自民党への投票は「ハズレを引きたくない」リスクに満ちたソーシャルメディア世代の選択?
参議院選挙が終わり、若者の多くが自民党に投票し、立憲民主党は支持が低迷していることが明らかになりました。若者が政治的に保守化したという論調もあるようですが、「ハズレを引きたくない」という意識によるものではないかという気がしています。
「なんとなく分かる」匿名の投稿
『19歳の私が、選挙で自民党に投票した理由』というタイトルのはてな匿名ダイアリーへの投稿が話題となっています。匿名ですから、19歳という設定自体がウソかもしれませんが、普段大学生と接している感覚から「なんとなく分かる」ところが多くありました。
若者=政治的に保守というわけではない
この「まとめサイト」の影響と「民主党のイメージの悪さ」を結びつけて、若者はネトウヨ化しているやリテラシーが低い、といった話になりそうですが、そこは「違う」気がしています。
その理由は、ソーシャルメディア世代の若者への「見立て」が間違っていたことが研究や取材により明らかになってきているからです。
例えば、低所得な若者中心といったイメージで語られていたネトウヨは、中高年で自営業者などもいることが明らかになってきています(参考:樋口直人ら著『ネット右翼とは何か』青弓社)。
NHKクローズアップ現代+の取材でも、ブログの書き込みに煽られ弁護士の懲戒請求を行った人々は平均55歳、公務員や医師などであることが分かっています(参考:『なぜ起きた?弁護士への大量懲戒請求』NHK)。
そこで、数年前からソーシャルメディア世代の情報・ニュースの接触について調査したり、関係機関と議論してきました。ソーシャルメディア世代を読み解く調査も出始めています。
その中の一つに、委員を務めているNHK放送文化研究所の『放送研究と調査』2019年6月号 掲載の「ニュースメディアの多様化は政治的態度に違いをもたらすのか~」(世論調査部 渡辺洋子/政木みき/河野啓)があります。
若者は「防衛力強化」にも「同性婚」にも賛成
匿名ダイアリーにもある国防や安全の話に関連し、「防衛力の強化」の項目があり、概ね若い人が賛成する割合が高いことが分かります。Yahoo!ニュースとLINEニュースをメインメディア(ニュースに最も多く接するメディア)にしている人は、新聞やテレビをメインメディアにしている人より賛成しています。
しかし、「自衛隊明記」は、LINEニュースをメインメディアにしている人は、民放の情報・報道をメインメディアにしている人より賛成が少ないのです。
「同性婚」は概ね若い人は賛成していますが、「夫婦別姓」については30代以下の女性の賛成は40代・50代より少なく、LINEニュースをメインメディアにしている人は賛成の割合が高いという状況です。
これらのデータから言えることは、若者=ネットメディア=政治的保守、という簡単な図式に当てはめたり、政治的な保守やリベラルに分けることは危ういということです。
情報が多すぎて「ハズレを引きたくない」
ソーシャルメディア世代の情報・ニュースの接触という観点からは違ったキーワードが見えてきます。ちょうど投開票日の前日に、立ち上げたばかりの研究所の研究会がありました。
研究会では、ソーシャルメディア利用者にフォーカスした「ミドルメディアのプロトタイピングから見える大学生のニュース意識」野々山正章(softdevice inc.)、「新しいメディア満足の作り方」吉川昌孝(博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所)という2つのプレゼンテーション、そしてゼミ生による「大学生のニュースに対する態度-沖縄のフェイクニュース調査から-」があり、参加者とゼミ生、普段大学生と接している研究者で議論が行われました。
そこで、「ハズレを引きたくない」というキーワードが出てきたのです。
ソーシャルメディアに日常的に触れ、玉石混交の大量の情報に囲まれている。そのため、情報・ニュースの接触は手間がかかる割に、得るものが少ない、高リスクなものになっているのです。この「ハズレを引きたくない」というのは、ソーシャルメディア世代の社会環境にも当てはめることできるかもしれません。
終身雇用は崩れ、年金は期待できないという、リスクに満ちた不透明な社会環境は避けがたい事実であり、だからこそよほど高い確率で変化するという確信がない場合を除いて変化を望まない、とすれば野党という選択は消えることになります。
この仮説が当たっているとしたら、安倍晋三首相が会見で述べた「若い世代の皆さんから強い支持を得た」わけではなさそうですが、安倍首相が「悪夢のような民主党政権」と言ったり、「民主党の枝野さん」と何度も言い間違えたことは、効果があったかもしれません(匿名ダイアリーの「民主党のイメージが悪い」に該当する)。
「なんかちがうんです!」を説明する言葉を探していきたい
むろん、情報・ニュースの接触に対する意識を投票行動にも当てはめるのは、乱暴な「見立て」でもあり、冒頭に「気がしています」と書いたのは、調べれば調べるほど、ソーシャルメディア世代のことを掴みきれてない、誤解しているかもしれない、と思うようになっているからです。
第一回の研究会は、マスメディア世代とソーシャルメディア世代は「なんかちがうんです!」と言って始まりました。研究会での議論は、久保田麻美さん(softdevice inc.)のグラフィックレコーディングにまとまっています。
研究所では、メディア環境も、社会環境も大きく異なる世代に対し、分からないことを前提にして、その姿を捉え直してみようというチャレンジを、NHK放送文化研究所などと連携しながら進めていきたいと思います。
まずは、ソーシャルメディア世代に、これまでの考えを当てはめて、勝手にがっかりしたり、失望したり、または過剰に期待したり、しないようにしたいものです。