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「どれほど奪えば気が済むのか、人権侵害しているのは政府」ノルウェー先住民と若者が罰金支払い拒否

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
10月に開催された抗議活動の様子 筆者撮影

今年2月、石油エネルギー省を占拠した先住民サーミとノルウェーの若者たちに罰金が科されることとなった。ノルウェー警察は罰金の免除を要請してたが、検察側は「警察の退去命令に従わなかった」として、若い活動家たちに罰金を科すことを決定した。

ノルウェー政府はフォーセン地域に風力発電所の建設を許可したが、先住民のトナカイ放牧地でもあることから、伝統的な生業が困難になった。ノルウェー最高裁は政府は人権侵害を犯していると判決を下した。しかし最高裁は「風車がどうされるべきか」まで明言しなかったため、政府は「対話での解決」を求め、事態は解決されないまま風車の稼働は2年目を迎える。2月の市民的不服従による抗議は、最高裁の判決から500日目を迎えるために決行された。

抗議活動の結果、ノルウェー首相は「政府は人権侵害を犯している」と、記者会見で公式に謝罪することとなった。しかし「対話での解決」を求め、風車の稼働が止まることはなかった。

何人に対していくらほどの罰金が科されたかは警察は明らかにしていないが、若者たちの何人かはすでにSNSで抗議声明を出している。そのうちの1人には5000ノルウェークローネ(約7万円)の支払い請求が届いた。

ノルウェーでは抗議活動の結果、罰金の支払いが命じられることは珍しくない。だが今回の案件は最高裁が「人権違反をしているのは政府」と判決を下しており、欧州でも人権が守られている「先住民」による行動、若者による民主的な行動という様々な要素が重なったためか、罰金の連絡は関係者に長い間届いていなかった。罰金は科されないのだろうという見方も一部では強まっていた。そのため、22日の朝に支払いのメールが届き、ショックを受けた若者たちが多かった。

活動家の一人でもあるイーダ・ベノーニさんは憤りを露わにしている。

私たちは人権のために戦ってきた罰を受けているのです。ノルウェーの石油エネルギー省を占拠して4日目のことです。この最初の写真を撮ったときほど、疲労困憊していた記憶はありません。

フォーセン地域のサーミ人の人権を侵害しているのはノルウェー政府です。それなのに政府には何の影響も受けていません。今日、私たちは罰金を支払わなければならないと知らされました。まるで、私たちがまだ十分に支払っていないかのように。

私の家族は、政府のサーメ人に対する扱いのせいで多くのものを失いました。私たちは多くのものを失い、犠牲にしてきました。私たちはこんなに多くの犠牲を払うべきではありません。胸が張り裂けそうです。

Instagram @ida.h.benoni

抗議活動で中心となっているのは若い世代だ。先住民サーミはノルウェーの若者と連帯して抗議活動をしていた。ノルウェー最大級の青年環境団体「自然と青年」の代表ギーナさんはこうコメントを出した。

検察は9ヶ月もの検討期間の末、フォーセン訴訟における最初の罰金を科しました。2月に最大10省庁を封鎖することで、進行中の人権侵害を国に認めさせたことに対して、私たちは5000ノルウェークローネを支払わなければならないと考えたようです。先住民の権利と私たちの共通の法の支配のために闘う若いサーミと同盟者は「罰せられるべきだ」と考えられました。

同時に、人権侵害は現在も続いており、企業も政府もそれを止める責任を負っていません。石油エネルギー省は罰金を支払っていません。

警察は起訴猶予、つまり罰金を課さないことを要求していました。それでも検察は処罰を望んでいます。それならば裁判所に決めてもらいましょう!

Instagram @ ginagylver

サーミ人の若者たちをまとめたノルウェー・サーミ全国連盟NSRの青年部の代表エレン・ニースタッドさんは「私たちからどれほど奪ったら気がすむのか」と怒りと悲しみを示した。

「人権擁護のために石油省を4晩占拠した私たちが、罰金を科せられようとしている」という連絡で今朝は目が覚めました。

これは今に始まったことではありません。

このようなことは、以前にもアルタ闘争で私たちの土地を擁護・保護した私たちの人々に対しても起こりました。結果として、政府は私たちを罰しました。政府が私たちに対して行った不公正に対して、私たちが罰せられたのです。

そして今、私たちは再び罰せられようとしています。

私たちの人権を守ろうとすることによる罰です。

私たちの民族の存在を守ろうとすることに対する罰。

私たちの土地の存在を守るために罰せられるのです。

不公平です。

ノルウェー政府は私たちから奪い続けています。

私たちが与えられるものは、もう何もありません。

ですから、私はこの闘いで決して諦めませんし、親愛なるサーミの皆さんも諦めないですください。

私は生きている限り、私たち国民の権利と土地を守り抜くつもりです。

法廷で会いましょう!

Instagram @ ellenystad

罰金の支払いを拒む若者たちは法廷で争う姿勢を見せている。

薄れていく、法への信頼

これ以上の規模の抗議活動は10月にも行われており、さらなる罰金が科される可能性もある。

ちょうどこの発表がされた日、筆者はオスロ大学で開催されていた「サーミ人と国の間で起きている政治的・法的問題を考えるシンポジウム」に参加していた。今、ノルウェーの法業界では議論が起きている。

10月の抗議活動中は若い弁護士たちがサーミ側の主張を支持する動きを示したり、「先住民が法に対する信頼を失いかけているのも理解できる」という声がシンポジウムで出るなど、法の関係者の間でも意見が割れている。

これとは別に、今年、ノルウェー政府は国が先住民に対して行ってきた過去の抑圧政策を反省する報告書などを出しているのだが、「フォーセンの一件が進行中の限り、仲直りしようなんて意味がわからない」という憤りの声はサーミの人々から取材していてもよく聞こえてくる。中には泣きながら怒りを露わにする人もいるほどだ。

サーミの若い人権活動家であるエッラ・マリエ・ハエッタ・イーサクセンさんは、抗議活動中、「私たちは政府に対して信頼危機を起こしている」と発言し、サーミ人の国や法に対する「信頼危機」は問題の構造を象徴する言葉ともなっている。

人権のために抗議をした若者たちが罰せられ、政府は何も罰を受けないという状況は、さらなる亀裂を生むだろう。先住民たちはこうしてまた法廷に立って争うことになる。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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