Yahoo!ニュース

エジプト「サソリ」の大量出没で死傷者多数 原因は大雨

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
(提供:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

オリオン座は、サソリ座が天空に現れると、地平線の下に逃げるようにして去っていきます。毒針で刺され命を落としたオリオンにとって、サソリは恐ろしくて仕方がないのです。

大量出没したサソリ

このようにギリシャ神話の中でも、恐ろしいものの象徴として登場するサソリですが、先週末は、エジプト南部のアスワンに大量出没したもようです。サソリに刺され、3名が亡くなり、およそ500名が病院に搬送されたと、地元ニュースは伝えています。新型コロナワクチンの接種に従事していた多数の医者が、抗毒素による治療に当たっているようです。

このサソリは「ファット・テール・スコーピオン」と呼ばれ、サソリの中でももっとも猛毒な種類の一つとされているようです。刺されると、呼吸困難や筋肉の痙攣、異常な頭の動きなどが起こり、ひどい場合には一時間以内に死に至るといいます。

NASAの衛星写真に筆者加筆 (12日)
NASAの衛星写真に筆者加筆 (12日)

異常な豪雨

一体、何がサソリの大量発生を引き起こしたのでしょうか。

それは悪天の影響です。悪天といっても、ただならぬ規模です。そもそもエジプトは、世界でもっとも雨の少ない国で、その平均年間降水量は18ミリです。日本の年間降水量は1,700ミリですから、比べると日本のほぼ100分の1。そんなエジプトでも、とりわけ雨の少ない南部のアスワンでは、年間降水量はたった1ミリです。

そのアスワン周辺に12日(金)に、雷や雹を伴った珍しい大雨が降り、洪水が発生しました。当時のレーダーを見ると、短時間に一気に大雨が降ったことが分かります。この影響で複数の家屋が壊滅し、停電も起きたようです。

この豪雨のせいでサソリが流され、住宅地に身を潜めているそうなのです。サソリの他にヘビも流れてきたようで、当局はなるべく外出しないようにと、注意を促しています。

大雨の後は、生息地を追われたヘビやクモ、ネズミなどが住宅地に出没して人に危害を加えたり、蚊が大量発生して伝染病を広めたりすることがあります。しかし今回のように、サソリが人を襲うとは考えるだけでもぞっとします。

ちなみに世界全体では、年間3,250人がサソリに刺されて命を落としているそうです。落雷による死者数は2,000人ともいわれますから、それよりもずっと多いことになります。

※追記※

1. 当初サソリに刺されて死亡したと報道された3人は、いずれも感電死した兵士であったもようです。

2. 下はエジプトに大雨が降った時の衛星動画です。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

森さやかの最近の記事