韓国の世論を二分する左派、右派系メディアも「元徴用工問題」で社説を掲載 主張は真っ向対立!
日本の最高裁判所にあたる韓国の大法院が19日に予定されていた三菱重工業の資産現金化を巡る最終判断を遅らせたことを翌日の社説で取り上げた韓国のメディアは全国紙、地方紙含め僅か3紙しかなかった。
(参考資料:元徴用工問題で日本企業の資産現金化が遅延しても騒がない韓国のメディア! 日本よりも関心がない?)
韓国を代表する保守系の3大大手紙「東亜日報」「朝鮮日報」「中央日報」を含め「ソウル新聞」「文化日報」「国民日報」から進歩系の代表紙「ハンギョレ新聞」までが即座に反応しなかったことから元徴用工問題への韓国世論の関心が薄いのではとみていたが、その後、一日遅れの21日に「ハンギョレ新聞」が、また昨日(22日)は「朝鮮日報」が社説で扱っていた。
「ハンギョレ」と「朝鮮日報」は韓国では左右の言わば代表紙である。
「ハンギョレ」は進歩・左派系で日本に対しては厳しい論調で知られている。これとは正反対に「朝鮮日報」は保守・右派で、日本に対しては融和的である。極端な話が、保守派は「ハンギョレ新聞」に「親北」、「反日」のレッテルを、逆に進歩派は「朝鮮日報」に「反北」「親日」のレッテルを貼っている。左と右の両極端にあるメディアの論調をみれば、韓国における徴用工問題の解決が容易でないことがわかる。
「朝鮮日報」よりも1日前に取り上げた「ハンギョレ新聞」の見出しは「『現金化』が先送りされた強制動員訴訟、韓・日政府は外交的解決策を急げ」で、「朝鮮日報」の見出しもまた「時間を稼いだ徴用賠償問題、前・現政権が共同責任で解決せよ」と、両紙とも大法院の判断が先送りされたことを批判せず、むしろ時間的余裕が生じ、外交解決の余地が生じたことを肯定的に捉えての論調となっている。もう一つの共通点は日本にも問題解決に向けてそれなりの誠意を示すことを求めている点である。
「ハンギョレ新聞」は日本については次のように論じている。
「手のひらも合わせてこそ音が鳴るように日本政府も韓国政府との対話の要請に積極的に臨むべきである。1965年の韓日請求権協定ですべての問題が解決したとの態度では一歩も前には進めない。加害国である日本政府がかえって韓国側に解決策を持ってこいと言うのは盗人猛々しいと言わざるを得ない。朝日新聞が18日付で『歴史に責任を持つ当事者である日本側も相応の行動をみせるべきである』と指摘していたが、妥当な注文だ。最小限、三菱などに下した『被害者の権利救済要請に応じるな』との指針を日本政府が撤回し、当事者間で自律的に和解を模索する道を開いてほしい。日本企業にとっても被害者らとの和解が過去から抜け出して韓国内の事業を活性化する転機となるであろう」
一方「朝鮮日報」も「日本の態度も変わらなくてはならない。隣国との歴史問題には不断の努力と忍耐が必要である。民間企業の次元で解決しようとする努力まで日本政府が防ぐ理由はない。韓日関係は両国だけの問題ではない。両国が過去にこだわり反目すれば、米国を中心とした自由主義陣営による北東アジアの安保体制を完成させることはできない。何が日本の国益なのかを考慮して欲しい」と、日本も頑なな姿勢を変え、問題解決のため韓国と共に努力にして欲しいとの願望を表明していた。但し、原告と被告の当事者間対話を求めた「ハンギョレ」とは異なり具体的な注文は付けなかった。
これ以外は両紙の社説には共通点が見当たらず、「ハンギョレ」は日本の責任を追及し、「朝鮮日報」は文在寅(ムン・ジェイン)前政権の責任追及にウエイトを置いていた。
例えば、「ハンギョレ新聞」は先送りされたことについては「即現金化による日本の猛反発は避けられたわけだが、至難な法廷闘争を強いられてきた高齢の被害者たちはさらなる忍苦の時間を強いられる境遇に陥った」と原告団を思い遣ったうえで、そうした同情論から「韓・日政府は解決策を導き出すための積極的な対話に乗り出すべきである」と主張していた。
また、「両国政府は強制動員問題の本質が人権問題であるとの認識から出発しなければならない。人権問題は国家間でいかなる合意を交わしたとしても、被害者が受け入れなければ解決できない」と指摘し、「2015年の韓日慰安婦合意の際、被害者の意見収斂なしに政府間合意をしたことでむしろ被害者の傷と国家間対立の溝だけを深めた」ことを根拠に挙げ、両国は「この点を骨身しみる教訓にしなければならない」と論じていた。
さらに尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に対しては「韓日関係改善の意志を示している点は肯定できるが、『被害者中心主義』の大原則から外れれば、解決は難しいという点に留意しなければならない」と強調し、「被害者代理人団が要求してきたように日本の加害企業と直接交渉が行われるよう日本政府を説得する必要がある」と注文を付けていた。
これに対して「朝鮮日報」の論調は日本の責任については「日帝徴用は日帝の支配と統治を不法と見なす韓国の立場からすれば不法だ。従って、被害を受けた韓国国民が不法に加担して利益を得た日本企業に対して賠償権を有する」と軽く触れながら、むしろ韓国側の問題点を指摘し、以下のように書いていた。
「1965年の韓日国交正常化当時、請求権協定で韓国は日本から有償無償で5億ドルの経済協力基金を受け取ったことにより国家と国民の請求権問題が完全かつ最終的に解決したことを約束した。日本はこの条項を挙げ大法院の賠償決定は韓国内部で解決すべき問題であると主張している。この問題が57年前の協定のたった1行で全てが終わったとする日本の主張は受け入れられない。しかし国民の請求権まで解決したと約束した韓国政府も責任から逃れられない」
続いて、同紙は以下のようにその責任の矛先を文前政権に向けていた。
「大法院の最終賠償判決は2018年に下されたため本来ならば文在寅政権下でが解決されるべきだった。しかし文在寅政権は責任を取らず、「竹やり歌」を云々しながら反日感情を刺激し、政治に利用し、合理的な議論を妨害してきた。(中略)文前政権の遺産でもあるだけに共に民主党(野党)も反対ばかりするのではなく、解決に向けた努力に加わるべきだ。同党の李相珉(イ・サンミン)議員は韓国政府が被害者に一旦賠償金を払い、後に日本企業に請求する権利を有することで長期的に解決する方策を提示している。根本的な解決策ではないが、議論のすべき案である。野党が現実的な代案を提示してこそ破局を避けることができる」
結論的には「朝鮮日報」は韓国政府が日本の企業に代わって元徴用工らに補償金を支払う代位弁済に前向きなのに対して「ハンギョレ新聞」は元徴用工と日本の企業との直接交渉による問題解決を支持し、どのような解決策も被害者の同意が大前提であることを強調していた。