お酒や山小屋を禁止?自粛ムードすでに限界
あっという間に、仕事を失った人々
北欧ノルウェーで、大規模な新型コロナ対策が始まって、数週間がたつ。
ノルウェー政府や公衆保健研究所は、26日までのおよそ2週間、幼稚園や学校の休校、文化・スポーツ行事の中止などを求めた。
自宅で仕事・育児・勉強をして、公共交通機関はできる限り使わず、大勢では集まらないように呼び掛けている。
飲食店やお店なども、さまざまな規制で、事実上は営業が難しい。
すでに、およそ17万2000人以上が、一時的な解雇状態となり、労働福祉局に金銭的支援を求める申請をしている。
休校の決定など、首相の記者会見が続いた直後の14日。
土曜日に、首都オスロの街を歩く人は少なかった。
新型コロナによる臨時休業を知らせる張り紙が、多くの店のドアに貼られていた。
それは、ノルウェーに住んで12年目となる私にとって、見たことのない風景だった。
「家にいて」は、すでに限界?
あれから1週間。
自粛ムードが続いているノルウェーだが、街の様子はどうなっているだろうか。
昼間の土曜日にカール・ヨハン通りを歩くと、予想以上に多くの人がいて、私は驚いた。
気温は6度とあたたかく、春の香りがしはじめている。6度というのは、雪国の人にとっては、もう春だ。
長く、暗い冬が終わりを告げる。その兆しに、人々は喜ぶ。
このような日に、「家にいて」は、法律で強制しない限りは、難しいだろう。
長くて暗い冬が終わる、青空の日に家にいるのは嫌
「あなたが家にいてくれるだけで、コロナの感染拡大が防げる」。
このメッセージを受けて、街から人は一時的に減った。売り上げはあがらないからと、お店のドアも閉まった。
反対に、経営が悪化する中、「地元を応援して、サポートしてほしい」と、外に出て、何かを購入するように求める店もある。
天気が良い日は、でかけたくなる。人に会いたくなる。そして、ビールを飲みたくなる。
自粛ムードに、誰もがずっと耐えられるわけではない。
週末の快晴で、人の動きが活発化するだろうことは予想されていた。
首都では、店で酒を禁止
この青空の土曜日、オスロ市は、全飲食店で酒の提供を禁止する方針を発表した。
もともと、自粛期間は、「店での酒の提供は21時まで、店内では人は互いとの距離を1メートルは保たなければいけない」と、決められていた。
しかし、その規則を守れない・守ろうとしない飲食店もあった。
オスロ市議会は「最後のチャンスを与える」と、規則を守るように業界に伝えていたが、20日(金)も規則を破る飲食店が続出。金~日曜日は、もともとお酒を飲む人が増える。
結果、オスロの政治家は、21日(土)20時30分から、全ての飲食店で酒を売ることを禁止すると発表した。
北欧諸国は、日本とは比較にならないほど、お酒に関しては政治家がもともと厳しく取り締まっている。
首都を筆頭に、酒の規則を厳格にする自治体が、続くかもしれない。
山小屋に行かないでください!
この国には、「ヒュッタ」(hytta)という特殊なカルチャーがある。
日本語では「山小屋」、「別荘」、「丸太小屋」ともいわれる余暇施設だ。
自宅から離れた山や森の中にあり、祖父母から受け継いだ人もいれば、週末だけ有料で借りる人もいる。
春の雪解けの前になると、ヒュッタでのんびりしながら、最後のクロスカントリースキーを楽しみたい人もいる。
新型コロナが深刻化する中、ヒュッタで生活し始めたり、週末や自宅待機中に、ヒュッタに長居する人が増え始めた。
感染して、自宅隔離中なのに、「ヒュッタなら、人とあまり接触しないからいいだろう」と、家から移動する人もいる。
しかし、ヒュッタ利用率が高まると、そのエリアに人が集中し、感染拡大し、自治体の医療機関が、別の街の住人のケアをしなければいけない。
ヒュッタが多い地域の市長らは、悲鳴をあげはじめた。
結果、政府は「ヒュッタ禁止令」という、他国の人にとっては、冗談かのような規則を新たに発表したばかりだ。
森や湖に人が集まり、結局「人混み」状態
ノルウェーは自然に囲まれた国なので、人々は自然でのアウトドア活動が大好きだ。
ジムも閉まっているため、運動不足を感じている人もいる。
すると、自粛ムードの中、「人との距離を保てる自然なら、べつにいいだろう」と、多くの人が思ってしまったようだ。
この青空の週末は、森や湖に、人が集中してしまうという現象が起きている。
結局、「大勢の人が集まる」ので、感染拡大の原因になる。
公共局NRKのニュースでは、「散歩に来たら、人がいない場所を見つけるのが大変だった。こんなに天気がいいのに、家にいるのは変な感じ。外の新鮮な空気を吸いたかった」という市民の声を紹介。
「公共交通機関を使わないで」という政府や自治体のお願いを聞く人もいる。だが、反対に車で移動し、自然スポットにある駐車場が混雑する事態も起きている。
街や自然スポットに、市民が続々と出没しはじめたことは、現地メディアでも取り上げられている。
街に戻ってくる市民
人が増え始めた週末の様子や、飲酒や山小屋利用の規制を考えると、市民が自宅にとどまり続けるには、限界があることがわかる。
「できるだけ家の中にいてほしい」という政治家、医療従事者らの声が、すでに一部の市民には届かなくなっているようだ。
政治家はどんどん新しいルールを作るが、行動をおさえられるほど、一部の人は抵抗する。
家の中にずっといることで、気分が落ち込み始める人もいる。
「あなたが家にいることで、救われる命がある、医療者の負担を減らすことができる」というメッセージは、全ての人に届くわけではない。
感染者の増加がまだ続くノルウェー。人口は530万人と、北海道ほどだが、この記事を書いている時点で、感染者は1900人を超えた(公共局NRK)。
Photo&Text: Asaki Abumi