元徴用工問題で日本企業の資産現金化が遅延しても騒がない韓国のメディア! 日本よりも関心がない?
元徴用工問題は意外にも韓国では日本ほど関心がもたれていないのかもしれない。
韓国大法院(最高裁)が日本企業に元徴用工への賠償を命じた判決を巡り、日本企業のトップを切って三菱重工業の資産の現金化を巡る大法院(最高裁)の判断が19日には下されなかった。それでも、騒がれることもなく、各メディアの扱いは大きくはなかった。
大法院が19日に予定されていた最終判断を見送ったのは一部では官民協議会で意見が集約され、日本との外交交渉で解決への目途が付くまで判決を遅らせてもらいたいとの外交部の意見書を大法院が受け入れたからではないかと伝えられているが、そうだとしても主審の大法院3部の大法官(最高裁判事)が来月4日には退官するので時間的猶予は限られており、遅かれ早かれ今月中には大法院の最終判断が示されることになる。
大方の予想では大法院はすでに三菱重工業に元徴用工らへの賠償を命じる判決を下し、三菱重工業の資産差し押さえの判決も下していることから強制売却(現金化)は動かないものとみられている。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「強制徴用はすでに我が国では大法院で確定判決がなされており、その判決債権者らが法に基づき補償を受けることになっている」と発言し、また朴振(パク・チン)外相も「大法院の判断がどう出るかは分からないが、(判断を)尊重する」と言明していることから韓国政府も強制売却は既成事実と受け止めているようだ。それでも韓国政府は元徴用工ら原告が大法院の判決に基づき現金化する手続きを防ぐ手立てとして「代位弁済」を検討している。このことは公然たる事実だ。
「代位弁済」は①日本企業が一旦賠償に応じれば、後に韓国政府が日本企業に全額補填する案②韓国政府が元徴用工らの補償権(債権)を購入し、後に日本企業に請求する案③韓国政府が日本企業に代わって補償金を支出し、日本企業には請求しないが、韓国政府が設置する元徴用工らのための基金に日本企業が自発的に協力する案が検討されているが、どうやら3番目の案が有力のようだ。
すでに外交解決については「韓国経済」(「外交で解決すべき徴用工賠償 大法院に『司法自制原則』の熟考を求める」)をはじめ「ファイナンシャルニュース」(「駐日大使、外交による徴用工賠償の解決を」や「毎日経済」(「強制徴用現金化迫る・・・大法院は外交解決のための時間を与えるべき」)など経済紙3紙が揃ってすでに社説で支持を表明していたが、それ以外の新聞はどこも社説で取り上げていない。
大法院が最終判断を遅らせたことについても社説で取り上げたのはたったの地方紙を含め3紙しかなかった。
「韓国日報」は20日付の社説(「強制動員現金化一旦留保・・・日本も応えるべき」)は大法院が三菱重工業の再抗告を棄却しなかったことで現金化措置がとりあえず延期されたことについて「韓国政府は被害者らと緊密に協議し、国民の信頼をベースに外交協議を導くべきで、日本政府も韓国の努力に相応の誠意を示すべきだ」と、問題解決に向けて日本にも協力を促していた。
同紙は尹政権に対しても「政府は対策を講じるうえで被害者らを看過する愚を犯してはならない」として、市民団体が尹大統領の「8.15演説」と就任100日目の記者会見での対日発言を「(尹大統領は)一体どこの国の大統領なのか」と批判していたことについて触れ、そうした批判の声に耳を貸し、「尹政権は被害者らと何度も会って、説得し、信頼を回復しなければならない」と勧告していた。
政府に批判的な論調の多い「京郷新聞」は19日付の社説(「現金化を遅らせた大法院・・・韓日『強制動員解決策』を積極的に模索すべき」)で大法院が最終判断を遅らせたのは「苦肉の策である」と指摘し、「政府は被害者の意見を傾聴し、日本と疎通して接点を見出すための外交努力に拍車をかけなければならない」と提言していた。その一方で、与えられた猶予の時間に「生半可な弥縫策を推し進めれば、逆風が吹く可能性もあることを肝に銘じるべき」として「2015年の日韓慰安婦合意を反面教師とすべきである」と注文を付けていた。
保守の地盤である慶尚北道・大邱の地元紙「メイル(毎日)新聞」の19日付の社説(「日本の主権と衝突せずに強制徴用の補償を行うとの尹大統領の考えは正しい」)は見出しでも明らかなように以下のように尹政権が検討している「代位弁済」に支持を表明していた。
「強制徴用に対する日本の責任は明らかだ。しかし、現実的に解決するためには尹大統領の案が正しい。尹大統領は被害者側と反対する市民団体、野党を真剣に説得し、反感を最小化する努力を傾けるべきだ。韓国はもはや植民地でもなければ、貧しい国でもない。過去に自国民の生命と財産を守れなかった責任を取る次元から日本の債務を代位弁済するのが適切である。もうそろそろ被害者の涙を拭いてやり、韓日両国が未来に向かうべきだ」
今後、現金化となれば、また尹政権の解決策が提示されれば、各紙とも特筆大書し、一斉に社説で取り上げるものとみられるが、尹政権支持に回るのか、それとも反対に回るのか、マスメディアの論調が世論を左右するだけに目を離せない。