トルコが占領するシリア北部のラッカ県で初の新型コロナウィルス感染者か?!
トルコの占領地で新型コロナウィルス感染者確認
シリア北部のラッカ県では、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、トルコの占領下にあるタッル・アブヤド市で4月12日、いわゆる「自由警察」の隊員1人の新型コロナウィルス感染が確認され、所属する部署の隊員全員が隔離された。
「自由警察」は、トルコのガジアンテップ市で活動する暫定内閣(シリア革命反体制勢力国民連立(シリア国民連合)の傘下組織)が所轄、トルコの支援を受け、2019年10月の「平和の盾」作戦でトルコの占領下に入ったタッル・アブヤド市やハサカ県ラアス・アイン市で警察・治安維持活動にあたっている。
タッル・アブヤド市の自治を担うとされる「地元評議会」は、市内の学校2カ所に緊急事態対応センターを設置し、感染が疑われる住民らを隔離している。
なお、複数の情報筋によると、同日には国民軍(トルコが支援する自由シリア軍、Turkish-backed Free Syrian Army、TFSA)に所属する武装集団のメンバー1人、スルーク町出身の男性2人も新型コロナウィルスへの感染を疑われ、隔離されたという。
トルコはシリア北部の「ユーフラテスの盾」地域(アレッポ県北部)、「オリーブの枝」地域(アレッポ県北西部)、「平和の泉」地域(ラッカ県北部、ハサカ県北部)を占領するが、同地で新型コロナウィルス感染者が確認されたと発表されたのはこれが初めて。
政府は新型コロナウィルス感染者が25人になったと発表
保健省は4月11日、6人の新型コロナウィルス感染者が新たに確認されたと発表するとともに、感染者1人が回復したことを明らかにした。
これにより、シリア国内(政府支配地域)での感染者数は計25人、うち死亡したのは2人、回復したのは5人となった。
イマード・ハミース内閣の新型コロナウィルス感染症対策チームは11日、公立および私立の大学、小中高等学校、専門学校での授業中止期間を5月2日に延長することを決定した。
ハミース内閣は3月13日の閣議で、3月14日から4月2日までの約3週間、公立および私立の大学、小中高等学校、専門学校での授業を中止することを決定していた。
シリア人権監視団は政府が感染者数を少なく見積もっていると発表
シリア人権監視団は4月12日、「信頼できる複数の医療筋の情報」として、ダマスカス県、アレッポ県、ラタキア県、タルトゥース県、ヒムス県、ハマー県、ダルアー県で新型コロナウィルス感染を疑われ、隔離されている住民が410人に達していると発表した。
このうち180人は検査の結果、陰性と診断されたが、42人の感染が確認されたと付言、政府の発表に疑義を呈した。
シリア人権監視団は、この発表を行った数時間後、「複数の情報筋」の話として、ラタキア県での感染者数が26人、タルトゥース県が16人、アレッポ県、ダマスカス県、ハマー県、ヒムス県、ダルアー県が合わせて30人、合計で72人に達していると主張した。
同じ日に行われた二つの発表で感染者数に30人もの開きがある理由は不明。
なお、2度目の発表によると、感染の疑いがあり、隔離されている住民は約500人に達しており、うち220人はPCR検査の結果、陰性と診断されたとしている。
このほか、同監視団によると、ダイル・ザウル県、アレッポ県、ダマスカス郊外県サイイダ・ザイナブ町で新型コロナウィルスに感染した「イランの民兵」は116人に達しているが、うち30人は回復したという。
また、反体制系サイトのアイン・フラート(フーフラテスの目)は、「イランの民兵」25人がブーカマール市で新型コロナウィルスに感染、うち15人がイラク人民動員隊によってイラクに搬送されたと伝えた。
政府当局が北・東シリア自治局の検査を阻止
ハサカ県では、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、北・東シリア自治局の緊急事態対応チームが4月12日、ダマスカス国際空港発の旅客機でカーミシュリー国際空港(カーミシュリー市)に到着した民間人に対して、新型コロナウィルスへの感染を確認するための初期検査を実施した。
北・東シリア自治局はPYDが主導する自治政体。シリア政府とカーミシュリー市を共同統治しているが、カーミシュリー国際空港はシリア政府が管理、ロシア軍が司令部を設置している。
緊急事態対応チームが検査を実施するのは、4月5日以降今回が5回目。
しかし、検査を実施していたチームは、空港を管理するシリア政府当局の「嫌がらせ」を受け、退去を余儀なくされた。
北・東シリア自治局支配地域では、新型コロナウィルス感染者が確認されたとの発表はない。
シャーム解放機構は軍事拠点の医療施設への転用を拒否
イドリブ県では、シリア人権監視団によると、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握るいわゆる「解放区」内のカフルバッティーフ村で、地元名士が4月11日、新型コロナウィルス感染症などへの対策として、文化センターを医療施設に転用することを合意した。
だが、この文化センターを軍事拠点として使用しているシャーム解放機構は、センターからの退去を拒否した。
「解放区」では、新型コロナウィルス感染者が確認されたとの発表はない。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)