を前に行われた重要な変更

Bリーグが立ち上げに向け準備を進めていた2015年から16年にかけて、大河正明チェアマンが「走りながら考える」というフレーズを何度か口にしていたことを思い出す。このリーグは2014年11月の国際バスケットボール連盟(FIBA)による制裁から、2リーグの合流、制度設計が猛スピードで行われ、2016年9月の開幕に漕ぎつけた。文字通り走りながら考え、尋常ではないスピード感で進められたスタートアップだった。

事前に最大限の検討を行ったとしても、実行後に浮上する課題は必ずある。また前提が変われば「答え」も変わる。それはバスケやスポーツに限らない社会の摂理だ。

プロ野球やJリーグのような長い歴史を持つリーグならば、秩序はかなり固まっている。カレンダーやルールが定着し、ファンの習慣化も進んでいる。しかしBリーグはようやく2シーズン目を終えた新興リーグで、今はトライ&エラーを精力的に続けるべき時期だ。

2017-18シーズンの全日程が5月28日に終了してまもなく1か月。6月20日の理事会で、2018-19シーズンにおけるルールの重要な変更が決定された。

「10分ゲーム」が廃止され、第3戦は別日開催に

ファンから総じて好意的に受け止められているのが、B1チャンピオンシップの10分ゲーム廃止と3戦目の別日開催化だ。B1残留プレーオフ、B2プレーオフについては未定で、更に議論が行われる。

Bリーグのスケジュールは「レギュラーシーズン」「ポストシーズン」の二段構成になっている。60試合のリーグ戦を終えた翌週から、B1の8強によって行われるのが「チャンピオンシップ」だ。他に下位4チームが進むB1残留プレーオフ、B2の4強によるB2プレーオフも行われている。

B1の優勝チームを決めるチャンピオンシップは、クォーターファイナル(準々決勝)とセミファイナル(準決勝)が2戦先取方式、ファイナル(決勝)は一発勝負で行われている。クォーターファイナル、セミファイナルは週末の2日間で決着させるスケジュールだった。1勝1敗でもつれた場合は、第2試合が終了した20分後に開始される10分間(5分ハーフ)のショートゲームを「第3戦」として行っていた。

なぜ10分ゲームが行われていたのか

10分ゲームには短時間で天国と地獄の決まるスリリングさこそあったが、「10分なら高校生がプロに勝つこともできる」と評する専門家がいたように、運の要素があまりに強かった。bjリーグに起源を持つこのルールは、番狂わせの増加をメリットと捉えればいい仕組みだが、「強いチームを次のラウンドに進める」ためのレギュレーションと言い難い。自分が知る限り選手の反発は強かったし、ファンの受けもあまり良くなかった。

一方でこのルールにもメリットはあった。3試合を別日に開催するとなれば必ず集客の難しい平日開催が挟まれる。また2戦で決着した場合は、チケット収入がないにも関わらずアリーナのキャンセル料が発生する。ただしB1のチャンピオンシップをホームで開催する強豪クラブならば、そのようなデメリットと相殺するだけの集客を期待できるため、今回の決定に至った。

そもそも「草創期ならではの制度的チャレンジ」は、定着しなかったからといって、ネガティブに受け止めなくていい。サッカーのJリーグでも1993年の開幕から2003年までは通常のリーグ戦に延長戦があり、1999年まではPK戦も行っていた。PK戦も10分ゲームも世界のスタンダードを考えれば邪道だが、ビギナーを惹きつける一定の吸引力はあったのだろう。

しかしファンがその競技に慣れ、リテラシーを高めれば自然と「オーソドックスなルール」が好まれるようになる。Bリーグもそういう方向に向かっていくのではないだろうか。

3戦目開催と平日開催のデメリット

B1チャンピオンシップ3試合の開催曜日は現時点で未定だが、これも「走りながら考える」テーマだろう。「木土日」「金土日」「土日月」「土日火」と言った複数のパターンは想定されるが、それぞれに一長一短がある。大河チェアマンは「券売を考えると別日がいいし、アリーナ(のコスト)を考えると3日連続が良い」と口にしていたが、試合の質を考えれば3連戦は避けた方がいいだろう。

クォーターファイナル、セミファイナルの2日開催、ファイナルの一発勝負には、テレビの編成という問題も絡んでいた。関東、関西のいわゆるキー局がB1のクォーターファイナル、セミファイナルを中継することは難しいかもしれない。しかしローカル局にとっては「全県が盛り上がる大一番」として中継の対象となり得る。スポーツ中継をWebで楽しめる時代にはなったが、それでも地上波のリーチは圧倒的だ。

野球の日本シリーズなどもそうだが、「優勝が決まらない試合」はなかなか関心を集められない。また「あるかどうか分からない試合」の放送予定は組みにくい。テレビ関係者に聞くと「平日夜は土日の昼間に比べて枠を取り難い」という背景もあるようだ。レギュラーの帯番組を飛ばすことになるからだ。

選手やコアなファンのニーズを考えれば、3戦目の別日開催は妥当だ。一方でコスト面、地上波中継の難しさと言ったデメリットを考えれば、今回のルール変更が何の曇りもない決定とは言えない。加えてB1残留プレーオフ、B2プレーオフにすぐ波及するとは限らない。

Bリーグは開幕から悪くない2シーズンを送り、成長軌道を描いているが、決してメジャースポーツとして安泰という段階ではない。現状では施設のキャンセル料、移動費といった細かいコストに目を向ける必要がある経営規模だ。

またBリーグのアリーナは公共の体育館であるケースが多く、試合のたびに設営と原状回復を行わねばならない。看板や仮設スタンド、椅子を出したり戻したりする日本特有の作業が発生していて、大変な人手もかかる。どのクラブも社長以下スタッフ総出で取り組んでいるが、これも見逃せないコストだ。

Bリーグが目指すべき「理想」とは?

一方でBリーグが目指すべき理想は「平日にお客を集められる」「平日の夜でも中継してもらえる」状況だ。競技としての質を高めて目の肥えたファンを満足させ、男子日本代表を五輪やワールドカップの常連に押し上げるところに、このリーグのゴールはある。「足元を見た現実的な判断」は必要だが、足元ばかりを見過ぎて飛躍の機会を失うことも避けねばならない。

レギュラーシーズンも含めて「土日連戦→中5日」を基本とするBリーグのスケジュールは世界的に見てかなり特殊だ。これは集客、コストといった前提条件からある種の妥協として設定されたものなのだろう。しかしバスケのように負荷が強い競技を、疲労から十分に回復できない十数時間のインターバルで行う仕組みが「理想」とは言い難い。

Bリーグがプロ野球のように平日でも万単位の観客が集まる状態になれば、NBAと同じく週2試合、3試合を適度な間隔を空けながら消化するスケジュールが組める。チャンピオンシップのファイナルも3戦先勝、4戦先勝の長期シリーズに変えられる。アリーナの自前化、使用条件の緩和が進めば連戦にこだわる理由が一つ減る。大一番がサッカー日本代表戦のような視聴率を取れるのならば、レギュラー番組も問題なく飛ばせる。

競技力と経営力はBリーグという「車」の両輪だ。B1の観客数が堅調に推移しているが故に、クォーターファイナルとセミファイナルのショートゲームは廃止され、3戦目の別日開催が実現した。ただし、よりハイレベルな試合を見せるための「理想の日程」が実現するには、更なる観客数と収入の増加という経営的な成長が前提になる。Bリーグは中長期的な理想を意識しつつ、足元の現実にも程よく目を向けながら、未来へ進まねばならない。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

大島和人の最近の記事