日韓関係の悪化で、安倍政権の「観光立国」政策に暗雲垂れ込む
対馬海峡の波荒らし。日韓関係悪化のあおりを受け、韓国からの訪日客数がぐっと落ち込んでいる。このままで、安倍政権は2020年に訪日観光客を4000万人とする政府目標を本当に達成できるのだろうか。
海外から日本へ観光客を呼び込むための活動をしている国の機関、日本政府観光局(JNTO)が21日に発表した7月の訪日外国人客数は、前年同月比5.6%増の299万1200人となり、単月として過去最高を記録した。中国人旅行客の訪日査証(ビザ)発給要件が緩和されたこともあり、中国人訪日客が初めて単月で100万人を超えたことが寄与した。
しかし、1月から7月の訪日外国人客数の伸び率は4.8%にとどまり、前年同期の伸び率の13.9%と比べて、かなり勢いが鈍ってきている。
その伸び率の急激な鈍化を招いているのが、韓国からの訪日客数の大幅減少だ。7月は前年同月比7.6%減となり、56万1700人にとどまった。韓国からの旅行者は1月から7月までの累計でも4.3%減少し、442万4400人となった。7月単月でも、1月から7月までの累計でも、どちらの数字も国・地域別で最も激しい落ち込みだ。
もともと2018年は大阪府北部地震や西日本豪雨、さらには台風21号による関西空港の閉鎖の影響で、韓国人も日本への旅行を手控えた。2018年7月の韓国からの訪日外客数は5.6%減の60万8000人だった。
21日に記者会見した観光庁の田端浩長官は、筆者の質問に対し、「去年悪かった分、今年は伸ばしたかった。言葉は悪いが、去年の発射台が低いなか、今年もさらに悪かった」と述べた。
それでも、韓国人は2018年、6人に1人の割合で訪日し、韓国は訪日リピーターの多い国であることが知られている。2018年の韓国人訪日客数は、訪日外国人客数全体の4分の1を占めた。
そんな日本旅行好きの韓国人観光客の大幅減少の主な要因として、田端長官は「団体旅行など多数の訪日旅行のキャンセルが発生したこと」を挙げた。
その言葉通り、最近では、九州を中心に全国各地の観光地から観光客減少のニュースが発信されてきている。
例えば、九州運輸局によると、2019年5月に観光などで九州を訪れた外国人は前年同月比で8.4%減の36万9933人で、5カ月連続で減少した。特に中国と韓国の減少が目立っている。九州の外国人観光客の半分近くは韓国が占めるが、その韓国からの入国者数は4%の減少となった。
NHKによると、九州運輸局は「中国からの観光客が伸び悩んでいるうえ、日韓関係の悪化で、足もとでは旅行の予約のキャンセルが広がっており、今後さらに外国人観光客が減る可能性もある」との見方を示したという。
韓国の格安航空会社(LCC)の運休減便も続発している。そして、地元選出の国会議員は、観光業など地域経済への影響を心配する声を上げている。
●韓国からの観光客は今後も大幅減少か
今後の韓国からの観光客の見通しについて、田端長官は「JNTOソウル事務所による航空会社や旅行会社などへのヒアリングによると、訪日旅行のキャンセルや予約の鈍化が生じている」と述べ、今後も減少する可能性を示した。
大韓航空も8月20日、日韓関係の悪化に伴う訪日客のキャンセルが相次いでいるため、9月16日から順次、釜山―関西などの6路線を運休、釜山―成田など5路線を減便すると発表した。共同通信によると、大韓航空は7月に札幌と釜山を結ぶ路線の運航停止を発表していたが、今回のような大幅な路線見直しは初めて。
筆者が得た観光当局者からの内部情報では、韓国からの観光客は8月はさらに大幅な減少になることが既に見込まれている。
田端長官は、「日韓の間はさまざまな課題があることは承知している。国民間の人的交流は、むしろ相互理解の基盤であり、相互交流を通じて、両国民の相互理解を促進することが重要だと考えている」と述べた。
●2020年に4000万人という政府目標は達成できるのか
安倍政権はアベノミクスの中でも、観光事業に重点を置いてきた。観光立国を目指し、2020年に訪日観光客4000万人の政府目標を掲げている。しかし、日韓関係の悪化で韓国からの訪日客が激減中だ。観光立国に暗雲が垂れ込めてきている。
「観光市場に関係のない外部要因の影響で、死んでいます。2020年に4000万人の目標をどうするのか」。東アジア地域からのインバウンドを担当する観光当局者はこう嘆く。
日本を2018年に訪れた外国人客は、2017年に比べて8.7%多い過去最高の3119万人だった。政府は羽田、成田両空港の国際線増便などで外国人観光客の上積みを図ろうとしているが、思惑通りにいくかどうか。
こうした韓国からの観光客の大幅減に危機感を抱いたのか、韓国に対して強硬姿勢を貫いていた河野外相も21日の日韓外相会談後、記者団に「一人一人が何を買うか、どこへ旅行するかに、政府がどうこう言うわけではないが、政府間が難しい問題に直面しているからといって、国民の交流が妨げられる必要はない。むしろ、こういう時だからこそ国民交流を積極的にやっていくべきだ」と述べ、国民同士の交流は積極的に進めるべきだという考えを強調した。
その言葉と裏腹に、観光や旅行業界の現場に悲鳴を上げさせている政治の責任は重い。