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プロ入りしたければ欠点を武器に変えよ【落合博満の視点vol.27】

横尾弘一野球ジャーナリスト
JR東日本時代の板東湧梧(現・福岡ソフトバンク)は、落合博満が注目したひとりだ。

「高卒3年目の社会人投手がいたら教えてくれよ。プロで大成する確率が高いから、できればドラフトで指名したいんだ」

 中日で監督を務めていた時、落合博満は常にこう言っていた。高卒3年目の投手が大成するという根拠は以下だ。

「21歳でプロに飛び込み、極端に言えば1年間、陸上部(投げ込みや技術練習をせずに、走り込むだけの意味)だっていい。翌年には、同い年の投手が大卒で入ってくるでしょう。その中には、ドラフト1位だって何人かいるかもしれない。その投手のピッチングを見たり、同じ練習をすれば必ず感じるはずなんだ。『1年先に入った自分のほうが、何歩も前を走っている』と。誰の評価でもなく、そう自分で感じた時の自信が、プロで成長する原動力になると思う」

 2016年のことだ。社会人のドラフト戦線では、東京ガスの山岡泰輔(現・オリックス)を筆頭に、東芝の谷岡竜平(現・巨人)や大阪ガスの土肥星也(現・千葉ロッテ)ら、高卒3年目の投手が高く評価されていた。中日でゼネラル・マネージャーを務めていた落合も、彼らを追いかけていた。

 そんな中、都市対抗東京二次予選の準決勝では、JR東日本の板東湧梧(現・福岡ソフトバンク)が山岡に投げ勝ち、一躍、有力候補に浮上する。だが、JR東日本のエースは1つ下の田嶋大樹(現・オリックス)。板東はマウンドに登ることなく都市対抗を終えると、スカウトたちからは芳しい評価が聞かれなくなる。

「いいストレートを持っているけど、それが高目にいくことが多い。やはり、きっちりと低目に投げられなければ厳しいだろう」

 それが当時の板東の評価だったが、落合はその評価を「正しい」と認めた上でこう言った。

「確かに、板東のボールは高い。けれど、スカウトのようなプロ経験者がアマチュア選手を見れば、そういう欠点はすぐに見つけられる。100点からの減点法なら、80点取れるアマチュア選手なんてそうはいない。だから私は、見つけた欠点をうちのコーチは修正できるのか、あるいは欠点を武器にできないのか見ている」

 その見方には興味が湧いたので、落合GMなら板東を具体的にどうするか聞いた。

「高目にいくと言っても、板東のストレートにはなかなか力がある。あのフォームで低目に投げさせるには無理があるので、ストレートは高くなることを気にするな、と言うかな。その代わり、変化球は徹底して低目に集められるように練習させる。ストレートは高目、変化球は低目で自分の投球スタイルを作りながら、慣れていきながら色々と考えればいいんじゃないか」

真っ直ぐがシュート回転するならインコースを突け

 板東はその年のドラフト指名を自ら辞退し、2年後の2018年に都市対抗でベスト4進出に貢献。福岡ソフトバンクから4位指名されて入団した。その都市対抗を視察していたスカウトにも、「板東の真っ直ぐが高くいくのを無理に修正させちゃダメだよ。それなら、変化球を低目に集める練習をさせたほうがいい」と言いながら、「プロではやっていけるでしょう」と、落合は指名に太鼓判を押していた。「もう5年目だから、私なら獲らないけどね(笑)」とオチをつけながら……。そして、プロ入りを目指すアマチュア選手に、ひとつの考え方を示す。

「指導者やプロのスカウトから、『真っ直ぐがシュート回転するのが欠点だ』と言われれば、それを直さなければプロ入りできないと思うでしょう。だからと言ってシュート回転しない投げ方を模索したら、ほかの長所が消えてしまうかもしれない。打撃フォームも同じなんだけど、何か1か所を直せばよくなるという簡単なことではないんだ。ならば、そのシュート回転する真っ直ぐを生かせる方法はないか考えてみる。そもそも、右打者の外を狙った真っ直ぐがシュート回転して真ん中付近にいくからダメなわけで、右打者の内、左打者なら外へきっちり投げればそうは打たれないだろう。シュート回転の真っ直ぐは右打者のインコース限定で使い、ほかのコースは他の球種で攻めればいい。そうやって結果を残していく中で、また違う攻め方を勉強すればいいんじゃないか」

 高い壁が目の前に現れたら、無闇やたら登ろうとするな。その壁の高さ、幅を測りながら、左右に歩いていけば、どこかで壁はなくならないのか。トンネルは掘れないか。その壁の向こう側へ行くことを目的に、色々と考えてから行動すべきだ。

 現役時代から視点を変えてみることを重んじる落合は、欠点も武器に変える方法を考えよ、と説く。

(写真=小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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