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【蜷川実花&沢尻エリカ対談】『人間失格』のクズ男・太宰治に翻弄された女たちは、本当に不幸だったのか?

渥美志保映画ライター

今回は『人間失格 太宰治と3人の女たち』が公開中の、蜷川実花監督と沢尻エリカさんの対談をお送りします。太宰の最晩年に関係し、振り回されまくった3人の女たちーー正妻・津島美知子(宮沢りえ)、太宰の子供を産んだ太田静子(沢尻エリカ)、太宰と一緒に死んだ山崎富栄(二階堂ふみ)。蜷川監督と沢尻エリカさんが見る、彼女たちの強さとは?

蜷川実花が捉えた、見たことのない沢尻エリカ

沢尻さんが演じた太田静子は、太宰治の私生児を生んだ女性です。蜷川さんは、なぜ沢尻さんにこの役を?

蜷川  静子ってすごくマイペースで、意外と揺らがない「自分」を持った女性なんですが、そこにエリカが持つ少女性や、それゆえの強さみたいなものをいれたら、さらにキャラクターが立つんじゃないかなと思いました。

沢尻  確かに『ヘルタースケルター』はヘビーな役でキツかったから、今回もちょっと身構えましたが、脚本を読んだら、ただただ恋に恋する可愛い女性でした。まあそもそも実花さんの映像の世界観が大好きだし、現場も他にないくらい明るくてカラフルで、ワクワクするほど楽しいので。

蜷川  可愛くて素直でピュアで不器用で、でも爪はとがってるーーエリカのそういう部分を撮るのが今回の私の使命(笑)。そういうエリカが出ている作品って見たことないので。

沢尻  確かにこれまで私が見せたことのない演技だったかも。とにかくもうウキウキルンルンで、可愛いいしかない、みたいな。ここまでピンクの衣装も、なかなか着たことないし(笑)

蜷川  3人の女性にはそれぞれにテーマカラーがあったんですが、静子はピンクでとにかく可愛く。最強だったと思います。撮影が進み、太宰をはじめみんながくたびれていく中で、一人微笑んで赤ちゃんを抱っこしている姿の、画力(えぢから)も半端なかった。

蜷川さんの映画では、花は通常の3倍増し

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この映画の「蜷川さんらしさ」として、何か印象に残っているシーンはありますか?

沢尻  太宰と静子が密会する山荘のテーブルが、大量の花で埋め尽くされていたんですが、「この上で二人で絡んでください」って言われた時は驚きました。ドライフラワーなんでカサカサカサカサいって、花まみれ、っていう(笑)。

蜷川  美術スタッフの子に「テーブルの上に花置きますか?」って聞かれたので、「うん、置いて」って言ったらああなってて(笑)。最近の作品では同じスタッフが担当してくれているので、「蜷川さんの花は通常の3倍増し」と、先回りして用意してくれるんです。あれを見た時は私も「この上で……? すごいな」と思ったんだけど、たぶん静子のことだから、自分で花積んできて敷き詰めたんだろうなーとも思って(笑)。

「クズ男=太宰治」に、蜷川実花が抱いた共感

女性と心中するために入水した太宰が、水から上がってくる冒頭の場面は強烈でした。

蜷川  「死ぬかと思った」って呟きながら。太宰のクズっぷりがわかるあの場面は、どうしてもいれたかったんですよね。まあ私は「この作品にたどり着くための今までの人生だった」と思うくらい、わりと「ダメ男専門店」みたいな品揃えで生きてきたので、「ここはあの時のアレだな」と思いながら演出してました(笑)。

沢尻  今回、私はあえて自分が登場する場面の台本しか読まずに現場に入ったので、完成した作品を見るつい最近まで太宰の全貌を知らなかったんです。でも静子にいい顔しながら、裏でやっていたことを知ってーークズだなと(笑)。

蜷川  静子といる時は、いわゆる「月9」に出てきそうな感じに、めっちゃいい男ぶってる。静子との逢引きに、お土産に持ってきた缶詰を見せる時のドヤ顔とか凄かった(笑)。

太宰治役の小栗旬さんのカッコよさは格別
太宰治役の小栗旬さんのカッコよさは格別

沢尻  あからさまに、ほんとうにくどいくらいにカッコつけてて、でも小栗くんはそれが本当にかっこよかった。

蜷川  女性の立場から見たら「最悪!」と思う側面もたくさんあるんですが、クリエイターとしては、太宰の気持ちも分からないではないんですよね。清く正しく生きていくことができないから、こういう仕事をしているわけで。だから現場では気持ちが忙しかったですね。女性側から撮っている時は「こんな男やめたほうがいい!」って思っているんだけど、 太宰を撮っている時は「あなたも辛いわよね、わかるわ」て思ってたりして。

太宰の身勝手に翻弄された、3人の女たちは不幸だったのか?

太宰が主人公に見えて、最終的には振り回されていたはずの3人の女性たちの強さが印象に残りました。

蜷川  太宰自身の人生を映画にするにあたって、太田静子をはじめとした3人の女性が出てきたんですよね。彼女たちの手記を読み、「3人が3人とも、最終的には自分の欲しいものをきっちり手に入れた」という仮定のもと、物語をつむげないかなと思ったんです。

沢尻  太田静子については、本当に純粋でピュアな人だし、自分の気持ちに正直に生きた女性なのかな、と思いましたね。そういう部分は自分にも共通する気がします。

蜷川  どの女性も「強さ」と「弱さ」の両方を兼ね備えていると思う。観客の方にもどこか一部分は「分かるな」って思うところがあるんじゃないかなと。

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3人は結果だけ見れば「悲劇のヒロイン」のようですが、そうではないと。

蜷川  客観的な事実としてみたら、結構ひどい目にあわされている、つらい側面もあるんですが、本人が幸せと思えば幸せなのである、という。今の時代って自分を信じるのがなかなか難しいと思うんですよね。情報量も多いし、SNS をやってれば、フォロワー数や「いいね!」の数で数値化されてしまうし。でも周囲のみんなが「これが幸せ」というものが、自分にとって幸せかどうかはわからないじゃないですか。

沢尻  恋愛だけではなくて、自分のしたいこと、好きなことに貪欲に生きるって、すごく正しいことだと思う。そこから見えてくる世界っていっぱいあると思うし。

蜷川  自分の中の何にフォーカスし、何を幸せと思うか。それを見る目を持つことができたら、そして「自分にとっての幸せ」をたくさんの人が勝ち取れることができたらいいなって思います。

「太宰治と3人の女たち」 公開中

(C)2019「人間失格」製作委員会

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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