家で過ごす人、外出する人 自粛3週目のノルウェーは今
ノルウェー政府がさまざまな対策や外出自粛要請などを出して、およそ3週間がたつ。
毎週土曜日、街の変化を写真で残している私は、3週目は首都オスロのグリーネルロッカ地区へと行ってみた。
ここにはカフェやヴィンテージショップがたくさんあり、日本のガイドブックでもよく紹介されている。
この日は7度で青空。雪がまだ残る現地では、春の兆しを感じ始めると、外で日差しを浴びたい人が多い。
とはいえ、予想以上に散歩や買い物をしている人が多くて、驚いた。
ゴーストタウンのように、人がいない場所も市内にはあるが、この地区は別世界だった。
「外出する理由になってしまうから」、「店内で人と人との距離を1メートルに保つことが難しい」という理由などで、あえて臨時休業している店も多い。テーブルやイスを取り払い、持ち帰りだけにする店もある。
一方で、テーブルなどを設置したままにして、座ることを可能にしている店には、やはり人は集まってしまう。
店内で人同士が1メートルを置いているかは、経営者の価値観がそのまま反映する。
経営者が公衆保健研究所の指示に従う人なら、店員が客に呼びかけ、距離は保たれる。しかし、見て見ぬふりをする店員が多い店では、もはや社交的距離はないも同然だった。
夜間にお酒を扱う飲食店は、後者の傾向が特に強かったために、最終的にはオスロ市が飲食店での酒の販売を禁止した。カフェなども気を付けないと、一部の店の姿勢が原因で、業界全体が規制対象となってしまいかねない。
とはいえ、小規模な店が多いこのエリアでは、どの経営者も店の未来を案じている。「地元や小さいお店を応援しよう」という風潮も、より強いからこそ、自粛とは遠い雰囲気が出てしまうのかもしれない。
できる限り家にいようとする人がいる一方、外出する人はどこの国にもいる。
「なぜ、あなたは自宅で自粛するのか」という記事は見かけないが、「なぜ、それでも外出するのか」という記事は数多い。
オスロの地元ネット新聞では、人気の観光スポットである彫刻公園やフィヨルド沿い地区にも、先週と変わらず人が多いことが紹介されている。
以前、「きっと、大丈夫。なんとかなる」という考え方のことを書いた(ノルウェー語で「デーゴルブラ」)。
「自分や周囲は大丈夫だろう」と楽観的に考える人がいる。それは不安を隠すための心理の現れなのかもしれない。
ふと、思う。「自分ひとりが社会にどれだけ影響力をもっているか、自覚がない」人も、外出するのかもしれない。
自分が動き回ることで、ほかの誰かが感染するかもしれない。地域医療が崩壊するかもしれない。長期的な経済への打撃につながるかもしれない。自分に、そんな力があるはずがない。
いや、あるのだ。あなたには、そういう力が。
ノルウェー公共局NRKの放送を聞いていたら、このようなコメントが聞こえてきた。「私の母親は外国生まれだったので、ノルウェーよりも厳しい家庭で育ちました。強い規律がある国とはいえないノルウェーでは、自粛要請があっても、『外出や山小屋に行くことは、人間の権利だ~!』という人が、どうしても出てしまう」。
「自由に動き回るのは、人権」という主張で動いている人も、確かにいそうだ。
ノルウェーにも、自宅でできる限り過ごそうとしている人はたくさんいることは、付け加えておきたい。オスロの公共交通機関を運営するRuterによると、ここ2週間での搭乗率は74%も減少した。
先週末は、自然スポットに集まるオスロ市民のことが大きくニュースとなった。だが、そのメディア効果もあって、湖などに集まる人の数は1週間後には減少(アフテンポステン紙)。
人々の意識も行動も、日々、変わっている。
いま、私のご近所の人々は、一時解雇になったが庭でひなたぼっこをしたり、庭の手入れや家の改装を楽しんだり、自宅で仕事と育児にあけくれたりしている。
自粛期間3週目になると、だいぶこの状況に慣れてきた人もいる。自宅で過ごすことを要請される分、市民は生活費や店の運営費の保証を、政府に求める動きを強めている。
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Text: Asaki Abumi