「どれほど奪えば気が済むのか、人権侵害しているのは政府」ノルウェー先住民と若者が罰金支払い拒否
今年2月、石油エネルギー省を占拠した先住民サーミとノルウェーの若者たちに罰金が科されることとなった。ノルウェー警察は罰金の免除を要請してたが、検察側は「警察の退去命令に従わなかった」として、若い活動家たちに罰金を科すことを決定した。
ノルウェー政府はフォーセン地域に風力発電所の建設を許可したが、先住民のトナカイ放牧地でもあることから、伝統的な生業が困難になった。ノルウェー最高裁は政府は人権侵害を犯していると判決を下した。しかし最高裁は「風車がどうされるべきか」まで明言しなかったため、政府は「対話での解決」を求め、事態は解決されないまま風車の稼働は2年目を迎える。2月の市民的不服従による抗議は、最高裁の判決から500日目を迎えるために決行された。
抗議活動の結果、ノルウェー首相は「政府は人権侵害を犯している」と、記者会見で公式に謝罪することとなった。しかし「対話での解決」を求め、風車の稼働が止まることはなかった。
何人に対していくらほどの罰金が科されたかは警察は明らかにしていないが、若者たちの何人かはすでにSNSで抗議声明を出している。そのうちの1人には5000ノルウェークローネ(約7万円)の支払い請求が届いた。
ノルウェーでは抗議活動の結果、罰金の支払いが命じられることは珍しくない。だが今回の案件は最高裁が「人権違反をしているのは政府」と判決を下しており、欧州でも人権が守られている「先住民」による行動、若者による民主的な行動という様々な要素が重なったためか、罰金の連絡は関係者に長い間届いていなかった。罰金は科されないのだろうという見方も一部では強まっていた。そのため、22日の朝に支払いのメールが届き、ショックを受けた若者たちが多かった。
活動家の一人でもあるイーダ・ベノーニさんは憤りを露わにしている。
抗議活動で中心となっているのは若い世代だ。先住民サーミはノルウェーの若者と連帯して抗議活動をしていた。ノルウェー最大級の青年環境団体「自然と青年」の代表ギーナさんはこうコメントを出した。
サーミ人の若者たちをまとめたノルウェー・サーミ全国連盟NSRの青年部の代表エレン・ニースタッドさんは「私たちからどれほど奪ったら気がすむのか」と怒りと悲しみを示した。
罰金の支払いを拒む若者たちは法廷で争う姿勢を見せている。
薄れていく、法への信頼
これ以上の規模の抗議活動は10月にも行われており、さらなる罰金が科される可能性もある。
ちょうどこの発表がされた日、筆者はオスロ大学で開催されていた「サーミ人と国の間で起きている政治的・法的問題を考えるシンポジウム」に参加していた。今、ノルウェーの法業界では議論が起きている。
10月の抗議活動中は若い弁護士たちがサーミ側の主張を支持する動きを示したり、「先住民が法に対する信頼を失いかけているのも理解できる」という声がシンポジウムで出るなど、法の関係者の間でも意見が割れている。
これとは別に、今年、ノルウェー政府は国が先住民に対して行ってきた過去の抑圧政策を反省する報告書などを出しているのだが、「フォーセンの一件が進行中の限り、仲直りしようなんて意味がわからない」という憤りの声はサーミの人々から取材していてもよく聞こえてくる。中には泣きながら怒りを露わにする人もいるほどだ。
サーミの若い人権活動家であるエッラ・マリエ・ハエッタ・イーサクセンさんは、抗議活動中、「私たちは政府に対して信頼危機を起こしている」と発言し、サーミ人の国や法に対する「信頼危機」は問題の構造を象徴する言葉ともなっている。
人権のために抗議をした若者たちが罰せられ、政府は何も罰を受けないという状況は、さらなる亀裂を生むだろう。先住民たちはこうしてまた法廷に立って争うことになる。