桜前線は日本が春になってゆくバロメーター
官から民への桜の開花予想
寒い日が続くなかで、民間の気象事業の行っている桜の開花予想がインターネットなどで流されていますが、気象庁では、現在は桜の開花予想を行っていません。
気象庁では、昭和30年(1955年)から平成21年(2009年)まで、沖縄・奄美地方を除く全国で桜の開花予報を行ってきました。しかし、民間気象事業者が実力をつけ、気象庁と同等の情報提供を行うようになったことから、平成22年(2010年)以降は、予報をやめ、観測のみを行っています。
つまり、桜の開花予報が官から民へ移行(民営化)が行われました。
現在、気象庁では、季節現象と密接な動植物について観測し、統計をとっているだけです。植物では梅、椿、桜、萩などの開花、桜の満開、動物ではヒバリ、ウグイス、ツバメ、モンシロチョウなどの初見や初鳴きなどを観測しているのです。
気象庁での桜の観測は、ほとんどの地方ではヨメイヨシノを観測していますが、例外は、根室のチシマザクラ、根室以外の北海道のエゾヤマザクラ、沖縄のヒカンザクラです。そして、桜の開花の平年日などの統計資料を発表しています(図1)。
桜の開花前線は、前線と名は付いていますが、寒冷前線のような気象状態を表すものではなく、桜の開花が同じ地点を日本地図上で結んだものです。植物の状態を表している桜前線は、通過するときには暖かさを運んでくるというイメージがありますが、通過後も寒さが残ることがあります。本格的な春は、桜の開花前線が通過後です。
各社の桜の開花予想
桜の開花予報は社会的関心が高く、大規模に桜の開花予報を行っているウェザーマップ、ウエザーニューズ、日本気象協会、日本気象株式会社などの気象事業者は桜の開花予想をインターネット等で発表しています(図2)。
桜の開花時期は、暖かい日が長く続くと早まる等、様々な気象の影響を受けます。意外に思われるかもしれませんが、冬の寒さも開花を決める要因です。
桜は、夏から秋にかけて翌春の花芽を作り休眠に入ります。しかし、実は冬の厳しい寒さに一定期間さらされるとこの休眠が解けます。これを、「休眠打破」といいますが、その後暖かくなったときに一気に成長が始まります。
今年は、2月の厳しい寒さにより、休眠打破は十分条件をみたしていますので、今後、暖かさが、どのタイミングで、どれくらいになるのかが桜開花予報のポイントとなっています。
現在、寒い日が続いていますが、各社とも、3月になれば暖かくなり、2月の寒さによる遅れを取り戻し、平年並か平年より早いとの予想です。
桜開花のニュースは、春に向かうバロメーターになっています。今年は寒すぎて、ニュースの扱いは小さいのですが、 もう少し、暖かくなれば、ニュース等でもトップニュースで取り扱われると思います。
各社とも、ユーザーに合わせた予報を、個々に行っているので、単純に比較はできません。
対象とする桜の木(標本木)の場所が違っていたり、予想を発表するタイミングが違っていたり、開花などの定義が違っていたりなどするからです。例えば、同じ開花でも「桜が5~6輪以上咲いたとき」を採用しているところが多いのですが、ウエザーニューズは「桜が1輪以上咲いたとき」を使っていますので、当然、他社より少し早くなります。
単純に比較はできませんが、利用者がどう利用するかという、民間同士の競争原理によって予報精度と利便性が向上していると思われます。
図1の出典:饒村曜(2014)、天気と気象100、オーム社。
図2の出典:ウェザーマップのホームページ