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店や小売は今後どうなっていくのか。「実店舗にこだわらない」スタートアップの事例(1)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ブルックリンで見かけたセンスのよい店 (c)Kasumi Abe

前回投稿した記事について、さまざまな声をお寄せいただいた。

店を継続か閉店かという議論において、アメリカでは「都市開発」の観点ではなく、単にマーケティングの観点からも「店舗を持つか、持たないか」について、議論が繰り広げられている。

近年、リテール(小売)業界はまさに過渡期と言われており、新事業を興す際に実店舗を持つか否か(すでに持っている店なら、このまま継続するか、前回の記事で触れた老舗のHenri Bendelのように惜しまれながら閉店するか)企業は模索中だ。

アマゾン、楽天、ZOZOなどEC大手企業の躍進や、InstagramやFacebookに代表されるSNSの台頭により、インターネットを使ったリテールへの期待値がますます高まっており、実店舗での売り上げが伸び悩んでいる企業は多い。

そんななか先日ニューヨークでは、デジタルマーケティング系メディアのDigidayが、小売業界関係者を対象に「リテールフォーラム」(Retail Forum)を開催。大手企業から、創業して日の浅いスタートアップまで、代表らが登壇し、講演やパネルディスカッションを行った。

本稿では「実店舗を持たない企業」(1)と「実店舗にこだわる企業」(2)、それぞれの代表が考える「リテールの現状とこれから」を紹介する。

小売業界の発展を目指し、各社の代表や幹部がフォーラム(公開討論会)で意見交換した。(c)Kasumi Abe
小売業界の発展を目指し、各社の代表や幹部がフォーラム(公開討論会)で意見交換した。(c)Kasumi Abe
会場は、マンハッタンのTIAAファイナンシャル・サービスビル内。(c)Kasumi Abe
会場は、マンハッタンのTIAAファイナンシャル・サービスビル内。(c)Kasumi Abe

実店舗にこだわらない企業例:

キーポイントは「カスタムすること」

まず私が注目したのは、カスタムスキンケア商品をECサイトで提供するCurologyの企業事例だ。2014年創業のスタートアップで、オフィスはサンディエゴにあるが実店舗を持っていない。

一般的にスキンケア商品を購入する際、デパートの化粧品売り場やドラッグストアに行き、一般大衆向けに大量生産された商品の中から「自分の肌に合ってそう」なものを選ぶ。

しかしCurologyが目をつけたのは、商品を1人ひとりの肌状態に応じてカスタムすること(カスタマイゼーション)だった。

ニキビ、シミ、シワ、乾燥、毛穴のつまりなど肌の悩みは人によって千差万別。そしてそんな悩みは年齢によっても異なり、一生涯の悩みだろう。

Curologyは皮膚科の専門医チームを作り、顧客それぞれの症状に合わせて調合したカスタムスキンケア商品を提供している。

「オフィスに常駐するプロバイダー(顧客ごとの個別担当者)がオンライン上で問診を行い、顧客は肌の状態を写真に撮って送るだけ。その情報をもとに処方箋を作り、専用ラボで皮膚科医が調合する」と、同社マーケティングSVP、Fabian Seelbach氏。

Curologyのウェブサイト。無料トライアルを設けており、月額たったの19.95ドルで利用できる。
Curologyのウェブサイト。無料トライアルを設けており、月額たったの19.95ドルで利用できる。

同社サービスの特徴は、

(1)サインアップのプロセスが簡単

顧客ごとのプロバイダーや皮膚科医が、利用者に合った製品を調合するため、(2)世界に一つだけの「自分仕様」のスキンケア商品を届ける「カスタマイゼーション」にあると強調した。

問診は、現在使用中の避妊ピルの種類などプライバシーに突っ込んだ内容もあるが、顧客はより自分に合った商品を欲していることからどのような質問にも理解を示し、それが顧客満足度の高い商品作りにつながっているという。

「美肌の旅」へ共に出る

「一朝一夕で理想の美肌になる魔法はこの世に存在しない。何事も地道な努力が必要だ。肌の悩みが解決する必要な期間は年齢によっても異なるが、20代後半なら約10~30種類の商品をカスタムしながら使い続けてもらうことが多い」とSeelbach氏。

商品を使いはじめて肌の状態に変化が見られたらその都度処方箋が更新され、常に顧客の肌に合った商品をカスタムしていく。

CurologyのマーケティングSVP、Fabian Seelbach氏(右)。(c)Kasumi Abe
CurologyのマーケティングSVP、Fabian Seelbach氏(右)。(c)Kasumi Abe

マーケティングは代理店に任せず自社で

Curologyは以前、PRやマーケティング業務を代理店に任せていたが、現在は自社のクリエーティブチームで行なっており、優秀な人材確保のために投資を惜しまないという。

「ブランドイメージを正しく打ち出すために、マニュアルに沿った通り一遍のことをする代理店を使うことをやめた。そのかわりデザイナー、コピーライター、映像チームまですべてインハウスで抱えている」

メイン顧客が20代のため、SNSを使ったマーケティング戦略で重きを置いているのはFacebookとInstagram。より若年層向けにはYoutubeやSnapchatなど映像系の影響力も見逃せない。

「代理店を使わないマーケティングで必要なのは、インフルエンサーをうまく取り入れること。彼らはオーディエンスを熟知し、我々は商品を熟知している。そのコラボレーションで、顧客がどのような商品を欲しがっているのか、どのように満足しているのかを知ることができる」

店頭販売、なぜしない?

「店頭販売について考えたことはあるか?」との問いに、「もちろん。実店舗は言うまでもなく、すばらしい顧客体験プラットフォームだ」と同氏。

ただし、と続ける。

「我々のサービスが店頭販売に適しているか否かについて、社内で相当な時間をかけて議論を重ねてきた。なぜ未だに人々がドラッグストアに出向き、薬を処方してもらっているか? それはIDを確認するためだが、そのようなプロセスが我々のサービスに必要か? 答えはNoだった」

しかしまったく店頭販売をしないということではなく、これまでポップアップ形態の店舗をマンハッタンで1ヵ月オープンしたこともあり、実際に商品を手に取ってもらったり、その場で入会してもらったりと好評だったという。

ECサイトに重きを置きながらも、実店舗については今後も必要に応じて、期間限定でやっていく予定だと語った。

(「実店舗にこだわる」米ファッション衣料大手Expressのリテールの現状とこれからの展望は、次回紹介します)

(All photos and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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