難民批判の政治家が若い難民女性に恋した、イラン旅行が原因でノルウェー漁業大臣が異例の辞任
ノルウェー政府から、年内に大臣が二人も不祥事で辞任する事態が起きている。
移民や難民の受け入れに厳しいことで有名な、ノルウェー版右翼ポピュリスト政党「進歩党」の副党首であるペール・サンドバルグ漁業大臣(58歳)。
党が批判し続けていた国「イラン」からの28歳の難民女性と恋に落ち、夏休み中の7月に恋愛旅行に行っていたことが発覚した。
仕事用の携帯電話を政府に申告せずにイランや中国に持参
ノルウェー国家公安警察は、イラン、ロシア、中国を安全面に疑問がある国としており、閣僚らが訪問する際には十分な注意が必要とされている。
漁業大臣は、イランにプライベートで旅行することを政府や漁業省に事前に伝えておらず、「仕事用の携帯電話」を持参しており、政府の規則を破ったことになる。
携帯電話はハッキングされた可能性が高いとして、警察に没収される。
漁業大臣は、以前の中国への旅行にも仕事用の携帯電話を持っていたことが判明。
電話がハッキングされていた場合、国家レベルの情報が他国に漏れていた可能性があり、国家の安全を危険にさらしたことになる。
移民・難民の批判政党の「副党首」が、若いイラン難民女性と恋に落ちる
漁業大臣の旅行が発覚したのは7月27日。旅行中の写真がSNSで見つかり、ノルウェーメディアに報道される。
写真に一緒に写っていた「謎の女性」は、当初は仕事相手としてみられていたが、記者らに厳しく追及され、「恋人」であることを大臣は公に認めた。
ベハーレ・レトネス氏は、2000年当初にノルウェーにイランから難民申請者としてやってきた。
申請は2008年に受理され、現在はノルウェー人として生活している。元ミス・イランであったことから、美しい外見と若い年齢が、歳の離れた大臣との恋愛関係をより目立たせることに。
シーフードビジネスに関心がある女性が、漁業大臣の恋人に
問題はさらに複雑化した。ノルウェーの漁業大臣といえば、養殖ノルウェーサーモンのPR大臣でもある。
恋人のレトネス氏は、魚の輸出会社の登録をしており、ビジネスSNSの「LinkedIn」では、「ノルウェーとイラン間のアドバイザー」として名乗る。
「漁業大臣」が、「シーフードビジネスに関わる女性」と深い関係になっていたとすると、公正性が疑われることになる。レトネス氏は、企業登録しただけで、実際に魚の輸出入に関する仕事はしていないと反論している。
スパイか?と報道機関が疑う
付き合って、まだ2・3か月ほどという二人だが、レトネス氏は、以前から漁業大臣の「傍でアドバイザーとして働きたい」と動いていたことも発覚。仕事相手という立場を超えて、恋愛関係に至った過程が、さらにゴシップネタとなった。
公の恋人として、名前と顔を一気に知られることとなった、有名人レトネス氏。
スパイやイラン政権と関係がある可能性がゼロではないことから、ノルウェー警察が調査することに。関係発覚後、自分には脅迫やヘイトスピーチがきていると、「罪がないのに責められている私」の立場を強調している。
「フェイクニュースだ」と報道機関を攻撃
漁業大臣は、当初、ノルウェーメディアは、「フェイクニュース」と、「陰謀説」をまき散らしているとして、報道機関を攻撃。一部の編集長には脅迫ともみられるメールを深夜に送るなどしていた。
しかし、アーナ・ソールバルグ首相(保守党)は、漁業大臣を守りながらも、政府内での規則が破られたことは間違いがないと指摘。
恋愛に夢中になっている大臣の暴走は、それだけでは止まらなかった。
ノルウェー大臣「イランは素晴らしい国だ」
本来であれば、イランという国に批判的であるはずの進歩党の副党首であり、イランとの関係にも慎重なノルウェー政府を代表する大臣のひとりだ。
だが、「イランは素晴らしい国だ」、「世界で最も誤解されているかもしれない国」と、ノルウェー国民もイランに旅行するように推奨する発言を、ノルウェー国営国営放送局NRKの生放送や自分のFacebookで連発。
「イラン政府を支持するものではないが、イランの人々は素晴らしい」という大臣のPR発言は、国民だけではなく、進歩党の党員や支持者らを仰天させた。
移民や難民政策に厳しいはずの進歩党のイメージを、がたがたと壊す副党首。党は、ノルウェーに避難してきたにも関わらず、休暇になると「母国」に旅行する難民らを批判してもいた。
ラブラブな2人を見せつけられるノルウェー国民
恋愛中の2人は、国営放送局の生放送にも一緒に出演。女性が大臣に惚れた理由を語るなど、ラブラブなシーンを全国民にさらし、イランはそれほど危険な国ではないというPRをするなど、不思議な光景が繰り広げられた。
漁業大臣は、年末に、「大臣として」イラン大使館が主催する大晦日パーティーにも出席していたことが判明。政府間の仲良い図式と捉えられても仕方がないため、さらに問題は大きくなった。
今回の件が原因で、イランとの緊張が高まるトランプ政権と、ノルウェー政府との両国の関係に影響はないと、ノルウェー首相は答えている。
右翼支持者からの応援少なく、孤立する副党首
進歩党といえば、過激な発言などから、国会の中でも異色の政党だ。左派傾向が強いノルウェーの伝統メディアからは、厳しい報道をされることが多い。
その嵐の中で、自分たちを応援するのは、支持者と党の仲間たち、数少ない右翼ニュースサイトなどだ。しかし、恋愛に夢中になっている副党首を保護する声は少ない。大臣として辞任を求める声は、右翼内部からも続出した。
国家の安全よりも恋愛を優先
サンドバルグ氏が今回の旅行を政府に報告しなかった本当の理由も、離婚して争っている元妻(進歩党党員で、政府関係者)や、メディアからの批判報道を恐れてのことだと、娘が暴露する。
「国家の安全よりも、元妻のことを恐れていたのか」。自分の大臣としての責任と立場を自覚せず、個人の家庭問題と恋愛を優先する同氏には、さらに批判が集中した。
漁業大臣と副党首を辞任へ
夏休みが終わり、野党からは国会で厳しい質問が始まる直前。13日、同氏は漁業大臣を辞任すると正式に発表した。
自ら辞任しなかった場合、野党から不信任案が提出される可能性があった。
サンドバルグ氏は、すでに恋愛旅行の写真をFacebookに何枚も投稿し、自分を責める一連の事態を理解できずにいる姿勢を崩さずにいる。
漁業大臣として辞任することが発表された直後、同氏は進歩党の副党首も辞任することを発表。進歩党関係者は、ほっと安心したことだろう。
大臣が恋愛に夢中になって、回りが見えなくなった時
国家の安全よりも、まずは自分。難民としてノルウェーにわたり、難民に批判的な党の権力者を虜にさせた女性。恋愛に夢中になり、周囲が見えなくなった男性政治家。
自分たちは、悲劇のヒロイン。
2人の人間の恋愛は、ソールバルグ首相と政府の立場、移民・難民に批判的なはずの進歩党のイメージを揺るがすこととなった。
一連の騒動は、「もはやドラマになる」とも皮肉に報道されている。
レトネス氏は、騒動を「魔女狩り」と表現しており、恋愛中の2人は、これから記者会見を行い、報道機関に対して反撃をするとみられている。
今回の騒動で何よりもがっかりしているのは、進歩党を支持してきた人々かもしれない。
Photo&Text: Asaki Abumi