「選手は不安」、韓国の金メダリストIOC委員が語る東京五輪
約100日後の7月23日に開催が迫った東京五輪・パラリンピック。韓国のIOC(国際オリンピック委員会)選手委員で、アテネ五輪男子卓球金メダリストの柳承敏(ユ・スンミン、38)氏が韓国のラジオに出演し、東京五輪を控えた韓国選手団の様子を明かした。
●「最大限安全な五輪」が課題
柳承敏委員は韓国では広く知られた卓球選手だ。04年のアテネ五輪男子卓球個人戦で金メダル、08年の北京五輪団体戦で銅メダル、12年のロンドン五輪団体戦で銀メダルをそれぞれ獲得している。16年からは8年の任期でIOC委員となった。
柳委員は、15日午後、ニュース専門チャンネル・韓国『YTNラジオ』で約10分間、東京五輪について語った。
折しもこの日午前、日本では自民党の二階俊博幹事長の「これ以上無理だということだったら、すぱっとやめないといけない」、「それ(中止の選択肢)は当然だ。五輪でたくさん感染病をまん延させたら、何のための五輪か分からない」というコメントが報じられた。
‘中止’について話題を振られた柳委員は、「五輪前には大小の問題が常に存在していた。今回は特に1年延期された状況の上に、コロナで全国民が、全世界があえいでいることから、そんな憂慮が出ているのは事実だ」としながらも、「しかし今は、選手と参加者が最大限安全に五輪を行えるよう、努力を続けている。この時点まで、取消や延期についてどんなフィードバックも受け取っていない状況」と、予定通り行われるという認識を示した。
司会者がさらに「3月にあったIOC定期総会で、『日本で新型コロナが拡散する場合、五輪を延期または取り消すべき』という話はあったか」と食い下がると、ユ委員は「そのような憂慮は以前からあったが、IOCはシナリオ別に準備をしている。‘最大限安全な五輪’が今回の最も大きい課題であるため、たくさんの人々が動員され準備を徹底して行っている」と原則的な答えを述べた。
「無観衆での開催」についての質問もあった。
これについて柳委員は「現在は海外の観衆は受け入れないと決まった。さらに私たちIOC委員のような‘オリンピックファミリー’もゲストを伴わず一人で行くことになる。参加者数を最小限に縮小し、選手や指導者が‘安全な環境で五輪を行う’と感じられるようにするため」と説明した。
●ワクチン、スケジュール、メンタル…重なる選手の「不安」
続いて話題は、韓国での選手達が直面する新型コロナ対策の問題に移った。
柳委員は、「今も海外選手枠が確定していないので選手達は海外の大会に多く参加しなければならないが、韓国内に戻ると自宅での隔離となる。今は以前のように2週間ではなく、1週間は自宅で、残る1週間は状態を見ながら陰性の場合には集団隔離しながらトレーニングを続けられる程度に負担を減らしたが、選手は五輪が近づくにつれ、より不安を感じている」と、コロナ禍の中での選手の苦痛を代弁した。
韓国の選手達は14日、五輪まで100日となったことを期に「メディアデイ」を開き、ユニフォーム姿を披露した。これまで参加資格を得たのは21種目177人で、今後6月末までに出場権の確保を続け、最終的には27種目約340人の選手が参加すると『大韓体育会(KOC)』は明かしている。
選手の安全を確保するためのワクチン接種の問題についての言及もあった。
柳委員は「ワクチンの効能や副作用を考慮し、決まったワクチンが選手たちに提供されてほしい。今は選手が充分にトレーニングを行う時期だ。開催まで100日を切った状態で、選手にも不安がある。ワクチンをまず選手達に打つのが優先されるべきではないか、と考えている」と述べた。
‘不安’という言葉が続く。前日のメディアデイでも、選手達はワクチン接種を求める声をあげていた。
同委員はさらに、選手達が置かれた厳しい現状について「集中すべき時期なのに、不確実な部分のために精神的にとても疲労感が高まっているのが事実だ。(韓国内の)選手村では厳格な防疫指針を取り入れているため、私も選手に会いに行くことができず、選手の外出も自由ではない。メンタルの管理もしなければならない」と説明した。
そして、「ワクチンの提供が望ましい」とふたたび強調した。
なお、韓国ではアストラゼネカ社製とファイザー社製のワクチンが主に使われている。だが前者は副作用で血栓が認められたことから、韓国政府では今月8日以降、欧州や英国の例にならい30歳以下への接種を制限している。選手達は必然的にファイザー社製のワクチンを打つことになる。
(動画)上記「東京五輪メディアデイ」の現場スケッチ動画。韓国五輪選手村より引用。
●北朝鮮参加は「協議続ける」
一方、今月6日に東京五輪への不参加を表明した朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)選手団についても触れた。
柳委員は「五輪というのは世界が一つになって平和のメッセージを伝え、勇気を与える場であるため、北朝鮮の参加がとても重要なポイントになる。そのため(不参加は)予想できなかったが、時間が残っているため、協議を続けていけば別の方法があると考える」と、同国出場に向けた努力を続ける旨を明かした。
また、豪州・ブリズベンが優先交渉権を得た2032年の夏季五輪については、「まだ終わっていない。別の機会を探せるよう準備すべき」と諦めない姿勢を示した。
18年9月、韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長は『平壌共同宣言』を通じ、「2032年夏季五輪の南北共同開催を誘致するために協力する」としていた。
見てきたように、東京五輪開催に合わせ韓国では必死の努力が続けられている。4年に一度の‘平和の祭典’とはいえ、参加国に課せられた目に見えない負担は計り知れないものがある。