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ノルウェーは極右を政権から追い出すか 左派へ政権交代の可能性が浮上

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
ソールバルグ首相は首相の座を維持できるか? Photo:Asaki Abumi

昨年9月に国政選挙が行われ、右派政権の続投が決定したノルウェー。

しかし、現地で右翼ポピュリスト(極右)に該当する、「進歩党」が連立政権入りしている現状に、「もう、耐えられない」という政党が出てきた。

「進歩党との距離がありすぎる」

「勇気ある選択をしなければいけない」

「子どもと家族を優先する、あたたかい社会に」

「移民政策で意見の相違はあれど、ひとりの人間に対する敬意を忘れてはいけない」

28日、キリスト教民主党のハーライデ党首は、右派政権に協力する現状に終わりを告げ、左派と連立協議をすることを党に提案した。

昨年の選挙運動中、選挙スタンド前に立つハーライデ党首(中央) Photo: Asaki Abumi
昨年の選挙運動中、選挙スタンド前に立つハーライデ党首(中央) Photo: Asaki Abumi

現在の右派政権は、アーナ・ソールバルグ首相(保守党)が率いる、「保守党」・「進歩党」・「自由党」の3党による連立政権。

「キリスト教民主党」が閣外協力する形で、国会での大多数を保っている。

キリスト教民主党が、中道右派から中道左派陣営へとブロックを移動した場合、ノルウェーの政治の歴史において、大きな転換期となる。

ソールバルグ首相の政権が終わり、ストーレ党首(労働党)が率いる左派政権の誕生だ。

右派のソールバルグ首相(保守党・左ポスター)の座を、左派のストーレ党首(労働党・右ポスター)が狙う Photo:Asaki Abumi
右派のソールバルグ首相(保守党・左ポスター)の座を、左派のストーレ党首(労働党・右ポスター)が狙う Photo:Asaki Abumi

右翼ポピュリストに我慢し続けてきた小政党

閣外協力してきたキリスト教民主党は、今の右派政権にいる「進歩党」と、非常に相性が悪い。

難民や移民の受け入れに寛容的、厳しい酒の取り締まり、日曜日のお店の営業に否定的、昔ながらの家族や異性愛の在り方などを重要視するキリスト教民主党。

以前紹介した、「幼稚園・保育園を利用せず、家庭で育児する場合は月10万円の補助金 増額にノルウェーで賛否両論」という政策も、キリスト教民主党がいるからこそ、存在し続けている。

一方で、真逆の価値観をいく進歩党。特に、移民や難民に対する極端な言説は、キリスト教民主党とは対立し続けてきた。

イェンセン財務大臣が率いる進歩党 Photo:Asaki Abumi
イェンセン財務大臣が率いる進歩党 Photo:Asaki Abumi

環境や気候変動対策などを重要視する自由党も、進歩党とは相性が悪い(進歩党には、気候変動対策にそもそも関心が低い人もいる)。

問題は保守党や首相ではない。「進歩党」というジレンマ

昨年の選挙で、自由党とキリスト教民主党の2党は、「進歩党とは連立しない、一緒に政権をつくることはない」と公約していた。

しかし、自由党は有権者に約束したことを最終的に破り、進歩党とともに与党となる。

進歩党の党首(左)、保守党の党首・首相(中央)、自由党の党首(右)。このグループにキリスト教民主党が入ることが、首相の希望  Photo:Asaki Abumi
進歩党の党首(左)、保守党の党首・首相(中央)、自由党の党首(右)。このグループにキリスト教民主党が入ることが、首相の希望  Photo:Asaki Abumi

キリスト教民主党も、政権入りを首相らから望まれていた。

しかし、進歩党に対する抵抗で、「閣外協力」という形で影響力を維持した。

キリスト教民主党が、もし右派から左派ブロックへと移動することになれば、ソールバルグ政権は維持できない。

だからこそ、現地では、党の今後の行方が発表される、今回の発表に注目が集まっていた。

新たな中道左派政権を望む

ハーライデ党首は、ソールバルグ政権とお別れをし、中道左派の「労働党」と「中央党」でストーレ政権を構成することを提案。

一方で、さらに左寄りとなる「左派社会党」との連合を否定。

キリスト教民主党が、ノルウェーが右傾化するか、左傾化するかを決める

選挙運動中だった時のキリスト教民主党 Photo:Asaki Abumi
選挙運動中だった時のキリスト教民主党 Photo:Asaki Abumi

これは、党首個人の意向であり、これから約1か月間をかけて、党は右派にとどまるか、左派へと動くかを決定することになる。

現地の世論調査では、キリスト教民主党に投票した有権者は、左派よりも右派を、ソールバルグ首相を好む傾向があると出ている。同時に、彼らは「進歩党」を嫌っている。

キリスト教民主党が、長期的な目線で、方向転換を模索するには理由もある。

キリスト教民主党が特に対立しているのが、進歩党のシルヴィ・リストハウグ副党首だ。

炎上の常連、「進歩党のプリンセス」との相性が最悪

進歩党の次期党首となる可能性が高いリストハウグ副党首 Photo:Asaki Abumi
進歩党の次期党首となる可能性が高いリストハウグ副党首 Photo:Asaki Abumi

最近、「難民批判の政治家が若い難民女性に恋した、イラン旅行が原因でノルウェー漁業大臣が異例の辞任」の一件で、進歩党の前副党首が辞任。

過激な発言をするリストハウグ氏が、新たな副党首となった。

これが意味するのは、彼女がいずれ進歩党の「党首」となる可能性だ。

現在の進歩党の党首であるイェンセン財務大臣よりも、さらに喧嘩腰のリストハウグ氏。

キリスト教民主党は、そんな進歩党に、今後も付き合っていけるだろうか?

このまま右派ブロックにいるか、左派ブロックにいるかを、キリスト教民主党が考えるのはおかしくはない。

そうなると、「極右が与党」という現状が耐えられないという理由で、新たな形の中道左派政権が誕生することとなる。

党内での意見は割れており、協議はこれから始まる。

右翼ポピュリストを政権から追い出す国となるか

「今の右派政権を、それでも支持する」と党員らが来月頭に結論付ければ、ハーライデ氏は党首として辞任を迫られる可能性もある。

左派陣営は、新しい政権の可能性に、好意的な姿勢をすでに見せている。

さて、首相はどうするだろうか。

右翼ポピュリスト政党が各国で影響力を増す中で、ノルウェーはもしかすると、極右を政権から追い出すかもしれない。

Text&Photo: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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