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博多ラーメンと長浜ラーメンはなにが違う? 『博多一風堂』創業者と考える

山路力也フードジャーナリスト
『博多一風堂』のラーメンは博多ラーメンだ。

博多ラーメンと長浜ラーメンの境界線

『博多一風堂』創業者の河原成美さん。
『博多一風堂』創業者の河原成美さん。

 豚骨ラーメンの街、福岡市には「博多ラーメン」と「長浜ラーメン」が存在する。それぞれのラーメンの特徴を挙げていくと、「白濁した豚骨スープ」「細くて加水率の低い麺」「替え玉」など、共通する部分が非常に多い。実は福岡の人たちでもその違いを説明出来る人は少ないのだ。

 元々「博多ラーメン」のスープは白濁しているものは少なく、醤油味のラーメンだったが、長浜エリアの屋台で出されていた豚骨ラーメンと融合するような形で現在の博多ラーメンが形成されていった歴史がある。その結果、似たような2つの豚骨ラーメンが福岡市に存在することとなった。

『博多一風堂』の『浅草橋本舗』と『塩原本舗』では創業当時の味を再現したラーメンを提供中。
『博多一風堂』の『浅草橋本舗』と『塩原本舗』では創業当時の味を再現したラーメンを提供中。

 現在の博多ラーメンを語る上で欠かすことが出来ない存在が、今や世界に店舗を展開する『博多一風堂』(本店:福岡県福岡市中央区大名1-13-14)だ。創業者の河原成美さんは、当時バーを経営していたが女性でも入れるラーメン店を作ろうと、当時長浜で人気の屋台で修業して、1985年に『博多一風堂』を創業。1994年に『新横浜ラーメン博物館』に出店したことで、「博多ラーメン」の認知は全国に広まった。

 博多ラーメンの文化を牽引してきた河原さんは、長浜ラーメンと博多ラーメンの違いをどう見ているのだろうか。長浜ラーメンや博多ラーメンは、それぞれどんなラーメンなのか。河原さんのラーメンの原体験も含めて話を聞いてみた。

「長浜にあるから長浜ラーメン」

河原さんも若い頃に通った長浜ラーメンの老舗『一心亭』。
河原さんも若い頃に通った長浜ラーメンの老舗『一心亭』。

 「高校の時に親父に連れていって貰った長浜ラーメン。あれがとっても美味かったね。長浜にあった屋台の『一心亭』や『しばらく』。19歳の時に長浜でアルバイトをしていたけれど、その時に食べたのもやっぱり長浜ラーメンだよね。当時は『一心亭』や『しばらく』全盛で競い合っていて、その後に『やまちゃん』や『長浜一番』とかの時代になっていったんだよね。『元祖長浜屋』は他の屋台や店よりも安くて、焼酎を飲みに行くような店やったね。今から50何年も前の話やね。

 その頃は博多の人はラーメンと言えば長浜ラーメンだから、博多ラーメンって言葉は聞いたことがなかったね。『うま馬』や『赤のれん』とかはあったけれど、あれは単なるラーメンで、うま馬のラーメンだし赤のれんのラーメンであって、誰も博多ラーメンなんて言ってなかったよ。そして長浜ラーメンでもない、というのも分かっていた。長浜ラーメンは長浜にあるから長浜ラーメンだからね」

「長浜ラーメンは屋台のラーメン」

『元祖長浜屋』は長浜ラーメンのシンボル的な存在。
『元祖長浜屋』は長浜ラーメンのシンボル的な存在。

 「長浜ラーメンはなぜか豚頭でスープを取る店が多かったね。一方、博多のラーメン屋は豚だけではなくて鶏も使っている店が多かったので、鶏豚を使っているのが博多のラーメンという人もいたくらいだよ。当時の熱源はバーナーや築炉釜だったけれど、豚骨もゲンコツ(豚の大腿骨)は昔の火力では使いきらんやったと思うよ。

 長浜ラーメンはやっぱり屋台のラーメンというイメージで、雑というかチープというか、アジア風な食べ物ではあるよね。全国を見てもああいうラーメンはないと思うよ。細麺はやっぱり長浜ラーメンの特徴で、初めて『一心亭』の細麺を最初に食べた時はセンセーショナルやったね。カタ麺やバリカタなんかの茹で加減は『元祖長浜屋』の影響も大きいやろうね」

昔と今ではスープを炊く時間が違う

1946(昭和21)年創業の『赤のれん 節ちゃんラーメン』。
1946(昭和21)年創業の『赤のれん 節ちゃんラーメン』。

 「僕が『一風堂』を始める時に思ったのは、長浜ラーメンとは違うものを作ろうということ。だからスープも長時間炊いたし、女性が来られるように店も綺麗にして、丼も良いものを使ってレンゲもつけた。当時ウチの店に来ていた男性のお客さんは、ラーメン喰うのにレンゲなんて使えるかって怒ってたもんね。当時、東京で『ふくちゃんラーメン』が博多ラーメンって言ってたと思うけれど、博多ラーメンというイメージを定着させたのは一風堂じゃないかと思ってるよ。

 昔と今の違いで大きいのは豚骨スープを炊く時間よね。長浜ラーメンや昔の博多ラーメンはどこも時間が短かった。『一九ラーメン』や『住吉亭』もそこまでは長くないと思うけれど、僕は『一風堂』で長時間炊いたスープを出すようにした。最近だと『博多一幸舎』や『博多一双』なんかのスープは長い時間炊いているよね。スープを炊く時間が今の博多ラーメンは長いと思うよ」

博多ラーメンらしいラーメンとは

河原さんが今も通う博多ラーメンの人気店『八ちゃんラーメン』。
河原さんが今も通う博多ラーメンの人気店『八ちゃんラーメン』。

 「博多ラーメンの定義は難しいね。博多ラーメンという言葉はあくまでも県外の人や観光客が分かりやすく理解するための言葉でもあって、博多ラーメンって言ってもどこの店も違うしね。『一風堂』は一風堂のラーメンだし、『一蘭』は一蘭のラーメン。『八ちゃんラーメン』や『ふくちゃん』も違うし、『博多一双』なんかは呼び戻して回して熟成させたスープだけれど、久留米ラーメン的な製法でもあるしね

 博多ラーメンっていうのは人それぞれのイメージの中にあるのかな。博多ラーメンらしいラーメンって何だろう。僕は『一風堂』が博多ラーメンだと思っているけれど、そう思わない人もたくさんいるだろうしね。そう考えると、これが博多ラーメンだという定義はないのかも知れないね」

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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