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ブラックバイトを怖くて辞められないと思っている方へ

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
退職願(写真:アフロ)

みなさん、こんにちは。

しゃぶしゃぶ温野菜でアルバイトしていた方の裁判がいよいよ始まったようです。

<ブラックバイト訴訟>大学生「怖くて辞められず」

「ブラックバイト」初の裁判、学生「人生を大きく狂わされた」と訴える

この事件の背景は、次の今野晴貴さんの記事に詳しく書かれていますので、ご参照ください。

「しゃぶしゃぶ温野菜」で大学生刺傷事件 なぜブラックバイトは暴力的になるのか

さて、本稿では、「怖くて辞められず」という点にスポットを当ててみたいと思います。

下記ブラックバイトの7系統の退職妨害系です。

  1. 無賃労働系
  2. ノルマ系
  3. 罰金・損害賠償系
  4. 退職妨害系
  5. シフト系
  6. ハラスメント系
  7. 解雇・雇止め系

辞めてもOK、怖くない。

まず、アルバイトに限らず、働く人全員が知っておくべきなのは、労働者の退職は自由であるということです。

そもそも憲法では職業選択の自由が保障されていますし、

民法でも

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

出典:民法627条

と定めており、2週間前に言えば退職は自由にできることになっています。

したがって、労働者が辞めることを使用者が阻止することはできません。

有期雇用は少々注意

契約期間を決めている場合、つまり有期雇用の場合は、労働者が辞める場合も「やむを得ない事由」が必要だと民法で規定されています。

もっとも、労働基準法で、

期間の定めのある労働契約を締結した労働者は(中略)民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

出典:労働基準法137条

と少し緩和されていますので、1年が経過していれば心配ありません。

問題は、1年を経過していない場合で、これは少々注意が必要です。

といえども、1年未満だからといって辞めることができないかというとそうではありません。

労働者が辞める意思を持っている限り、その意に反して働かせることは不可能です。労働者は奴隷じゃないのです。

契約の開始から1年未満の有期雇用で、やむを得ない理由がない、という場合であっても、辞めること自体は可能で、あとは損害賠償の問題になるに過ぎません。

そして、何も言わずにばっくれたり、いきなり今日、明日、辞めるというような場合であれば別ですが、事前に辞めたいということを伝えて仁義を尽くして辞める限り、使用者に損害が生じることはまれだと言えます。

さて、問題は、どういう場合に「やむを得ない事由」があるかです。

この点、しゃぶしゃぶ温野菜のような事案であれば余裕で「やむを得ない事由」はあることになるでしょう。

各種ハラスメント、長時間拘束や長時間労働による学業への支障、無賃労働(サービス残業や賃金不払い)、最低賃金以下の労働、自腹購入(自爆営業)など、「ブラックバイトあるある」に該当するような場合は、全て「やむを得ない事由」に該当する可能性が高いと言えるでしょう。

なお、昨今のブラックバイトの問題を考えると、1年未満の有期雇用の場合、労働者が自由に辞められないというのは、極めて問題があると思いますので、この点については早急な法改正が望まれます。

退職妨害あるある

よくある退職妨害の例としては、

「辞めるんだったら代わりを探してからじゃないとダメだ。」

「辞めるなら、次を募集する費用を払ってからでないと辞めさせない。それは○○万円だ。」

「辞めるとうちに損害が出る。もし辞めたら損害賠償をするからな。」

「辞めたら親に損害賠償をする。親が身元保証しているからな。」

「辞めたらお前の学校に迷惑がかかるぞ。今後、その学校のやつは採用しないし、苦情を言っておく。」

などがあります。

さて、こういったことにどう対応したらいいでしょうか?

答えは簡単です。

こういった脅しにかかわらず辞めればいいのです。

不安なら相談を

毅然とした態度で退職するのが重要です。

でも怖かったら専門家に相談しましょう。

辞めることは本来自由ですから、何も怖がる必要はありません、とアドバイスを受けることになるでしょう。

相談先の一例として、以下を挙げておきますので、困っていたらお気軽にご相談を!

【弁護士】 

ブラック企業被害対策弁護団

日本労働弁護団

【労働組合】

首都圏学生ユニオン

ブラックバイトユニオン

画像解説 ブラック企業被害対策弁護団編「ブラックバイトを、辞めます」

コンビニ編

居酒屋編

個別指導塾編

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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