源氏物語にも登場した古の和菓子「椿餅」鈴懸さんの羽二重餅を噛みしめつつ自慢のこし餡を謳歌する
繊細な上生菓子や歳時記に応じた和菓子の源流は京都にあるといっても過言ではない程、和菓子文化の発祥地と言えるのではないでしょうか。そろそろこのお店ではあのお菓子が販売され始めるかな、とSNSだけではなく暦とにらめっこする日が増えてきた師走の今日この頃。
年の瀬になると、和菓子の世界もより一層慌ただしく、また、華やかになってくるのですが、その中でも淑やかで無駄をそぎ落とした美しさを放つお菓子があるのです。
源氏物語の「若菜上」というお話にも登場する古より愛され続けてきたお菓子は、貴族の蹴鞠大会の際にも供されたという由緒正しき和菓子。
今回は福岡県に本店を構える「鈴懸」さんから、一足早く「椿餅」が登場したのでご紹介。
凛とした佇まいの椿餅は、静寂さの中にもどこか温もりを見いだせるような気がします。ふっくらと蒸しあげられた羽二重餅は仄かに芯を感じさせつつも、噛みしめるとふっくらとした糯米の甘味が鼻腔へと立ち昇るような仕上がりに。後からそっと追いついてくるような微かな青い清涼感、そして滴るような皮むきこし餡。
歯応えのある糯米に歯を立てると同時に、思わず啜りたくなるほど湿潤なこし餡。このふたつの差異がまたたまりませんね。
そうそう。鈴懸さんは雪肌のような生成りの色合いですが、薄茶色の餅肌の椿餅もあるのです。それは平安時代、甘味料が貴重だった平安時代は、甘葛という植物(木の枝のような)の切り口から採取される樹液を煮詰めた、薄いメープルシロップのような色合いの液体で甘味をつけていたからとも言われています。
初めて椿餅の謂れを耳にしたときは、「お砂糖味なんかついてないだろうし、サッカー(蹴鞠)の合間につまむ一口サイズのおにぎりみたいなものか」とイメージしたのですが全く異なり、その時にのみ配られるような貴重なものだったとか。
つるりとした肉厚な深緑の葉に指先を這わせながら、紅や白の花がほころぶ時節を待ちわびて。しっとりとした餅肌を味わう冬の訪れでした。
<鈴懸・麻布台ヒルズ店>
公式サイト(外部リンク)
東京都港区虎ノ門五丁目9-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザC地下1階
03-5860-1030
11時~20時
定休日 1月1日、1月2日