「水エンジン」の宇宙実証に成功したベンチャー企業「Pale Blue」世界をリードするその技術とは
前回の記事では、日本初の「水エンジン」が宇宙で実証されたニュースを解説しました。月や火星での推進剤補給も可能となる革新的な水エンジンについて、本記事では東京大学発の宇宙ベンチャー企業「Pale Blue」の活躍に迫ります。
■東京大学発の宇宙ベンチャー「Pale Blue」
2020年、東京大学発の宇宙ベンチャー企業「Pale Blue」が発足しました。Pale Blueは、水エンジンを小型衛星用に提供しており、小型衛星分野の発展に貢献することが事業目的です。
Pale Blueの由来は、1977年に打ち上げられたボイジャー1号が、人類にとって最も遠い約60億kmの宇宙の彼方から撮影したところ、地球が淡く青い点として映ったため、その写真が「Pale Blue Dot」と名づけられたことからです。地球のエネルギー源でもある水を連想させること、地球以遠でも新たな産業を生み出したいという思いが込められているとのことです。
■残念ながら宇宙実証には至らず、超小型統合推進システム「KIR」
Pale Blueが開発した超小型統合推進システム「KIR」は、JAXAが提供している宇宙実証ミッション「革新的衛星技術実証3号機(RAISE-3)」に搭載されることが決定します。打ち上げは2022年、イプシロン6号機により宇宙へ送り届けられる予定でした。KIRの他にも、RAISE-3による6つの実証テーマと、2つの小型衛星、5つのキューブサットも搭載されている、非常に多彩なミッションです。
「KIR」は、水を推進剤としたレジストジェットスラスタ、及びイオンスラスタの二つを、一つのコンポーネントに統合した超小型統合推進システムの軌道上実証を行います。
しかし、皆さんも報道などでご存知かもしれませんが、2022年10月7日に打ち上げられたイプシロンロケット6号機は、第2段のエンジンが燃焼を終了した際、ロケットの姿勢が目標からずれており、衛星を軌道に投入することが難しいと判断され、残念ながら指令破壊されることとなりました。
残念ながら宇宙実証には至らなかった水エンジンの「KIR」ですが、Pale Blueは既に次の宇宙実証計画の準備を進めていました。
■水エンジンを搭載した超小型人工衛星「EYE」
2020年、SONY、JAXA、東京大学は、リアルタイムで人工衛星からの映像を撮影できる新たなサービス「STAR SPHERE」を構築することを発表しました。このサービスを実現する超小型人工衛星「EYE」は、10cm×20cm×30cmという超小型の衛星で、Pale Blueの水エンジンが搭載されています。
2023年、EYEを搭載したSpaceX社のファルコン9ロケットが打ち上げられ、EYEは高度約500kmの地球周回軌道へ投入されました。そして、水エンジンの動作テストが実施されます。結果は約2分間の作動に成功、推力が発生したことが確認されました。おめでとうございます。
その後、EYEには複数回の姿勢制御機構の不具合が発生しましたが、2024年3月からSTAR SPHEREの体験サービスが抽選で開始しているとのことです。
今後、Pale Blueが開発した日本初の水エンジンが、世界の宇宙開発を牽引していって欲しいですね。
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