日韓の将来を左右する「運命の判決日」の前日に元徴用工問題で野党から「吊るし上げられた」朴振外相
韓国大法院(最高裁)が日本企業に元徴用工への賠償を命じた判決を巡り、今日(19日)にも三菱重工業の韓国内資産売却命令に関する判決が確定する。大法院は2018年11月29日に三菱重工業に元徴用工1人につき8千万ウォンの賠償を命じていた。
昨年9月に大法院は三菱重工業の商標権(6件)や特許権(2件)の差押えを決定しているが、三菱重工業が再抗告したこともあって現金化には至らず、大法院は4月19日から現金化命令を審理していた。審理受理から4カ月となる今月19日までに大法院は「審理不続行」の是非を決定しなければならない。審理不続行となり、三菱重工業の再抗告が棄却されれば、直ちに現金化が実行される。
日韓関係の将来を左右する「運命の日」を前に昨日(18日)、韓国の国会外交統一委員会に出席した外交の司令塔である朴振(パク・チン)外交部長官(外相)が元徴用工問題で野党議員からの質問攻めにあっていた。
文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で与党だった最大野党の「共に民主党」の金炅侠(キム・ギョンヒョプ)議員は尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の8月15日の光復節での「対日発言」を槍玉に挙げ、「国民からすればあまりにも低姿勢で、(日本の)顔色をうかがっているように見えてならない。それだから日本はますます高圧的な態度を取り、(岸田首相が)靖国神社に玉串料の奉納までしているではないか」と激しく責め立て「過去史への謝罪と反省がない日本の高圧的な態度をみると、我が国の外交がちゃんとしているのか危惧されてならない」と、朴振外相を突き上げていた。
金議員はまた、外交部が大法院に意見書を提出した問題も取り上げ、「意見書の内容は審理不続行の決定をしないでもらいたい、判決を遅らせてもらいたいということなのか」と外交部の姿勢を問題視した。
(参考資料:対日融和の尹大統領の発言とは真逆の「光復会」会長の発言 元慰安婦も「日本に忖度するな!」と大統領批判)
次に質問に立った同僚の尹昊重(ユン・ホジュン)議員は真っ先に岸田首相の靖国神社への玉串料の奉納を取り上げ、この件で大統領室(大統領府)の高官が「(8月15日は)第2次世界大戦に敗戦した日という意味で閣僚が毎年靖国神社に礼を尽くすことが日本では慣習になっている」とコメントしたことについて「慣習として認めるつもりなのか」と尹政権の姿勢を指弾していた。
また、尹大統領が演説で「金大中―小渕宣言を継承し、日韓関係を早期に回復する」と表明したことについても「不法な植民地支配に対して日本政府が痛烈に反省し、心から謝罪することが金大中―小渕宣言に明文化されているのにその後の日本の歴史認識は限りなく後退している」と嘆き、「金大中―小渕宣言は過去を直視し、未来に向かいあうというものだが、日本政府は2010年以降、過去史を直視する態度を見せたことはない」と、日本への不信感を露わにしていた。
続いて、3番手として登場した趙正湜(チョ・ジョンシク)議員は外交部が大法院に意見書を提出したことを問題視し、「被害者本人らと相談もなく一方的に提出しているではないか。(意見書の内容も)資産の強制売却を遅らせて欲しいと三菱重工業が大法院に提出した意見書と同じ内容ではないのか」と声を荒らげ、朴外相を詰問していた。
また、靖国の問題でも「朴外相自らが日本に対して強い抗議と遺憾の意を表すべきではないのか。『慣習になっている』と大統領室が言うべきことではない。外交部は大統領室の責任を問うべきではないのか」と、朴外相の尻を叩いていた。
答弁に立った朴外相は意見書の提出については「韓日関係を改善するための外交努力が続けられており、その点を参考にしてもらうためであり、外交部が大法院の判決に何か影響を及ぼすとか、関与する意思は全くない。三菱の意見書とも何の関係もない。意見書については被害者側に提出したことも、主な内容についても説明している」と答え、靖国問題への対応についても「外交部は日本が過去史を美化し、日本の閣僚らが参拝したことに直ちに抗議している」と反論していた。
さらに外交部の対応が「低姿勢である」と批判されたことについては「日本も何とか韓日関係の改善のため徴用工問題を早期に解決しようと努力している」と日韓交渉の現状を説明したうえで「我々としては日本の誠意ある呼応を促しながら、日本を牽引する外交努力を傾けている」と、野党の批判をかわしていた。
大法院への外交部の意見書提出は「国家機関と地方自治団体は大法院に裁判に関する意見書を提出できる」との民事訴訟規則に基づいたものであるが、この政府意見書提出制度は朴槿恵(パク・クネ)政権下の2015年1月に大法院が新設したもので、朴政権は大法院の元徴用工判決が差し迫っていた2016年11月に今回と同様に大法院に意見書を提出し、最終判決の保留を要請していた。
当時、大法院の梁承泰(ヤン・スンテ)長官は日韓関係の悪化を懸念する朴政権の意向を受け、大法院所属機関の「法院行政処」の次長らに自ら指示し、「徴用工判決」を不当に遅らせたことがその後問題視され、2019年1月に職権乱用で逮捕されている。大法院長官の逮捕は前代未聞で、韓国史上初めてのことであった。
当時の意見書の提出は朴槿恵大統領の直接指示によるもので朴大統領は外交安保首席秘書官に「政府の意見を大法院に送り、韓国が赤っ恥をかかないように問題を終結するよう働きかけなさい」と命じたと伝えられていたが、「梁承泰裁判」で証人として出廷したこの首席秘書官は「朴大統領は『赤っ恥をかかないように』という表現が気になったのか後に『世界の中の韓国の地位を考慮して、国の品格が傷つかないように懸命に処理せよ』と、尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官(当時)に伝えようと言われた」と証言していた。
外交部の意見書を受理した大法院がどのような判決を下すのか、韓国の外交部も、原告の元徴用工らも、そして日本の企業及び政府も固唾を吞んで見守っている。