速報:ガザで起きていることは「ジェノサイド」国連専門家の多数が警告
ガザではジェノサイドが進行中である、と11月16日、国連の独立専門家の多数が共同声明を発表しました。
国連のプレスリリースは下記です。
Gaza: UN experts call on international community to prevent genocide against the Palestinian people
これは重大なことです。ルワンダやホロコーストでジェノサイドが起きた際、人類は止められませんでした。多くの人にとってそれは歴史です。
しかし、現在進行形でジェノサイドが進行している、との国連独立専門家の警告は極めて重いものです。
声明を出したのは、いずれも国連人権理事会が選任した、国連が取り扱う、テーマ別・地域別の特別報告者で、本記事の最後の紹介しますが、いずれも独立した立場の人権の専門家です。既に800名を超える国際法学者等からジェノサイドの危険を警告する声明(後述)が公表されていますが、国連の専門家がその職責に基づき声明を出したことは極めて重く受け止められるべきです。
そこで、緊急にこの声明を仮訳してみました。
■ 声明「国連専門家は国際社会に、パレスチナの人々へのジェノサイドを防止するよう求める。」
イスラエルが10月7日以降にパレスチナ人、特にガザで犯した重大な暴力は、ジェノサイド(大量虐殺)が進行中であることを示唆している、と国連の専門家たちが本日発表した。国連の専門家たちは、ジェノサイド(大量虐殺)的な扇動の増加、「占領下のパレスチナ人民を破壊する」というあからさまな意図、ガザをはじめとする占領下のパレスチナ領土における「第二のナクバ」を求める声、本来無差別的な影響をもたらす強力な兵器の使用、その結果もたらされた膨大な死者数と生命維持のためのインフラの破壊などの証拠を示した。
「私たちの多くはすでに、ガザにおける大量殺戮の危険性について警鐘を鳴らしている。」「私たちは、各国政府が私たちの呼びかけに耳を傾けず、即時停戦を実現できなかったことに深く心を痛めている。私たちはまた、ガザを包囲している住民に対するイスラエルの戦争戦略を特定の政府が支持していること、そして大量虐殺を防ぐために国際システムが動員されていないことを深く憂慮している。
ガザへの砲撃と包囲によって、2023年10月7日以降、1万1000人以上が死亡、2万7000人以上が負傷し、160万人が避難したと報告されている。
殺された人のうち、約41%が子どもで、25%が女性である。国連事務総長によれば、戦争中、平均して10分に1人の子どもが殺され、2人が負傷しており、ガザは「子どもの墓場」になっているという。
また、200人近い医療従事者、102人の国連スタッフ、41人のジャーナリスト、最前線で活躍する人々、人権擁護活動家も殺害され、5世代にわたって何十もの家族が全滅している。
「これは、国際社会がガザへの重要な人道支援へのアクセスを提供するよう呼びかけているにもかかわらず、イスラエルが16年にわたる違法なガザ封鎖を強化し、人々が脱出することを妨げ、食料、水、医薬品、燃料を何週間も失ったままにしている中で起こっている。以前にも述べたように、意図的な飢餓は戦争犯罪に匹敵する」と専門家は述べた。
専門家たちは、ガザの民間インフラの半分が破壊され、4万戸以上の住宅、病院、学校、モスク、ベーカリー、水道管、下水道、電力網などが破壊され、ガザでのパレスチナ人の生活の継続が不可能になる恐れがあると指摘した。
「ガザの現実は、生存者に耐え難い苦痛とトラウマを与え、巨大なカタストロフィとなっている。」
「私たちは、最も強い言葉で10月7日のハマスによる攻撃を非難したが、その後のこのようなひどい違反行為は自衛の名において正当化できない」と専門家たちは述べた。「イスラエルは依然として、ガザ地区を含むパレスチナ占領地の占領国であり、占領統治下にある住民に対して戦争を仕掛けることはできない。」
「イスラエルの対応が正当であるためには、国際人道法の枠内で厳密に行われる必要がある。」「ガザの一部に地下トンネルがあるからといって、武力攻撃があれば不均衡な影響を受けることになる個人やインフラ設備が直接の標的とされるべきでなく、彼らが民間人・民間施設の地位を喪失するわけではない」と専門家たちは述べた。
専門家たちはまた、占領下のヨルダン川西岸地区で、兵士や武装した入植者によるパレスチナ人に対する暴力がエスカレートしていることに警鐘を鳴らした。
2023年10月7日以来、ヨルダン川西岸地区では、少なくとも190人のパレスチナ人が死亡、2700人以上が負傷し、1100人以上が避難している。11月9日には、イスラエル軍がジェニン難民キャンプを2度目の重砲と空爆で空爆し、少なくとも14人のパレスチナ人が死亡した。また、ヨルダン渓谷やヘブロン丘陵南部に住む牧畜民やベドウィンのコミュニティも、強制的な移住を余儀なくされている。
「私たちは、イスラエルが即時停戦に同意せず、国際社会がより断固とした停戦を求めようとしないことに深く心を痛めている。停戦を緊急に実施しないことは、この状況が21世紀の戦争手段と方法で行われるジェノサイドへとスパイラルする危険をはらんでいる」と専門家たちは警告した。
また、イスラエル政府高官や一部の専門家グループ、公人から、ガザの「完全破壊」や「抹殺」、「パレスチナ人全員の抹殺」、ヨルダン川西岸と東エルサレムからパレスチナ人をヨルダンに強制移住させる必要性を訴える、明らかに大量虐殺を想起させる、非人間的なレトリックが出ていることに警戒感を示した。専門家たちは、イスラエルがそのような犯罪的意図を実行に移す軍事的能力を有していることは明らかであると警告した。
「だからこそ、我々の早期警告を無視してはならない。」
「国際社会は、ジェノサイドを含む残虐犯罪を防止する義務を負っており、そのためのあらゆる外交的、政治的、経済的措置を直ちに検討すべきである。」
専門家たちは、国連加盟国と国連システム全体による早急な行動を促した。
短期的には、専門家らはイスラエルとハマスに対し、即時停戦を実施するよう改めて求めた:
1 切実に必要とされている人道援助を、ガザの人々に妨げられることなく届けること
2 ハマスに連れ去られた人質を無条件で安全かつ確実に解放すること
3 イスラエルに恣意的に拘束されているパレスチナ人を直ちに釈放すること
4 ヨルダン川西岸地区、東エルサレム、イスラエル方面への人道的回廊を開放すること。特に、この戦争で最も被害を受けた人々、病人、障害者、高齢者、妊婦、子どもたちのために求められている。
彼らはまた、こうも勧告した:
5 国連の監視の下、パレスチナ占領地に国際的な保護部隊を配備すること
6 東エルサレムを含む被占領パレスチナ地域とイスラエルに関する調査委員会、および2021年3月に開始された国際刑事裁判所検事との全当事者の協力、および最近の出来事から生じた犯罪について、今日犯されている犯罪は抑止力の欠如と不処罰の継続が一因であることを強調する
7 すべての紛争当事者に対する武器禁輸を実施すること;
8 イスラエルによるパレスチナ領土の占領を終わらせることで、紛争の根本的な原因に対処すること。
「国家だけでなく、企業などの非国家主体も含めた国際社会は、パレスチナ人に対するジェノサイドの危険を直ちに終わらせ、最終的にはイスラエルのアパルトヘイトとパレスチナ領土の占領を終わらせるために、できる限りのことをしなければならない」と専門家たちは述べた。
「危機に瀕しているのは、イスラエル人とパレスチナ人の運命だけでない。この地域の紛争が深刻な火種となり、人権侵害が拡大し、罪のない一般市民が苦しむことにつながることを、我々は加盟国に思い起こしてほしい」と述べた。(以上)
■ 国際社会のジェノサイド防止義務
国際社会は、ジェノサイドを防止する義務を負っています。
1996年、国際刑事裁判所(ICJ )は、ジェノサイド条約適用事件(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ対ユーゴスラヴィア)の先決的抗弁判決で、「各国がジェノサイド罪を防止及び処罰しなければならない義務」があるとし、それは 条約によって領域的に制限されていない」と明らかにしました。
そして、2007年のジェノサイドをしていると疑われる当事者に「否定しえない影響力」を有する国が、ジェノサイドの「重大な懸念を知らせる情報」を有していた場合、ジェノサイドを「防止する最善の努力を果たすべきであった」として、ユーゴスラヴィア(当時)にジェノサイド条約上の義務違反を認めました。
この意味で、国連の多数の専門家から警告が出たこと、および、彼らが依拠した情報はジェノサイドの「重大な懸念を知らせる情報」といえるでしょう。
とりわけイスラエルへの軍事援助をしている米国、ドイツ等は重大な責任がありますが、日本をはじめとする国連安保理の理事国など、ジェノサイド防止に影響力のある国は、重い責任を負うと言えます。
国連安保理は、先週ようやく、戦闘の休止を求める決議を採択しました。これ自身あまりに遅いと言わざるを得ませんが、第一歩ではあります。しかし、決議を出すことだけれは意味がなく、確実に履行させ、これ以上の戦闘行為を全面的に止めさせるべきです。
そして、決議内容は十分とは言えず、即時停戦を求めること、そして、国連独立専門家の勧告を反映させて討議を継続し、早急に新たな決議を採択する必要があります。
国際社会全体に、ジェノサイドが進行中であるという危機感が重要です。
■ 声明を出した専門家
声明を出した専門家は以下のとおりです。
・Francesca Albanese, Special Rapporteur on the situation of human rights in the Palestinian Territory occupied since 1967;
・Margaret Satterthwaite, Special Rapporteur on the Independence of Judges and Lawyers; Dorothy Estrada Tanck (Chair),
・Claudia Flores, Ivana Krstić, Haina Lu, and Laura Nyirinkindi, Working group on discrimination against women and girls;
・Surya Deva, Special Rapporteur on the right to development;
・Ravindran Daniel (Chair-Rapporteur), Sorcha MacLeod, Chris Kwaja, Jovana Jezdimirovic Ranito, Carlos Salazar Couto, Working Group on the use of mercenaries;
・Barbara G. Reynolds (Chair), Bina D’Costa, Dominique Day, Catherine Namakula, Working Group of Experts on People of African Descent;
・Pedro Arrojo-Agudo, Special Rapporteur on the human rights to safe drinking water and sanitation;
・Olivier De Schutter, Special Rapporteur on extreme poverty and human rights;
・Farida Shaheed, Special Rapporteur on the right to education;
・Damilola Olawuyi (Chairperson), Robert McCorquodale (Vice-Chairperson), ・Elżbieta Karska, Fernanda Hopenhaym, and Pichamon Yeophantong, Working Group on the issue of human rights and transnational corporations and other business enterprises;
・Siobhán Mullally, Special Rapporteur on trafficking in persons, especially women and children;
・Livingstone Sewanyana, Independent Expert on the promotion of a democratic and equitable international order;
・Balakrishnan Rajagopal, Special Rapporteur on the right to adequate housing;
・Ashwini K.P. Special Rapporteur on contemporary forms of racism, racial discrimination, xenophobia and related intolerance;
・Paula Gaviria Betancur, Special Rapporteur on the human rights of internally displaced persons;
・Mary Lawlor, Special Rapporteur on the situation of human rights defenders;
・Claudia Mahler, Independent Expert on the enjoyment of all human rights by older persons;
・Ben Saul, Special Rapporteur on the promotion and protection of human rights and fundamental freedoms while countering terrorism;
・Irene Khan Special Rapporteur for Freedom of Opinion and Expression;
・Ms Reem Alsalem, Special Rapporteur on violence against women and girls, its causes and consequences;
・Tomoya Obokata, Special Rapporteur on contemporary forms of slavery, including its causes and consequences.
このように多数の専門家の声を、国際社会が真剣に受け止めることが今、求められています。
ジェノサイドが最終的に認定されるのは、国際刑事裁判所、あるいは国際社会が設置した戦争犯罪法廷でしょう。しかし、ジェノサイドが有罪認定されるまで、傍観しているのでは遅いのです。エスカレートして更なる命が大量に奪われてしまっては取り返しがつかないのです。直ちに防止する必要があるのです。国際社会の緊急な介入が求められています。(了)
参考
■11月21日に緊急イベントを開催します。
21世紀の《ジェノサイド》に抗して 〜ガザを知る緊急報告会〜
基調講演:岡真理氏 志葉玲氏ほか
■ 800人を超える国際法専門家の声明
Public Statement: Scholars Warn of Potential Genocide in Gaza
■ 国際司法裁判所ジェノサイド条約適用事件
Case Concerning the Application of the Convention on the Prevention
and Punishment of the Crime of Genocide (Bosnia and Herzegovina v. Serbia and Montenegro), Judgment, I.C.J. Reports 2007, p. 43
■国際刑事裁判所に関するローマ規程は、ジェノサイド罪を以下のように定義します(和訳参照)。
国民的、民族的、人種的又は宗教的な集団の全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う次のいずれかの行為をいう。
(a) 当該集団の構成員を殺害すること。
(b) 当該集団の構成員の身体又は精神に重大な害を与えること。
(c) 当該集団の全部又は一部に対し、身体的破壊をもたらすことを意図した生活条件を故意に課すること。
(d) 当該集団内部の出生を妨げることを意図する措置をとること。
(e) 当該集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。