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日本の山にはヘンな道が多すぎる

田中淳夫森林ジャーナリスト
正規の道が通りづらいため、外れて新たな道が作られてしまった

私は、ずっと森林に関する著作を重ねてきたため、森オタクと呼ばれることもある。たしかに仕事に加えて趣味を兼ねて山や森に分け入る機会は多い。幸い、我が家は山(生駒山)のすぐ側にあり、気が向けばすぐに山(森)に入れるのだ。

すると、「遭難」したり、不思議な出来事に遇うこともある。一般常識の嘘に気づくこともある。そんな体験をまとめた本(『森は怪しいワンダーランド』新泉社)を出版してしまった。

ここでは、本には書かなかった山や森に対する疑問を記したい。

と言っても、身近な話だ。それは……日本の山には道が多すぎないか?

我が家の裏山には、かなり密に散策の道が入っている。それ自体は文句ない。自然に親しむのは入りやすさが必要で、道はある方が有り難い。私も何も好き好んで道なき森に入って遭難したいわけではない(つもりだ)。

ただ、知らない間に新たな道がつくられているケースがままあるのだ。

それも自治体がハイキング道を整備した、とか、従来の道が崩れたから新たにつくった、というのではなく、どうも個人が勝手に道を切り拓いたような道が増えている。

なかには、ここまでていねいにつくったのか、という道もあるが、ときに途中で力尽きた?ように消えてしまったり、初心者には危険なルートになっている場合も見られる。

さらに意味不明の標識をつけるケースもある。塗料で印を付けたりビニールテープを巻いたり。ルートを示しているのか、何かを伝えようとしているのか……。

そう思って調べてみると、この「山の勝手道」は全国で結構大きな問題になっていることがわかってきた。

たとえば兵庫県の六甲山系では、いつの間にか山中に迷い込むハイカーが増えている。勝手に正規ルートとは違う道を切り拓いたり、山道わきの岩や石に、赤や緑の油性塗料で矢印などの目印をつけて回る事態が事件となっていた。その数は数百カ所にもなるのだ。

しかも、そうした勝手道や私製標識ルートは一般向きでなくて、間違って入り込んだ人が道に迷ったり、ときに崖から落ちたりするケースが相次いでいた。

なぜ、勝手に道をつくる行為が行われるのだろうか。どうやら勝手に新たなルートをつくることを生きがいとする「登山者」や「登山グループ」が存在するようだが……。

新ルートを開拓することに満足感を覚えるのかもしれないし、それは善意のつもりもあるのだろうが、山とはいえ、所有者に断りなく道づくりをするのは違法行為だろう。

しかも結果的に自然破壊につながったり、遭難を招くケースもある。私のように「遭難」を楽しむ人ばかりではないはずだ。(ちなみに、私が「遭難」と呼んで楽しんでいるのは自宅周辺の山だけである。その一帯の地形・地理は脳内に入っているので危険はない……つもり。)

こんな標識なら笑えるのだが……
こんな標識なら笑えるのだが……

一方で、自治体などが整備した山道にも歩きにくいところがある。

たとえば斜面を歩きやすくするためか階段をつくっているところがある。急傾斜に足掛かりをつくっているつもりなのだろう。ところが階段と言っても、段差の部分に丸太を模したコンクリートなど擬木を横に渡して、段を作ったものである。

しかし階段の横木の下がえぐれて、段差が大きくなってしまうのだ。おそらく50センチ以上になっており、まともに足が上がらない。無理に登ると、疲れるだけ。しかも、横木の間隔がおかしくて、一歩では進めない。おそらく多くの人が通って表土が削れるうえ、雨などで土が流された結果だろう。しかし、横木部分だけが残るから、こんな登れない階段になる。

登りやすくするはずの階段が逆に歩けなくしている。
登りやすくするはずの階段が逆に歩けなくしている。

そこで、あえて階段道から逸れて通る人が出る。それが新たな道になっていく。それが繰り返されると、ヘンな道が増えるわけだ。行政の山道整備も、メンテナンスに加えて時間経過も考えてつくらないと逆効果だろう。

もう一つ。ときに古道の風情をだそうとするのか石畳にした道が設えているところがあるのだが、これも歩きにくい。踏み込んだ衝撃をアスファルト以上に反発するし、凸凹の足裏の感触も悪い。長く歩くと膝の関節を傷めるのではないか。

もともと古道には、石畳の道などほとんどなかったという。基礎に石を敷きつめてから上に土を被せていたり、坂道が崩れないように敷いた程度だったのに、長い年月の間に土が流れてしまって、石畳になってしまったのだそうだ。つまりむき出しの石畳の道は荒れた道、ということになる。

歩きにくい石畳
歩きにくい石畳

私は、森とはワンダーランドだと思っている。予想外のことが起きたり、なにかしら驚くような発見できるから面白い。だが、森に入ってヘンな道に出くわすのはあまり面白くない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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