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ペドリとブスケッツ。バルサを牽引する「ビッグデータ」で示せない選手の大きな価値。

森田泰史スポーツライター
ゴールを喜ぶバルサの選手たち(写真:ロイター/アフロ)

フットボールは、進化した。

フットボールが、というより、社会が、と表現した方が適しているかもしれない。スマートフォンの普及で、社会は劇的に変わった。誰もが、何時でも、何処からでも、好きなところにアクセスできる。

そのような時代で、我々には時間がなくなった。常に、スマホとインターネットを通じて繋がっている状態で、なにかを振り返る余裕さえないのだ。

■進化の過程へのカウンター

昨季、チャンピオンズリーグで優勝したのはレアル・マドリーだった。

パリ・サンジェルマン、チェルシー、マンチェスター・シティを逆転で次々に撃破して、決勝ではリヴァプールを下して欧州の頂点に立った。「奇跡」と称されるゲームに、戦術が介入する余地はなかったと言われている。それはまさに進化の過程へのカウンターだったのかもしれない。

マドリーと対照的に、苦しんだのがバルセロナである。リオネル・メッシの退団に始まり、サラリーキャップを筆頭とした財政問題、ロナルド・クーマン前監督の解任、シャビ・エルナンデス監督の就任…。濁流に巻き込まれるように、バルセロナを取り巻く環境は変化した。

そのバルセロナを救ったのが、カンテラーノであり、ヤングプレーヤーだった。

なかでも、ペドリ・ゴンサレスの活躍は目を見張るものがあった。19−20シーズン、大ブレイクした新星だが、昨季は負傷に悩まされた。それでも、負傷明けからはチームの中心としてバルセロナの攻撃を牽引。シャビ監督がバルセロナで無敗記録を続けられた背景には、ペドリの力があった。

ドリブルするペドリ
ドリブルするペドリ写真:なかしまだいすけ/アフロ

昨今、欧州のフットボールシーンでは、「ビッグデータ」の台頭が著しい。誰がどこでどのようにプレーしたかというのは、すぐに数字に現れる。

ラ・リーガは先日、マイクロソフト社と連携して、『Beyond Stats』を立ち上げた。これまでプロフェッショナルな世界でのみ使われていたウェブサイトが、ファンに対して開かれた。このような例からも各所がビッグデータを用いてフットボールの理解を深めようとしているのは明らかである。

だがペドリのような選手は、決してビッグデータだけでは紐解けない。ルカ・モドリッチ、ベルナルド・シウバ、ケヴィン・デ・ブライネ、そういった選手も同様だ。

シティでプレーするデ・ブライネ
シティでプレーするデ・ブライネ写真:ロイター/アフロ

かつて、バルセロナの創造主である、ヨハン・クライフは言った。

「ホゼ・マリア・バケーロは世界で最もスピードがある選手だ」

バケーロは1988年から1997年までバルセロナでプレーした。クライフ監督が率いたエル・ドリームチームでゴールゲッターとして活躍し、バルセロナで16個のタイトル獲得に貢献。当時のバルセロナには、チキ・ベギリスタイン、エウセビオ・サクリスタン、フリスト・ストイチコフ、ミカエル・ラウドルップとタレントが揃っていた。

しかしながら、クライフにとって、最もスピードのある選手はバケーロだった。

バケーロは言う。「僕への最大の賛辞。それは他ならぬクライフの言葉だった。『バケーロは、ほかの選手が2タッチを必要とする場面で、1タッチでプレーできる』と言ってくれた。それ以外は何も要らなかった」

1タッチでプレーできる。その価値を、クライフは知っていた。そして、それは、こんにちのビッグデータでは解き明かせないものである。

■ブスケッツの価値

その「1タッチ」で、思い起こした選手がいる。セルヒオ・ブスケッツだ。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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