本当に人道的?ウクライナ「避難民」受け入れの欺瞞と差別
今日24日で、ロシア軍がウクライナに侵攻して半年となる。ウクライナ現地では主に東部や南部で激しい戦闘が続き、停戦の目途は立っていない。日本政府は、ウクライナから避難してきた人々を受け入れているものの、実は、難民として認めているわけではなく、ウクライナから逃げてきた人々のほとんどは、「避難民」という不安定な立場のままだ。
〇激戦地から逃げてきても難民として認められない
「日本に逃げてこられて良かった。でも、いつまでいられるか心配。ウクライナに残っていた私の兄は先日、ロシア軍の攻撃で殺されました。危なくて帰りたくても帰れません…」
そう話すのは、日本に逃げてきた20代のウクライナ人の女性。ロシア軍による激しい攻撃に晒されているウクライナ北東部ハルキウ州の出身だという。同州の州都ハルキウには、筆者も今年4月に現地入りし取材を行ったが、非常に厳しい状況だった。1日の間に何度もロケット弾や砲弾が降ってくる。それが毎日のことだ。攻撃は無差別で、住宅地やショッピングセンター、学校や病院などが被害を受けていた。筆者自身、取材中、すぐ近くにロシア軍のロケット弾が着弾。なんとか近くのシェルターへ逃げ込んだが、正直、かなり危なかった。
ハルキウ州は、現在も厳しい情勢であるが、誰がどう見ても危険な現地から逃げてきた、上記の女性のようなウクライナの人々を、日本政府は、実は、「難民」としては認めていない。あくまで「避難民」という特例的な扱いなのだ。
なぜ、日常的にロケット弾や砲弾が雨あられと降ってくるようなところから逃げてきた人々が「難民」ではないのか。それは、日本の難民認定審査に大きな問題があるからだ。現状、日本では法務省・出入国在留管理庁(入管)が難民認定審査を行うが、難民か否かを判断する基準として、「個別把握論」というものがある。これは、「政府等に迫害すべき標的として個別に把握され、実際に狙われていない限り難民ではない」という、日本独自の謎ルールだ。しかも、その迫害対象であることを、難民認定申請者が証明しなくてはならず、現地政府の逮捕状など具体的な証拠を求めるなど、極めてハードルが高い。1%以下という、他の先進国に比べ、桁違いに日本の難民認定率が低さも、この個別把握論によって、難民認定申請者のほとんどが、「難民ではない」とされてしまうからなのである。ウクライナから逃げてきた人々も、そのほとんどがロシア側から標的として個別に把握され狙われているわけではない。だから、日本に逃げてきたウクライナの人々は「難民」ではない、ということになってしまうのだ。
〇ウクライナ人以外は露骨に差別
日本政府は、ウクライナ「避難民」に対し、期限付きであるが在留資格を認め、就労や当面の衣食住の支援も行うなど、他の紛争地からの難民認定申請者とは別格扱いの待遇で受け入れている。ただし、この措置は当初、6か月間という期限のあるものだった。ロシア軍の侵攻が長期化する中で、政府はウクライナ避難民の支援をさらに6か月延長する方向で調整しているとのことであるが、それならば、これを機会に避難民ではなく、難民として認定するべきではないのか。難民として認定された場合は、延長可能な5年間の在留許可、就労や国民健康保険の加入が認められ、必要に応じて行政支援も受けられる。ネックなのが、上述の個別把握論であるが、そもそも、この独自ルール自体がUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)がそのハンドブックにまとめた難民審査のあり方から逸脱したもので、見直されるべきだろう。
また、迫害から逃れ庇護を求めてきた難民申請者に対する差別的な対応も改めるべきだろう。昨年2月にクーデターが起き深刻な人権侵害が続いているミャンマー、同8月にイスラム原理主義組織タリバンが政権を奪取したアフガニスタン*など、ウクライナ以外の国からの難民認定申請者に対し、入管は露骨に冷遇していると、当事者や支援団体、弁護士達は繰り返し訴えてきたのだ。
日本は難民条約を批准しており、難民を庇護する義務がある。難民を難民として認めないような、独自基準は撤廃すべきであるし、母国での迫害や命の危険がある人々を出身国で差別するようなことはあってはならないだろう。
(了)
*今月23日、日本大使館で働いていたアフガニスタン人やその家族を、入管は突如、難民認定したが、これも野党議員らに再三追及されてのものと思われる。また、タリバンの政権奪取後、日本に避難してきたアフガニスタン人の人々に対し、難民認定制度や在留資格制度について十分な情報を伝えることなく、帰国を勧めるという対応を取っていた疑いがあることが指摘されている。