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半永久的に加速可能な「マッハ効果スラスター」NASAが出資した驚異的なエンジンの仕組みを解説(前編)

マッハ効果スラスターを搭載した宇宙船のイメージ©NASA

本記事では、燃料を必要とせず加速し続けることのできる「マッハ効果スラスター」をご紹介します。もしこのエンジンが実用化されれば、宇宙空間で半永久的に加速をすることができ、太陽系内だけでなく、星間飛行も可能と言われていますが、その開発状況を詳しく見ていきましょう。

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■NASAが出資する一発逆転の研究プロジェクト

火星基地のイメージ©JAXA
火星基地のイメージ©JAXA

現在NASAにより、革新的先進構想プログラム「NIAC」という助成金による研究支援が行われています。それは、実現性は薄いのですが、もし実現できれば極めて大きな技術革新に繋がる研究に助成される、非常に競争率の高いプログラムになっています。

その中には、金星の大気中を飛行しながら探査を行う、膨張式の無人飛行機「BREEZE」や、火星表面で宇宙飛行士を宇宙線から保護するために開発している、超伝導体でできた8つのコイルを使った磁場生成居住モジュールシステム「CREW HaT」などです。非常にユニークな研究ですね。

その中で、推進剤を必要とせず、電力だけで加速し続けることのできるエンジン「マッハ効果スラスター」も選ばれています。NASAは2017年よりこのマッハ効果スラスターの研究を既に始めているのです。

■マッハ効果とは一体どんな理論?

マッハ効果についてご説明しましょう。速度の単位でもよく耳にしたことのある、物理学者で哲学者のエルンスト・マッハが提唱したマッハの原理に基づいています。

宇宙空間に存在する全てのものは、近くの物体からも、何十億光年も遠くにある物体からも引力を感じています。そして物体がそれら全てに対して加速や減速をするごとに、物体の質量がほんの少し変化する、というアイデアです。ちなみにこれをマッハの原理と名付けたのは、アインシュタインと言われています。

■マッハ効果を利用した画期的な推進システム

マッハ効果スラスターを搭載した宇宙船のイメージ©NASA
マッハ効果スラスターを搭載した宇宙船のイメージ©NASA

そしてこのマッハの原理を利用した、マッハ効果スラスターという推進システムが提案されています。皆さんはピエゾ結晶という物質をお聞きしたことはありますでしょうか。ピエゾ結晶は一種のセラミックスで、電気を加えると膨張と収縮を繰り返します。その原理を利用し、大量のピエゾ結晶に電気を通すことで加速させ、内部エネルギーが変化することで質量を変化させます。これにより、物質をある瞬間は重く、次の瞬間は軽くすることで、物体を後ろに押し出す推進力を生み出せるという理論です。

これが実現できれば、電力だけでロケットを加速することができ、燃料を搭載する必要がなくなります。正直、そんなこと本当にできるの?と疑問に思ってしまいますね。

■小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジンは無限機関?

イオンエンジン©JAXA
イオンエンジン©JAXA

ちなみに、はやぶさに搭載されているイオンエンジンも電気推進と呼ばれています。こちらも非常に効率の高いエンジンではあるのですが、推進剤としてはキセノンを使用しているため、電力が供給され続ければ無限に加速ができる、という訳ではないんですね。

そして、カリフォルニア州立大学の物理学名誉教授である、ジェームズ・ウッドワード教授は、NASAから研究資金を得て、この理論をもとにしたマッハ効果スラスターの研究を続けています。

次回の記事では、ジェームズ教授の詳しい研究内容、そしてマッハ効果スラスターの実現性について解説していきます、お楽しみに!

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