若者と先住民が国会内に座り込み歌い、警察に追い出される ノルウェー
風力発電所を設置したノルウェー政府が「フォーセン地域でトナカイ放牧をする先住民サーミ人の人権を侵害している」と最高裁判所が判決を下してから、事態が進まないまま2年が経過。ノルウェーの若者、サーミ人、環境団体らは大規模な抗議活動を開始した。
市民が国会前とカール・ヨハン通りを封鎖・座り込みしている中、一部のサーミの若者らは国会内の大広前で座り込みをしていた。
「なぜ国会にそもそも入り込めたのか」と多くの人が思うだろう。
極左政党「赤党」が「ゲストとして」サーミの若者らを国会内に招待したためだ。国会議員が「招く」形であれば、多くの人は国会内に入ることができる。赤党と用事が済んだサーミの若者らは、そのまま国会から去らず、大広間に座り込むことにした。それに憤慨したのが極右政党「進歩党」だ。進歩党は先住民の権利には関心がない政党として有名で、「サーミ議会を廃止したい」と政党プログラムまである。『サーミ人を赤党が招き、進歩党は追い出したい』と現地メディアは大いに盛り上がった。
なんと、それでもサーミの若者らは「およそ10時間も」国会の広間にいることができた。立ち去るように要求されても彼らは拒否した。広間にいる間は寝ころんでSNSを更新して抗議の様子を伝えたり、サーミの歌「ヨイク」を歌っていた。
さてその頃、空も暗くなり、20時頃には参加者を応援するためのコンサートが始まる予定だったが、事態が急展開を迎えた。サーミ人で人権活動家であるエッラ・マリエ・ハエッタ・イーサクセンさんがマイクを手にして、皆に呼びかける。
「国会内で座り込んでいる仲間たちを警察が運び出すことになった。入り口前にみんなで集まってサポートしよう」と。
そこで急遽、警察官が立っているドア前に移動。サーミの人たちはサーミの歌「ヨイク」を歌ったり、サーミ語で抗議の言葉を叫んだ。
警察官に次々と運ばれてきたサーミの若者たち。「市民的不服従」のために彼らは無抵抗でただ運ばれる。その間も駆け付けた市民たちは大きな声で歌や抗議の声を上げ続けた。
警察に運ばれてくる若者たちには、力強く握りしめた拳を空に向かってかかげたり、ヨイクを歌い続ける人もいた。
筆者の周りのサーミ人の多くは泣いていた。そもそも「権利を侵害しているのは政府なのに」という思いが駆けめぐる。警察に運ばれるという行為はやはり「怖い」ものでもある。見ているだけでも感情的になり泣く人は多い。
それでもヨイクの歌は響き続けた。多くの人が心が砕ける「警察に運ばれる」行為中に仲間たちがヨイクを歌うことは、この人たちの「行動し続ける力の源」なのだなと、現場にいて初めて実感できた。抗議活動の場でヨイクにこのような力があることは、文字や写真だけのニュース記事からは決して伝わってこないものだ。
警察に抗議場所から運び出される・撤去される場合、そのまま警察の車で連行されることもあるが、今回は国会外で彼らは解放された。今回の抗議活動はそもそも最高裁が「人権侵害をしているのは政府」と判決をくだしており、最高裁の決定を軽んじているかにみられる政府に対して弁護士界からも批判の声がでている。そのため警察も罰金などの重い罰をだしていないのだ。
この後彼らはヨイクを歌いながら国会前広場に戻り、互いを勇気づける言葉をかけ合い、コンサートが再開された。
この抗議活動はまだまだ続く。2日目からはスウェーデンの気候活動家グレタ・トゥーンベリさんと仲間たちが駆け付けるため、さらに大きな運動となりそうだ。