ZD8型スバルBRZ STIスポーツは86史上最も上質で走りも堪能できる「大人のスポーツクーペ」だ!
スバルがBRZのマイナーチェンジを実施したのは昨年9月のことだ。MTにもアイサイトを搭載し、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール=前走車追従式クルーズ・コントロール)を利用可能にしたことが一番のトピック。しかしBRZにはもう一つ、話題があった。
それはSTIスポーツというグレードを復活させたことだ。STIと聞くと、ハードなスポーツモデルという設定を想像してしまう人もいるかもしれない。しかし実際には、STIがモータースポーツ活動で培った技術とノウハウを注入し、より上質な走りを目指したのがSTIスポーツだ。
しかも先代ZN6のSTIスポーツはザックス製のダンパーを採用していたのに対し、ZD8のSTIスポーツは日立Astemo製のSFRDダンパーを採用している。
これはフロントにSFRD(周波数感応式可変ダンパー)を採用し、ゆっくりとしたストロークと早い小刻みなストロークで減衰力を変化させ、快適な乗り心地とスポーティなハンドリングを両立するというもの。
日立Astemoへと、合併する前から日立オートモーティブとSHOWAは、それぞれ独自に機械式の減衰力可変ダンパーを研究開発していた。STIは従来からSHOWAと共同でダンパーの開発を行っていて、その最新作とも言えるのがこのZD8型BRZ用というわけだ。
今年になってようやくじっくりと試乗する機会を得たので、その乗り味をご紹介しよう。
GR86/BRZとは思えないほど、しなやかな乗り味
走らせてみると、なるほど乗り心地はこれまで乗った86/BRZ、GR86の中では、最もジェントルで上質なスポーツカーという印象だ。特に路面のギャップを走り抜ける際の、クルマから伝わる衝撃の少なさは、これがGR86と同じクルマか、と思うほどで、乗り味のしなやかさが際立っている。
先代のSTIスポーツとはキャラクターが大きく異なるこの成熟ぶりは、また多くのファンを獲得できるのではないか、と思った。スポーティカーを乗り回したいと思っても硬い足回りのクルマは御免というユーザーは少なくないからだ。
それでいてステアフィールは86/BRZならではの鋭さで、俊敏なフットワークをみせる。ステアリングを切った途端、ロールをほとんど感じさせずに横G、旋回Gが立ち上がる。
こんな動き方はスポーツカーだからこそ。ミニバンはもちろん、SUVやセダンでも強引にロール剛性を高めたところで、こんな動き方には仕上がらない。
市街地を気持ちよく走る程度の走りでは、まったく文句なく、快適でスポーティなクルマの反応を楽しむことができる。これならセダンやワゴンなどからの乗り換えでも違和感なく乗り回すことができて、スポーティカーらしい動きを楽しめるだろう。
驚いたのは、これだけジェントルな乗り心地を実現していながら、かなり本格的なスポーツドライビングにも対応できる、ということだ。ワインディングに持ち込んで鞭を入れても、ミシュラン・パイロットスポーツのグリップ限界まで受け止める。STIが練り込んだ足回りという触れ込みに間違いはなかった。
オプションで装着されたブレンボの対向ピストンキャリパーブレーキも素晴らしいフィールで、剛性感の高さから踏力の増減に対して惚れ惚れするような反応を見せてくれる。ただ残念ながら、すでにオプションとしての供給は終了してしまったらしい。
高級感も含めて考えれば、他ブランドでは500万円程度ではこの仕上がりは期待できないから、かなりコスパのいい高級クーペと見ることもできる。
今回はMTモデルを試乗したが、ATのスポーティなクーペが欲しいと思っていても、GR86/BRZでは乗り心地が硬すぎるのが気になっている人にも、このSTIスポーツはお勧めできる。