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防護具足りずゴミ袋着用の病院で看護師死亡 死者1日100人増のNY州【米・世界最多に】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
感染者急増により、医療従事者の個人防護具(PPE)が不足している。(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨークでは3月22日の夜に外出制限(ロックダウン)が始まり、街が静まりかえっている。昼間は車の往来の音や鳥のさえずりなどが聞こえるが、夜になるとほとんど音がしない。その代わり、救急車のけたたましく鳴り響くサイレン音がよく耳に入ってくるようになった。最近はその音を聞くたびにドキッとする。

アメリカ感染者数世界最多に、NY州は1日の死者が100人に

アメリカでは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染数が日に日に増している。感染者数は3月26日、前日から2.5万人増えて7万5178人、8万1578人となり、中国を超え世界最多に達した(死者1069人、1180人)。

全米の感染者の半数にあたる3万7258人(前日から6447人増)の感染者が確認されているのが、ニューヨーク州(人口約1950万人)だ。アンドリュー・クオモ知事はこの日の定例記者会見で、州内感染者のうち入院中の患者が5327人、ICU治療中が1290人、退院した人が1517人と発表。

また死者の数も日に日に増加している。前日(25日)の1日で一気に100人が死亡し、死者の数は385人に達したことを明らかにした。

医療現場が感染者増に追いついていない

ニューヨーク州は、感染者増加のピークを今後2、3週間後と予想している。このまま感染者が増え続ければ、医療現場のベッドや設備がまったく足りない計算だ。州内のベッド数5万3000床を14万床まで増やすべく、現在大型展示会場や大学キャンパスなどのスペースにベッドを設置し始めた。

医師や看護師など医療従事者も足りていない。州では医療退職者や医学生、看護学校生などに参加を呼びかけ、3、6万2447人の応募があった。州では引き続き募集を続けており、他州から参加してくれる人の移動のために、ジェットブルー航空は無料でフライトを飛ばすことを発表した。

ICUの人工呼吸器も足りない。トランプ大統領はニューヨーク州に4000器を送ったと発表したが、クオモ知事は3万器が14日以内にないと助かる命も助からない、と危機感を示している。

医療従事者が身につける個人用防護具(PPE、防護服、マスク、手袋、フェイスシールドなど)も足りていない。使い捨てのものを使い続けたり、ほかのもので代用するケースも多く見られる。

バージニア州を28日に出航し30日にマンハッタンに到着予定の海軍の病院船U.S.N.S.コンフォートが、1000床のベッド、1200の医療備品などを携えている。人々は到着を待ちわびている。

防護のためビニール製ゴミ袋を着用する看護師

25日付のニューヨークポスト紙は「Worker at NYC hospital where nurses wear trash bags as protection dies from coronavirus」(看護師が防護のためゴミ袋を着用しているニューヨーク市の病院で、勤務者が新型コロナウイルスに感染し死亡)と報じた。

マンハッタン区のマウント・サイナイ・ウエスト病院に勤務していたアシスタント看護マネージャー、キオウス・ケリー(Kious Kelly)さん(48)は2週間前、新型コロナウイルスの陽性反応が確認された。重度の喘息持ちで先週からICUで治療中だったが、24日に入院先の病院で死亡したことが伝えられた。

記事に掲載された同僚の看護師らの写真を見てもわかる通り、防護服として黒のゴミ袋を使っている状態のようだ。関係者の証言では、物資不足が続く病院にはもう備蓄がなく、感染患者とそうでない患者の両方で同じ個人用防護具(PPE)が使用され、備蓄品が底をつきもはや使い捨てできないため、パンデミックが終わるまでずっと同じものを使い続けなければいけない状況だという。

ニューヨークタイムズ紙では、9日にケリーさんを最後に見かけた同僚の証言として「彼はその日、マスクも防護具も着けぬまま患者や病院スタッフとやりとりしていた」とある。

また同紙の別の記事(ビデオ映像)では、クイーンズの別の病院で働く医師の証言も掲載。「現場の状態はとても悪い。備品が足りず、私はこのマスクをまた後日使い回ししなければいけない」

これらの医療現場の状況について、人々からは「これがこのアメリカで起こっていることなのか?」「クオモ知事は何をしているのか?」「トランプ政権が医療従事者をこのような状況に追い込んだ」「フランスでも同じことが起こっている。医者たちはフランス政府を相手に訴訟を起こしている」などの声が上がっている。

ケリーさんの同僚、シャイナ・サムエルさんはFB投稿を通し、このように語った。

「彼は若くて “健康”だった。どうぞ皆さん、このウイルスについて真剣に受け止めてください。家にいてください(Stay home)。それができずに働いている人たちのために、どうぞお祈りください」

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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