国から給料出ない(66%)だから違法な仕事(91%)でも自力で家購入(74%)――これは北朝鮮での話
国際社会の経済制裁にさいなまれて、北朝鮮住民10人に6人が“表の仕事”による収入を得られなかった――。韓国の研究機関が2019年に韓国入りした脱北者を対象に実施した調査で明らかになった。一方で、非合法の経済活動が激増し、経済難なのに「自分の資産で住宅を購入した」という人が4分の3近くもいて、北朝鮮経済の歪さが浮き彫りになっている。
◇2019~20年の脱北者対象
調査は「2020北朝鮮社会変動と住民意識」と題するもので、ソウル大の統一平和研究院が今年7~8月実施。インターネット上で10月29日に開いた学術会議で発表した。
対象となったのは、韓国在住の北朝鮮出身者109人。出身地別では両江道77人▽咸鏡北道15人▽咸鏡南道5人▽黄海北道と慈江道各3人▽平安南道・北道各2人▽平壌と江原道が各1人――となっている。両江道や咸鏡北道からの脱北者が多いのは、中国と国境を接し、密貿易が盛んな地域である点も影響しているようだ。
年齢は20代が44人と最も多く、10~30代で全体56%。最近は「自由への憧れ」を理由に脱北する若者が増えているとされ、それに呼応する比率となっている。また朝鮮労働党員・候補党員は13.7%であり、7~8人に党員1人といわれる北朝鮮の事情と合っている。
109人のうち、108人が2019年、1人が2020年にそれぞれ韓国入りしている。
◇公式・非公式の経済活動
北朝鮮では、住民は希望の職種を表明できるが、どこで働くかは当局によって割り当てられる。
今回の調査では、国の仕事(公式の経済活動)に携わった割合は71.6%で、昨年調査時(75.9%)、一昨年(90.8%)に比べ落ち込んでいる。また「公式の経済活動で働いても収入を得られなかった」と答えた割合は66%だった。制裁強化によって、国が運営する企業所や工場の生産活動が低下している実態が明確になった。
このため「非合法の経済活動」への依存が高まり、2012年に集計を取り始めて以後、90%台を維持し続けている。今回は91.7%だった。
北朝鮮経済が困難な理由として、24.8%が「過度な軍事費支出」、23.9%が「改革開放をしていないため」、16.5%が「最高指導者のため」――を挙げ、回答者の多くが、経済回復に「資本主義の導入」「経済管理方法の改善」「外国との経済協力拡大」などが必要と答えている。
◇食生活は安定
食生活に関しては、欠食者はほとんどおらず、概ね安定しているようだ。ただ「1日の食事は3回以上」は83.5%で、前年(87.9%)より落ち込んでいる。68.8%が「主食のほとんどが白米だった」と答えている。
一方、肉の摂取回数について「ほぼ毎日食べた」は10.1%と、前年(15.5%)より大幅に減少している。「週に何回か」も44%で、前年(46.6%)より減少した。
北朝鮮では昨年5月にアフリカ豚コレラ(ASF)が確認されており、同研究院は「ASFの影響で肉の摂取量が減少した」と分析している。
住居に関連して、自身の資産で自宅を購入したという回答が74.3%と昨年(58.6%)より急激に伸びた。研究者の1人は「住宅市場が活性化され、住宅の私有化がかなり進んでいる」と指摘している。
医療に関し、北朝鮮は「無償治療制度」を導入している。だが、病院に医療機器や医薬品が不足し、医療環境は非常に厳しい状況という。このためヤミの医療行為が拡大し、90%近くが「利用したことがある」と回答している。
コンピュータはほぼ半数の49.1%が「利用したことがある」と答え、昨年(44%)より増えた。北朝鮮当局は国内向けイントラネット「光明網」の普及を宣伝しているが、これに接続経験のある人は8.3%にとどまっている。
今回の調査結果に関連し、統一研究院の研究者は「来年の調査では、制裁の長期化と新型コロナ対策での国境封鎖、水害などの『三重苦』が反映されるため、生活全般の調査結果は大きく落ち込むことが予想される」と危惧している。