「ジャーナリスト追放」「マストドン排除」マスク氏の「表現の自由」の意味とは?
イーロン・マスク氏率いるツイッターが、主要メディアのジャーナリストら9人のアカウントを一斉に停止し、「マストドン」へのリンクを排除する――ツイッターで、何が起こっているのか。
運営の混乱が続くツイッターとマスク氏のニュースを取材する少なくとも9人の著名ジャーナリストのツイッターアカウントが15日、一斉に停止された。
「表現の自由の絶対主義者」を標榜するマスク氏だが、自らへの批判にアカウント停止で応えた形だ。
さらに、代替ソーシャルメディアと言われる「マストドン」へのリンクを投稿しようとすると、「問題が発生しました」と表示され、投稿できない状態が続いた。
マスク氏にとっての「表現の自由」の意味とは?
●「ドキシングをし、停止され、おしまい」
バズフィードのジャーナリスト、ケイティ・ノトポロス氏は12月15日夜、ツイッターの音声配信サービス「スペース」を使って、同日明らかになった「ジャーナリストのツイッターアカウント停止」をめぐるトークイベントを開催した。
イベントにはマスク氏のほか、ツイッターアカウントが停止された当事者であるワシントン・ポストのドリュー・ハーウェル氏や、マスク氏のプライベートジェット追跡アカウント「イーロンジェット」を発信していたジャック・スウィーニー氏も参加したという。
「ドキシング(doxxing)」とは、ネット上でユーザーの個人情報をさらす有害行為を指す。ジャーナリストたちがそれを行った、とマスク氏は主張している。
またハーウェル氏は、2020年米大統領選の最終盤、ニューヨーク・ポストがジョー・バイデン大統領の次男、ハンター氏をめぐるスキャンダル報道を投稿した際、ツイッターが非表示としたことを、マスク氏が批判していたことも指摘している。
この問題はマスク氏の旗振りによって行われた、一連の「ツイッター文書」公開の第1弾で取り上げられている。マスク氏は2022年4月、当時のツイッターの対応をこう批判していた。
※参照:「シャドーバン」「トランプ追放」Twitter文書の公開に、元CEOが投げかけた課題とは?(12/16/2022 新聞紙学的)
この主張と今回のアカウント停止は矛盾する、とハーウェル氏は指摘しているのだ。
この日、マスク氏とツイッターの報道を担当する、少なくとも9人のジャーナリストのツイッターアカウントが一斉に停止されたことが明らかになった。
停止が判明しているのはニューヨーク・タイムズのライアン・マック氏、ワシントン・ポストのドリュー・ハーウェル氏、CNNのドニー・オサリバン氏、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)のスティーブ・ハーマン氏、マッシャブルのマット・バインダー氏、サブスタックのライター、アーロン・ルパー氏、元MSNBCのキャスター、キース・オルバーマン氏、インターセプトのジャーナリスト、マイカ・リー氏、独立系ジャーナリストのトニー・ウェブスター氏だ。
これに対してマスク氏は同日夕、「彼らは私の正確なリアルタイムの位置情報を投稿した。暗殺のコーディネートというべきもので、(明らかに)ツイッターの利用規約に直接違反した」とツイートしていた。「ジャーナリストにも他のユーザーと同じドキシングのルールが適用される」とも述べていた。
マスク氏は「スペース」を数分で離脱。そして「スペース」のサービス自体も突然停止したという。
マスク氏は同日夜、「スペース」の停止について「以前からあるバグの修正」とツイートしていた(*日本時間12月17日午前7
時すぎに、「スペースは復旧した」とマスク氏がツイートしている)。
「バグ」とは、ツイッターのアカウントが停止されたはずのハーウェル氏やスウィーニー氏らが、ツイッターの「スペース」に参加し、応酬となったことを指すとみられている。
●プライベートジェット追跡騒動
今回、アカウントを停止されたジャーナリストに共通するのは、マスク氏とツイッターの報道にかかわっていたという点だ。
自社の報道を担当するジャーナリストに対して、一斉にアカウント停止で応じるという前代未聞の事態だ。
そして、この9人のもう一つの共通点が、物議をかもしてきたアカウント「イーロンジェット(@ElonJet)」停止をめぐる騒動を、そろってツイッターで取り上げていたということだ。
「イーロンジェット」はフロリダの大学生、ジャック・スウィーニー氏が2020年から運営してきたボットアカウントだ。
航空機がGPSを使って自らの位置情報を送信する「ABS-D」と呼ばれる公開データを使って、マスク氏のプライベートジェット「ガルフストリーム」を追跡し、自動配信していた。同様の航空機追跡サービスでは「フライトレーダー24」などが知られている。
12月13日には、「イーロンジェット」は「ガルフストリーム」がカリフォルニアのオークランド空港からロサンゼルス空港に、48分のフライト後に着陸したことを伝えていた。
だが翌14日の朝、「永久停止」の通知とともにアカウントが停止されていたという。
マスク氏はツイッター買収前の2021年12月にも、スウィーニー氏へのダイレクトメッセージで、セキュリティ上のリスクを理由に、アカウントの削除依頼をした経緯がある。
アカウント停止はこれだけではなく、スウィーニー氏の個人アカウント、さらに同様の仕組みで配信していた「ザックジェット」「ベゾスジェット」「ゲイツジェット」「プーチンジェット」「トランプジェット」などの25を超すアカウントも停止されたという。
これに合わせてツイッターは「個人情報とメディア」のポリシーを改定したようだ。12月14日午前10時45分(西海岸時間)にはなかった「ライブの位置情報」及びその情報への外部リンクも含めて、同日午後2時の時点では禁止項目に加えられていた。
マスク氏は14日夕、2歳になる子どもの乗った乗用車がその前日夜、ロサンゼルスでストーカー行為を受けた、とツイート。その中で、「家族への危害を支援した」として、スウィーニー氏と関連団体に法的措置を取っている、と述べていた。
このストーカー行為と、スウィーニー氏のプライベートジェット追跡ツイートを結びつけていることが、今回の騒動の始まりのようだ。だが、その二つを結びつけた理由について、マスク氏は説明をしていない。
さらに、そのアカウント停止をめぐる騒動をツイッターで取り上げたジャーナリストたちが、こぞってアカウント停止を受ける事態にいたったようだ。
冒頭の「スペース」で、ワシントン・ポストのハーウェル氏が指摘しているように、ジャーナリストたちはアカウント停止騒動について、記事やツイッターで報じているだけだった。
マスク氏は自ら「表現の自由の絶対主義者」と名乗り、ツイッター買収にあたっても「表現の自由」の旗を掲げてきた。さらに買収後の11月6日には、スウィーニー氏のアカウントを停止しないことが「表現の自由」の証しだともツイートしていた。
●「言論の自由と粛清、整合性は」
人権団体「米国自由人権協会(ACLU)」事務局長のアンソニー・D・ロメロ氏は、12月15日の声明でそう指摘している。
「職業ジャーナリスト協会(SPJ)」代表のクレア・レーガン氏も同日の声明でそう述べている。
ニューヨーク・タイムズも同日、「今夜、ニューヨーク・タイムズのライアン・マック氏を含む多くの著名なジャーナリストのツイッターアカウントが停止されたことは、問題があり遺憾だ」との声明を出し、アカウント復活を求めている。
CNNも「CNNのドニー・オサリバン氏を含む多くの記者が衝動的に不当な停止処分を受けたことは、懸念すべきことではあるが、驚くことではない。ツイッターの不安定さと変化の激しさが増していることは、このプラットフォームを利用するすべての人にとって大きな懸念であるはずだ」との声明を発表。
ワシントン・ポストの編集主幹、サリー・バズビー氏も「ドリュー・ハーウェル氏のツイッターアカウントの停止は、ツイッターを表現の自由のためのプラットフォームとして運営する、とのイーロン・マスク氏の主張に真っ向から反するものだ。ハーウェル氏は、マスク氏に関する正確な報道を公開した後、警告、プロセス、説明なしにツイッターから追放された。私たちのジャーナリストを直ちに復職させるべきだ」との声明を出している。
いずれも指摘するのは、「表現の自由」をめぐるマスク氏のこれまでの主張との食い違い、そして報道に対する攻撃だ。
●トレンド入りする「マストドン」
騒動を受けてマストドンへの乗り換えを宣言するジャーナリストやユーザーが殺到したようだ。
ツイッタートレンドには日本時間の16日夜、「マストドン」「Mastodon」が浮上した。
「イーロンジェット」のアカウント停止をめぐって、「マストドン」の公式ツイッターアカウントも15日夕に停止措置を受けていた。停止の直前に、「イーロンジェット」の「マストドン」上のアカウントをツイートしていた。
ワシントン・ポストのハーウェル氏が、冒頭の「スペース」でのマスク氏との応酬で指摘しているように、ツイッターでは「マストドン」関連のアカウントやリンクを投稿できない、という事態も発生した。
ジャック・スウィーニー氏は12月15日夜、「マストドン」への投稿で、そう述べている。
(※2022年12月17日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)