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スタバやホンダがFacebookをボイコット 広がるStop Hate for Profit

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
ヒューマンライツ・ナウのキャンペーン画像から

■ スタバやホンダがFacebookをボイコット

 誰もが知る大手企業が、Facebookでの広告の停止を相次いで発表しています。日本でも報道されていますね。

 

米コーヒーチェーン大手スターバックスは28日、全てのソーシャルメディアを対象に広告を一時停止すると発表した。ヘイトスピーチ対策の強化を求めた。既に停止方針を明らかにした米飲料大手コカ・コーラ、ホンダなどに追随した。

 広告主の離反が広がる中、米交流サイト大手フェイスブック(FB)のザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は26日、不適切な投稿や広告の対策強化を表明したが、広告ボイコットの動きが止まっていない。

 黒人男性暴行死事件に絡み、全米黒人地位向上協会(NAACP)などの団体が、対策が遅れているFBへの広告停止を企業に呼び掛けている。

出典:共同通信

 

■ Stop Hate for Profitとは何か?

 全米黒人地位向上協会(NAACP)などの団体が始めた呼びかけは、「Stop Hate for Profit(利益のためのヘイトをやめろ)」です。

 ジョージ・フロイド氏の事件を受け、ソーシャルメディア各社にヘイトスピーチ(憎悪表現)やFake Newsに厳しく対応するよう求めています。

 そのホームページは、

They allowed incitement to violence against protesters fighting for racial justice in America in the wake of George Floyd, Breonna Taylor, Tony McDade, Ahmaud Arbery, Rayshard Brooks and so many others.

「彼らは、フロイド氏ら多くの犠牲を目の当たりにして人種的不公正と戦う人への暴力の扇動を許してきた」

Could they protect and support Black users? Could they call out Holocaust denial as hate? Could they help get out the vote?

They absolutely could. But they are actively choosing not to do so.

99% of Facebook’s $70 billion is made through advertising.

Who will advertisers stand with?

Let’s send Facebook a powerful message: Your profits will never be worth promoting hate, bigotry, racism, antisemitism and violence.

 「彼らは黒人のユーザーを守り、応援することができたか?(略) 彼らはできたのに、そうしないことを積極的に選んだ。Facebookの利益、700億ドルの99%は広告収入だ。広告主は誰とともにいるのか? Facebookにパワフルなメッセージを送ろう。あなたの利益は憎悪、偏見、人種差別、反ユダヤ主義、暴力を促進するもので絶対にあってはならない」

と訴えています。

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 これに応え、スターバックスだけでなく、ユニリーバ、アディダス、プーマ、パタゴニア、リーボック、日本企業ではホンダなど、500以上の企業が広告を停止する措置に賛同しました。

 その企業名はキャンペーンのウェブサイトに掲載されています。

■ なぜFacebookがターゲットにされたのか?

なぜFacebookがターゲットにされたのでしょう。

 発端は、フロイド氏の殺害を受けて始まった人種差別に反対する抗議行動へのトランプ大統領の対応にあります。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)がドナルド・トランプ米大統領の投稿を表示したままにし、「危険な前例」を作っていると、公民権擁護団体が警告している。

トランプ大統領は先に、白人警官に膝で首を押さえつけられた黒人男性が死亡した事件を受け、米ミネソタ州ミネアポリスで抗議デモが相次いでいることについてフェイスブックに投稿。略奪者を「ごろつき」と呼び、「州兵を送り込む」と書いた。さらに「略奪が始まれば、発砲が始まる」と警告した。

同じ内容のツイートについてツイッターは「暴力を賛美」しているとして、警告をかぶせ、クリックしないと表示されないようにした。

出典:BBC

 しかし、これに限りません。フェイスブックは表現の自由を最大限に保障するという姿勢に立ち、憎悪表現や差別表現を野放しにしてきました。

 特に、トランプ大統領はそのキャンペーンにフェイスブックを多用、差別的な表現を含む演説などを垂れ流してきました。そして、これによってFacebookは多額の広告収入を得ているのです。

  Facebookで最大の政治広告主、トランプ大統領らと判明--2カ月で約3000万円投入

 まさに「利益のためのヘイト」といえるでしょう。

■権力のためのヘイト

 

 2020年の大統領選挙を前に、再び、SNSを使ったトランプ大統領による差別や憎悪発言がエスカレートすることとが深刻に懸念されています。

 全米に広がるBlack Lives Matter 怒りの根源は何かにも書きましたが、トランプ氏は、選挙にマーケティングの手法を取り入れ、米国で取り残されたと感じてきた保守的な人々、特に白人男性をターゲットに、「古き良きアメリカ」を復活すると訴え、彼らの心を揺さぶり強烈な支持を獲得しました。

 「古き良きアメリカ」とは黒人が物言わぬ奴隷であり、女性は慎み深く、多様性のない社会です。キャンペーンでは性差別的な発言、人種差別的発言が繰り返され、それがSNSを通じて拡散されました。人々の差別心をくすぐって票を得て大統領が登場したのです。

 トランプ当選直後には、実際に黒人、ヒスパニック系住民、アジア系移民まで全米各地で憎悪に基づく暴力の対象になりました。

 自らが権力を握るために、人々の最もネガティブな感情に働きかけ、差別心や憎悪をあおり、それによって得票を得て政治と民主主義をゆがめ、結果として差別を助長し、それがかけがえのない命の犠牲にまでつながっても責任をとらない、そんな「権力のためのヘイト」が勝利する現実は民主主義の深刻な危機といえるでしょう。そしてそれがSNSを媒介にして行われ、利益を得る事業者が拡散を続ける「利益のためのヘイト」と結びついて最悪の事態を生んでいるのが現在です。

■ 企業の社会的責任とボイコット

 こうした憂うべき事態に対し、社会的責任を重視する企業がボイコットに賛同するというのは非常に健全な流れであり、「利益のためのヘイト」「権力のためのヘイト」によってゆがめられる民主主義や犠牲になる人権を守るための数少ない有効でパワフルな選択肢です。

 こうした集団的なアクションによって、SNS上の差別や偏見の反乱によって人が傷つくこと、実際の差別や暴力を生むことを防ぐことにブレーキをかけ、SNSプラットフォームにより責任ある態度を求めることができるのです。

 Facebookのザッカーバーグ氏は、先週方針の改定を発表しましたが、まだ不十分だと批判を受けました。

 それでもザッカーバーグ氏はこうしたボイコットは一時的なものだ、としていますが、より多くの企業が参加することでさらなる変化が生まれる可能性もあります。

 このStop Hate for Profitの呼びかけに影響力ある企業がどうこたえるか、企業の社会的責任・人権侵害に加担しない責任という観点から問われます。

 多くの日本企業も参加している国連グローバルコンパクトは

原則2 企業は、自らが人権侵害に加担しないよう確保すべきである

 としています。

 また、国連が2011年に採択したビジネスと人権指導原則は、企業の責任として以下の責任を果たすよう求めています。

自らの活動を通じて人権に負の影響を引き起こしたり、助長することを回避し、そのような影響が生じた場合にはこれに対処する。

たとえその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める。

 以上のような原則はこれまで、サプライチェーンの末端での児童労働や強制労働などの問題だと考えられてきましたが、積極的に差別を拡散する情報提供に加担するインターネットや広告業界、そしてその取引関係についてももちろん当てはまります。そうした認識は世界で飛躍的に増大しています。

 現状でFacebookに広告料を支払うことが、差別や人権侵害への加担に該当するとみなされるか否か?企業の判断をユーザー、消費者、投資家などのステークホルダーが注目しています。日本企業にも責任をもって行動してもらいたいと思います。

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■ 日本でも問題状況は同じ

 

 日本はこうした事態に無縁ではありません。

 人種差別的なヘイトスピーチ表現は今も深刻です。また、女性に対する誹謗中傷、ジェンダーやセクシャリティーに関する差別をあおる投稿がSNSにあふれ、精神的に深刻な影響を受ける人は増えています。

 木村花さんが命を絶たれた痛ましい事件は記憶に新しいところですし、性被害を告白した伊藤詩織さんも執拗なネット上のバッシングに晒されました。彼女は名誉棄損の裁判を提起しましたが、今に至るもこの件で、Twitter者は誹謗中傷を野放しにしており、十分な対応をしているとは到底思われません。

 こうした差別、誹謗中傷表現を放置するプラットフォームの責任は十分に問われていません。

 政府は、Twitterの発信者情報開示の手続を簡易にするなどの対策を講じていますが、それだけでは十分とは言えないでしょう。

 「利益のためのヘイト出版」も重大な問題です。

 オンライン・プラットフォームの責任として、先日の私の記事「木村花さんの死が問いかける、ネット上の誹謗中傷の罪とプラットフォームの責任」で私は、フランスの新しい法律について紹介しました。

 

フランスでは、5月14日にインターネット上の有害コンテンツを通報から1~24時間以内に削除するようソーシャルメディア企業などに求める法律を可決した。

出典:木村花さんの死が問いかける、ネット上の誹謗中傷の罪とプラットフォームの責任

 実はその後、このフランスの法律をめぐっては、フランスの憲法院が表現の自由への制約が過度であるとして違憲判断をしたと報じられています。

 法律の修正等が議論されることと思いますが、規制の在り方について今後も様々な議論があることでしょう。

 日本でも、国による規制の動きの議論とは別に、SNS企業に広告を出さない共同アクション等を通じて、日本でも影響力ある企業が差別の解消に貢献することができること、そうした米国の例に学ぶ必要があることをぜひ知っていただきたいと思います。

 日本でも消費者は多様であり、人種や性による差別に苦しみ、プラットフォームの社会的責任に注目していますし、こうした問題に関心を寄せる機関投資家も確実に増えています。 

 SNSは誰にとっても身近なもの。だからこそその空間がヘイトや差別、言葉の暴力で汚染されないよう、企業がイニシアティブをとれる多くの選択肢と可能性があるはずです。 (了)

 

参考 

木村花さんの死が問いかける、ネット上の誹謗中傷の罪とプラットフォームの責任 (ヤフーニュース個人 伊藤和子)

全米に広がるBlack Lives Matter 怒りの根源は何か (ヤフーニュース個人 伊藤和子)

 

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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