1か月わずか103円で1億円までの賠償金支払いが可能 「自転車保険」で事故に備える
9月30日、自転車が加害者となった死亡事故のニュースが報じられました。
『自転車にはねられ歩道の高齢女性死亡 習志野署、容疑で女逮捕』(千葉日報・2019.9.30)
記事によれば、28日夕方、26歳の女性が運転する自転車が緩やかな下り坂を走行中、歩道を歩いていた70歳代くらいの女性と衝突。女性は間もなく死亡し、現行犯逮捕された自転車の女性は重過失致死の容疑に切り替えられ、調べを受けているということです。
■全国で相次ぐ、若者の自転車が加害者になる死亡事故
自転車はどちらかといえば「交通弱者」のイメージが強いと思います。しかし、歩行者にとってはときとして凶器となり、実際に重傷事故や死亡事故が頻繁に起こっています。
2018年6月には、茨城県つくば市の歩道で62歳の男性が無灯火の自転車にはねられ、死亡しました。
自転車を運転していた19歳の男子大学生は、重過失致死容疑で書類送検。「ながらスマホ」で運転していたこともわかっており、その後、保護観察処分となりました。
同年12月にも、神奈川県川崎市で自転車を運転していた20歳の女子大学生が歩行者を死亡させる事故が発生しました。
この女子大生は、左手にスマホ、左耳にイヤホン、右手には飲み物を持ちながら走行していたとのことで、その行為の悪質さが大きく報道されました。
その後の裁判で、禁錮2年執行猶予4年の判決を受けています。
2019年6月には熊本市でも、16歳の男子高校生の自転車による死亡事故が発生しています。
自転車もれっきとした「軽車両」です。道路交通法を守らなければならないのは当然ですが、重大事故の報道を見ていると運転者側のマナーが欠落しているケースが多く、大変残念です。
また、下のグラフを見ると、未成年が自転車で起こす加害事故の割合がとても高くなっていることがわかります。
通学などで毎日のように自転車を使っている中高生や大学生をお持ちのご家庭では、「自転車も重大事故の加害者になる」ということをしっかり認識させ、日ごろから注意を呼び掛けておく必要があるでしょう。
■高額化する自転車事故の損害賠償額
では、自転車が死亡事故を起こした場合、被害者への損害賠償はどうなるのでしょうか?
『クルマではなく、自転車なんだから、安く済むんじゃないの?』
と安易に考えているとしたら、それは大間違いです。
小学生の自転車であっても、幼児の三輪車であっても、加害事故を起こした場合の民事的な責任は車とまったく同じで、被害者側からは事故で生じた損害額を請求されます。その金額に差はありません。
以下は、自転車が加害者となった事故における、最近の高額賠償事例です。
万一の事故で深刻な被害を受けた被害者に対して、あなたはこのような高額な賠償金をきちんと支払うことができるでしょうか。
加害者が未成年の場合は、保護者が責任を負わなければならないことがあるのです。
しかし、加害者側に支払い能力がない場合は最悪です。
被害者側が自身の傷害保険や健康保険等を使ってかろうじてカバーしたり、最悪、泣き寝入りを強いられたりするケースも珍しくありません。
こうなってしまうと、被害者や遺族のその後の人生は破綻してしまいます。
もちろん、加害者もその賠償責任から一生逃れることはできないのです。
■自転車は軽車両。加害事故に備えて必ず賠償保険をかけおく
10月1日から、神奈川県、静岡県、長野県などが条例で自転車保険の加入を義務付けることになり、現在、関連ニュースが相次いで報道されています。
自治体によって「義務」「努力義務」という違いはあるものの、最近、全国各地でいっせいに自転車保険をすすめる動きが出てきているのはなぜなのでしょうか。
じつは、2017年5月1日に施行された「自転車活用推進法」では、自転車事故で加害者側に1億円近い賠償命令が出ていることを踏まえ、「自転車の運行による損害賠償を保障する制度」について、政府が必要な措置を講じる旨が規定されています。
2019年1月には「自転車の運行による損害賠償保障制度のあり方等に関する検討会」も設置され、専門家からの意見聴取や議論が繰り返されています。
この検討会の委員の一人で、一般財団法人全日本交通安全協会事務局長の長嶋良氏にお話を伺いました。
「自転車事故の加害者が無保険で支払い能力がない場合、被害者は補償を受けることができず、大変深刻な事態となります。こうしたことを避けるために、当初は、車やバイクに加入が義務付けられている自賠責保険と同様な制度を自転車にも導入できないかと検討したのですが、1台当たり数千円の保険料になってしまうため、これでは負担が大きすぎるということになりました。その代わり自治体の条例等で自転車保険、つまり、賠償責任保険の加入を義務付けて加入率を高めていこうということになったのです」
以下は、2019年7月時点での、各自治体の「自転車保険加入」に対する義務化への取り組みを示したものです。
「義務」と言っても、今のところ未加入者に対する罰則はありません。しかし、義務化されている地域の自転車保険加入率は確実にアップしてきているとのことです。
■子どもが乗る自転車が高級外車を傷つけても自転車保険でカバー
長嶋氏は自転車保険の有用性についてこう語ります。
「自賠責保険制度はあくまでも対人保険なのですが、多くの自転車保険(賠償責任保険)の場合は、人身、物損限らずに損害をカバーしてくれます。実際に、子どもが自転車で高級外車に傷をつけ、修理代を70万円請求されたケースがありました。こうした事故の場合でも、自転車保険から保険金がおりるので安心です」
子どもであっても、大人であっても、自転車(車両)に乗る以上、万一加害者になったときの賠償保険の備えは絶対に必要です。
自転車保険の加入を義務付ける自治体が、上記以外にも新たに増えている可能性もあります。ご自身が住民登録している地域や自転車を使用する地域の役所にぜひ確認してみてください。
ちなみに、自転車を購入した際に「TSマーク」という自転車保険に加入する人は多いと思います。
しかし、この保険は、あくまでも「第三者に死亡又は重度後遺障害を負わせたことにより、損害賠償責任を負った場合」が対象だということも覚えておいてください。
また「TSマーク」保険の有効期間は1年で、自動更新ではありません。そのため、期限切れのまま気づかずに乗っている人も多いのではないでしょうか。確認が必要です。
■自転車専用の賠償責任保険が割安
対人、対物、いずれの損害もカバーしてくれる自転車保険は、損保各社がさまざまな商品を出しています。
すでに傷害保険や自動車保険で賠償責任保険を付帯している方もおられると思いますが、ここでは、まだ賠償保険に加入していないという人のために、一例として、全日本交通安全協会がすすめている「サイクル安心保険」という自転車向けの保険を紹介しておきたいと思います。
早速、ホームページ(http://www.jtsa.or.jp/jitensyakai/)でパンフレットを確認してみたところ、保険金の上限は1億円。Webからの加入のほか、郵送での加入にも対応しているとのこと。
ポイントは、年齢制限なしで、示談交渉付き。一家でこの保険をひとつ契約しておけば、同居の親族、別居の未婚の子(*大学生の子どもが家を出て一人暮らしをしているようなケース)が起こした事故が全て補償の対象になるというのも嬉しいですね。
また、自転車保険は「自転車事故」に特化して賠償するため保険料も安くなっており、Webで申し込むと年間保険料(プランA)は1230円。郵送の場合は、年間1430円です。
Web加入なら1か月あたりわずか103円ということになりますが、ペットボトル1本分の金額で家族全員がとりあえず安心できるなら安いものではないでしょうか。
もちろん、「1億円では足りないかも……」という方は、何本契約してもOKです。
ただし、この契約(プランA)は、あくまでも自転車事故の被害者に対する賠償保険です。
ご自身の単独事故や加害者に賠償能力がないといったケースが心配な場合は、さらに傷害保険の付いたプランを選択する必要があります。
その場合は、保険料が少しアップしますので、他に加入している傷害保険や自動車保険、生命保険の内容等をしっかり確認し、ダブリのないよう気をつける必要があるでしょう。
前出の長嶋氏は今後の自転車保険の課題についてこう語ります。
「自動車によるひき逃げ事故の被害者や無保険車による事故被害者に対しては、政府保障事業と言って、国が加害者に代わって自賠責と同額まで立て替え払いをする制度があります。しかし、自転車の場合はそれがありません。つまり、自転車にひき逃げされた場合は、今のところ被害者救済の手立てがないのが現状です。今後は、自賠責ではなくても、そういうシステムの構築も必要だと考えています」
<自転車保険問い合わせ・資料請求先>
http://www.jtsa.or.jp/jitensyakai/
●サイクル安心保険コールセンター
電話番号:0120-691-744
受付時間:平日午前9時~午後5時